OL、迎え撃つ
ミヤビを見送ったギルマスは、改めて冒険者たちを集める。
「お前ら怪我は治ったみたいだが、装備やなんやらが壊れたやつはいるか?」
「俺、鎧が破れてるわ」
「こっちも剣がまがってるな」
「あー俺もだわ…」
「よし壊れたやつらは修理代を控えておけ。後で商業ギルドからふんだくってくるからな」
「おー! ギルマス男前だー」
「助かるぜ、さすがギルマスだな!」
「その代わり、ごまかして請求すればどうなるかわかってるだろうな」
「も、もちろんさ…、そんなギルマスをごまかすなんてするわけないだろ…」
「あ、ああ、そうだよな…」
空笑いを浮かべる冒険者を冷たい目で睨むと、ギルマスは冒険者ギルドに戻っていった。
(嬢ちゃんの騎獣ってことで街に被害がなかったのが良かったな。カルロの馬鹿も大金を支払わずに済んでほっとしてるだろうが、冒険者への報酬と修理費用は全部あいつからふんだくる!)
ギルマスはギルドに戻ると、職員を集め商業ギルドに対する請求書を作成させる。当然修理費用は確定していないが、請求金額に上乗せした額に職員が驚くほどの金額となっていた。
「構わん!緊急要請への対応費用とでもいっておけ。冒険者ギルドに嘗めた真似をした慰謝料代わりだ!」
その後商業ギルドに届けられた請求書を見て、カルロの顔色が変わったのはいうまでもない。
「くそっ、冒険者ギルドの強欲さときたら…。何が緊急対応費用だ、足元を見やがって…」
カルロはひとり毒づくが、要請をかけた以上その費用を請求されるのは当然のことである。さらに今回は高圧的な態度を取ってしまっているため、支払いをごねれば冒険者ギルドが完全に敵に回ることになってしまう。結局請求額を素直に支払うしかないのだが、これにより商業ギルドでのカルロの評価は大きく下がることになってしまう。
~~~~~~~~~~
そしてミヤビは宿に戻ると、ひとり部屋で考え事をしていた。
(とりあえず足になる騎獣は手に入れたから、いつでも好きなところに行けるようになったわね。なんかこのままじゃ、ずっと馬鹿が押し寄せてくるのを相手にし続けないとダメみたいだし、いっそ遠くに旅に出ようかな…)
今回騎獣を手に入れたのは暇つぶしでもあったが、足の確保の為でもあった。見知らぬ他人と乗合馬車で移動するのは面倒が起こるのが目に見えているし、乗り心地も悪い。といって走って移動するのは速度的には問題ないが、ミヤビはこの世界の地理をほとんど知らないので道に迷うのは間違いないだろう。その結果元の世界で読んだ異世界ものから召喚魔法が使えればいいのでは?と思いついたのだ。
そして、セルジオの薦め通りグリフォンを手に入れた。
(でも帝国に手配されてるんじゃ、どこに行ってももめ事になるんだろうなぁ…。それにこの街も割と気に入ってるのよね、最初は絡んでくる馬鹿が多すぎて嫌だったけど、最近は冒険者も身ぎれいにして大分よくなってきたもんね)
(あとは、ステファンか…。なんか皇帝を倒す!みたいなこと言ってたけど、巻き込まれたら絶対めんどくさいわよね。悪い奴じゃないんだろうけど、ほんとどうしよっかなぁ…)
(自由にしていいって言われてもなぁ、元の世界みたいな無能な上司がいない分ずいぶん好きにやってる気がするし、もっと無茶苦茶をやってもいいのかなぁ…。まずは全力で魔法を使ってみようかな…)
結局結論も出ないまま、ミヤビはそのまま眠ってしまった。
すでに進発していたミヤビを捕縛するためのレイドがまもなく街に近づいてくることにも気づかずに…。
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「あと二日ほどでドルアーノの街に着くはずだが、今のところは平和だな」
「ああ、前回の奴らが全滅したって聞いたが、街までは問題なく到着できそうだな」
「地面に大穴が開くほどの大規模魔法が使われたらしいじゃねえか、いきなりぶっ放してきたりしないだろうな」
貴族殺害犯の確保のために急遽組まれたレイドには3名のSランク冒険者がリーダとして参加していた。オールマイティで剣と魔法を高度に使いこなし最強のSランクとして長年君臨し続けてきた"最強"オーレッド、魔法に特化した"賢者"セレスタン、そして剣聖の再来と言われる技量を持ちながらもその残忍な性格の為"狂剣"と呼ばれるガスパールがそれぞれのパーティのリーダに収まっている。パーティメンバもそれぞれCランク以上が20名以上と厳選されたメンバーで構成され、Sランクの魔物程度であれば十分の対抗できるだけの戦力であった。
前回の失敗を踏まえ"賢者"セレスタン率いる魔法に特化したパーティを前方に配置し、魔法の気配察知と対抗するシールドの役割を担っている。セレスタンが時間を稼いでいる間に"狂剣"ガスパールが近接戦闘パーティで突撃、"最強"オーレッドの率いるパーティがその支援と遊軍的な役割を担うことになっている。
いくらとんでもない魔法を放とうと、所詮女ひとりであることは変わりない。魔法に集中しているところを近接部隊が強襲すれば捕獲は十分可能と彼らは考えていた。
さらに"最強"オーレッドが遊軍として剣と魔法で支援する以上、女ひとりで対応できるはずなどない。初手の魔法さえセレスタンが防ぎきれば作戦の成功は疑いがなかった。そして"賢者"セレスタンが防げないような魔法を女ひとりで放つなどあり得ないことなのだ。
ガスパールは前回偵察に向かわせた男のことなどとうに忘れ去り、今回の報奨金の額を頭の中で計算するのみ夢中だった。
