第9話 神槍 李書文
同時刻、バッドリッチ邸。
「ようこそいらっしゃいました」とノアのパパは百人隊長を出迎えた。
「ご協力感謝しますバッドリッチ侯爵。私は百人隊長のエルラです」
派遣された百人隊長は女性だった。
汚れ1つない白銀のように美しい甲冑に身を包み、大剣を背負っている。
そして、エルラの背後、扉の隙間でチラリと見えた部隊。
外に待機しているのは100人の兵隊。 国が戦争時に主力をして使う本職の軍人集団。 体を鍛え、戦闘を行う専門のプロたちだ。
統率が取れ、隊長が建物の内部に入っても微動だにしない。
ノアのパパは部隊に畏怖を感じ、同時に練度の高さに信頼を感じた。
「実は…… お恥ずかしい事ですが……」とノアと書文の置き手紙を2通、エルラに渡した。
「なるほど、おてんばなお嬢さんだ」
「重ね重ね、お恥ずかしい。1人娘ゆえに、ついつい甘やかして育ててしまいました」
「しかし、もう1通の客人……李書文とは、あのエルフの書文ですか?」
「はい、娘の武術の先生にとお呼びして教えていただいております」
「……あの男が、先生に?」
「え?」とノアのパパは眉を顰めた。 誰がどう見ても、李書文は美しい女性ではないか?
「あぁ、すまない。今は女性だった。しかし……危うい」
そう言うとエルラは視線を逸らした。 その視線の先は、魔剣が潜伏していると斥候からの情報がある山だ。
(魔剣ソウカク、魔に堕ちた王宮魔術師が異世界から強者の魂を呼び寄せ、封じたと言うが……武術家に過剰反応するとも言われている)
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
エルラの予想は当たり、魔剣ソウカクは過剰反応していた。
なんせ、持ち主である盗賊を操り、その胸を貫いていたのだから……しかし……
「取り込んでいるの? 魔剣を自分の体の中に?」とノア。
だが、それを書文は否定した。
「――――否だ。あれは魔剣を体に取り込んでいると言うよりも、魔剣が人の体を奪っておる!」
確かに奇妙だった。胸から貫いているはずの刀身が背中から少しもはみ出していない。
もはや、柄の部分が胸に当たろうとしているにも関わらずだ。
そして、徐々に男の体に輝きが生まれ、全身を覆い始める。
それはもはや、変身と言えるほど神々しく―――― 光のシルエットが現す――――
少年のように小柄で背中には大きな羽が生えていた。
「天使?」と無意識に口にしていたノアだった。
しかし、無意識に反応したのはもう1人。
既に踏み込み、神槍と言われる一撃を繰り出していたのは書文だ!
『神槍』
八極拳士の条件は、絶招(八極拳において切り札、必殺技の事)の習得。
および、六合大槍と言われる槍術の習得である。
ならば神槍と言われる書文は、六合大槍の様々な秘術を獲得しているのかと言えばそうではない。
むしろ、真逆だ。
初めて、師から槍の教えを受ける日の事――――
「お主の目に狂が宿っておる!」
そう言うと書文の師は、槍の鍛錬を禁じた。
「許すのは、防御の払い2種と攻撃の突き1種。それを見る事だけじゃ!」
そうして、李書文は見様見真似で槍の練習を始めた。
毎日、基本の鍛錬を独学で続け、ようやく師匠に本格的な槍術の鍛錬を許可された時、書文が言った言葉は――――
「師匠……槍に技って必要ですか?」
どうしようもない言葉であった。
相手の攻撃を全て払い、神速の一撃を放てば負けることはない。 それは確かに正論であるが、同時に暴論でもある。
書文が言っている事をボクシングで例えるならば、
「素早く強烈なジャブとストレートを打ち続けれるなら、高等と言われるようなディフェンス技術はいらない」
って言ってるようなものである。
だが、事実――――
李書文はそれをやり続け、神槍と言われるほどに――――槍で無敗だった。
誰にも反応できない神速の槍が、天使のように変化した男を襲う。
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