(捕縛は当然として、こいつらが例の女にやられてくれればさらに金が手に入るんだがな…。さすがにSランクのこいつらは無理でも、下っ端連中が程々にくたばってくれるのが理想ってとこか? 全員適当に弱らせとけばこいつらの半分ぐらいはくたばってくれねえかな…)
翌日にはドルアーノの街が見えるであろうところで、レイドのメンバーは野営の準備に入る。そして明日には捕縛作戦が開始されるということで、見張り以外は酒も飲まずに食事を終えると早々に眠りにつくのだった。
「うむ、どうも体調がすぐれんな…、どうも全身がだるい気がする」
「オーレッド殿もか、わたしも今朝は何か調子が悪い気がするのだ」
「おいおい、"最強"と"賢者"のふたりが女ひとりにビビってるのか?負けたときの言い訳を準備するとはみっともねえ」
翌朝目覚めたレイドメンバーは一部を除いて全員が体調不良を感じていた。動けないというほどではないが何となく調子が出ないという程度の為、作戦を延期しようとすることはなかったが直前の体調不良に言いようのない不安感を感じているのだった。
オーレッドとセレスタンも、不安感を感じてはいたがガスパールの煽りを聞くとそれ以上は口に出せなかった。そして予定通りの行動を決断すると体調不良を訴えるメンバーを叱咤激励し、ドルアーノの街に向けて進行を開始するのであった。
(ふふふ、馬鹿どもめ。食事に盛られたのにも気が付かないとはSランクとはいえまだまだ甘いな)
ガスパールは昨夜の食事に薬を混ぜ込ませ、その結果が今朝の体調不良を引き起こしたのだった。薬はガスパールが以前から決闘の相手や、高難度の依頼についた気に入らない相手によく使っていたもので、致死性はないが身体能力と集中力の低下を引き起こす、冒険者にとっては最悪の薬物であった。
体調不良とはいえCランク以上の冒険者の集団である。予定通りの速度でドルアーノの街を目視できる位置まで進行したのはさすがというべきだろう。
「これが、報告のあった大規模魔法の跡か…、すさまじいな…」
「地面が高温に包まれたようだな、しかし地面が融けるほどの高温とはすさまじいものだな…」
「セレスタンよ、お前ならこのぐらいはできるんだろ?」
「いや、高温だけかこの穴をあけるかのどちらかなら可能と思うが、両方を同時にとなると何の魔法かすら想像がつかない」
「おいおい"賢者"が想像もつかないって、相手の女は"賢者"以上ってことか?」
「少なくともそう考えておいた方が安全だろう、敵を過小評価するなど愚か者のする事だからな」
「セレスタンのいう通りだな、捕縛対象の女の能力予想を上方修正しておいた方がよさそうだ」
「確かにてめえらのいうとおりだな、多少の犠牲は覚悟しておいた方がよさそうだ」
「ふふ、"狂剣"らしくないな。お前なら多少のことは気にせずその剣でぶった切るだけとでも言いそうなものだがな」
「なんとでも言え、戦いは最後に勝つから楽しいんだよ。やばそうな相手なら雑魚どもをぶつけて様子を見るのは当たり前だ」
「自分のパーティメンバを雑魚呼ばわりとは、さすが"狂剣"ですね。とはいえ私もあなたの意見には賛成です。おそらくそれなりの犠牲は確実に出るでしょう」
「いずれにしろ、ここに攻撃の跡があるということは相手の射程圏内に入ったという事だ。全員気合いを入れろよ!」
オーレッドがレイドの全員に向けて発破をかける。ここからはいつ魔法が襲ってくるかわからないと全員が気を引き締める。
「予定通りセレスタンのチームが前衛だ。きっちり防いでくれよ」
「ああ、期待に沿うよう努力するよ」
レイドは予定通りの配置に動き出し、その隊形を整えていく。セレスタンの部隊は魔法検知で周囲の警戒を行いながらゆっくりとドルアーノの街に進みだす。
その進軍の姿がドルアーノの街の見張りに発見されたのはその直後のことだった。
そしてすでにミヤビはレイドの接近を検知しておりグリフィスを召喚しようとしていた。
「いちいち街の外で召喚するのもめんどうよね…」
ギルマスから街中での召喚は街中がパニックになるためやめて欲しいと懇願されたので、ミヤビは街の外で召喚しようとしていた。
その姿は前回同様ドレスアーマに包まれた完全武装されたものだった。
「グリフィスおいで!」
ミヤビが召喚すると周囲が輝きだし、グリフィスが現れた。
収納からドラゴンの皮で作られた首輪、銀色に輝くチョーカーのような形状に仕上げられたものをグリフィスの首に付ける。
「首輪をつけてないとだめなんだって、可愛いのを作ってもらったから我慢してね」
『主から頂けるものなら喜んでつけさせてもらおう』
「ふふ、グリフィスはいい子ね」
首輪をつけた後グリフィスの首をそのまま撫でてやると、グリフィスは気持ちよさそうに目を閉じた。
「今日は私を捕まえようとする馬鹿が来たから、殲滅するつもりなの。
どうせならグリフィスにも見てもらおうと呼び出したのよ、私を載せて馬鹿たちの上空まで行ってちょうだい。そこで魔法を使うからびっくりしないようにね」
『了解した。主の魔法はダンジョンで見たがあれを再び使うのだな?』
「ああ、あの凍らせた奴じゃないわよ。雷を落とすだけだから」
『主は複数の魔法属性を持っているのだな』
「全属性つかえるわよ。といってもちゃんと勉強したわけじゃないからあんまりよくわかってないんだけどね」
『全属性持ちなど初めて聞いた…、主はやはり規格外なのだな』
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