OL、ドラゴンを食す
夕食の席は前回と同様に、3人で囲むことになった。
「で、なんでまたセルジオの横なんだよ!」
「えー、だってこないだもそうだったじゃない?このメンバーだとこの席順がしっくりくるのよねぇ」
「なんかこないだの肉が食えなかったことを思い出すんだよなぁ」
「あー、そんなこともあったかもね?」
「確かお坊ちゃまの失言が原因だったかと?おかげで私は満足いくまでいただくことが出来ましたな」
「なんかこの席順は嫌な予感がする…」
「それってネタフリ?」
「違うよ!今日こそは絶対に食ってやる!」
「そうだ!お昼の貸しをここで使っちゃおうか?」
「嫌な予感しかしないんだが…」
「ステファンはドラゴンのお肉お預けで、貸し借り無しってのはどう?
さすがに化け物呼ばわりは納得いかないけど、だからってそれで酷いことするのも気が引けるしね」
「ちょ、これも酷くねぇか? 確かに借りにはしたけどよ…」
「お坊ちゃま、借りはなるべく早めに返しておく方がよろしいかと」
「じゃあ、決まりね!」
「なあ、やっぱり俺のこと嫌いなんじゃないのか…?」
「そこまで嫌いなら一緒にご飯なんか食べないよ?」
そこに夕食が運ばれてくる、ミヤビの皿には前回と同様ステーキがのせられているが、とろけるような艶がありその香りは想像を超えたものだった。
「すっごい美味しそう!」
ステーキを見るなり満面の笑みを浮かべたミヤビに、良く冷えたビールも差し出される。
「ありがとう!覚えててくれたんだね、いっただきまーす♪」
早速手を付けるミヤビをステファンとセルジオが見つめる。
「ほんと美味そうに食うよなぁ」
「ミヤビ様の食べる姿を見ると、こちらまで幸せな気持ちになれますな」
周りからも再び提供された高級肉、しかもドラゴンの肉に絶賛の声が上がる。
しかもそれを提供したのが時の人であるミヤビである。
ミヤビを崇める声も上がり、胃袋にミヤビへの感謝が刻みつけられていった。
そしてステファンと、セルジオの夕食も運ばれてくる。
「おー、やばい!滅茶苦茶美味そうだ!」
「これは見事なものですな、見ただけで空腹感が増してきます」
「じゃあ、ステファンはお預けってことで、セルジオさんどうぞ♪」
そこにすかさずミヤビの手が伸び、ステファンの皿をセルジオの前にもってくる。
「あーミヤビー!それだけは勘弁してくれ!借りは別の形で返すから、な、頼むよ!」
「だーめ、これぐらいのことでもないと貸しは帳消しにできないでしょ?
そもそも私の陰口を言うステファンが悪いんじゃない」
「あぁ…俺の、俺の肉がぁ…」
「また機会があれば提供してあげるから、今日は反省してなさい。
あー、それにしてもドラゴンってこんなに美味しいのね。ギルマスが最高級部位っていうだけのことはあるわね」
「確かに、あのドラゴンの姿からは想像できないほどの美味しさですな」
その後はドラゴン肉に夢中のミヤビはステファンがいることも忘れ、ただただ食事に集中していたのだった。
「あー、もうお腹いっぱい、さすがにもう入らないわ…」
結局ミヤビはステーキを6枚も平らげ、残ったビールをまったりと飲む。
「ええ、非常に満足な夕食でしたな」
「…そうだよね、きっと美味しかったんだよね…」
「さすがに少し運動しないとまずいかもね、まだまだお肉のストックはあるし解体してないミノもまだまだいるからね」
「また、ダンジョンでも参りますか?」
「これ以上ストックを増やしてもねぇ。でもドラゴンがまたいるなら行っても良いかも」
「では素材は私とお坊ちゃまで持てるだけにして、ドラゴンだけミヤビ様が持ち帰られてはいかがでしょう?」
「それならいいかもね。このあいだのダンジョンで大分レベルアップしたから、次はもっと簡単に進めるだろうし」
「おや、それほどレベルが上がられたのですか?ちなみに今のレベルをお伺いしてもよろしいですか?」
「えっとね、たしかLV68よ」
「68でその強さですか…ミヤビ様は規格外でいらっしゃいますな」
「セルジオさんはいくつなの?」
「私はLV238でございます。これでも元Sランクでございまして」
「そうそう聞きたかったの、AランクとかSランクってどれぐらいの強さなの?
ステファンがAランクっていってた思うんだけど、正直違いがわかんないのよ」
「確かに、ミヤビ様からすればAランクもSランクも大差ないように見えるのでしょうね。
大体ですがAランク5人相当の戦力をSランクが持つと考えていただければよろしいかと」
「つまりステファン5人分がセルジオさんってことね?」
「先日のミヤビ様の戦いを拝見させて頂きましたが、ミヤビ様はすでにSランク以上でギルドでの測定不能ランクSSS《スリーエス》に該当することになるでしょう」
「なんか人じゃないっていわれてるみたいよね…まいっか。じゃあさ、ステータスってどれぐらいあるか聞いてもいい?」
「詳細はご容赦いただければと思いますが、私の場合平均で500程度、最大1000程度になります」
「そんなもんなんだ…Sランクって冒険者の最高峰なんだよね?」
「ええ、帝国でも現在Sランクのものは10名程度と聞いております。
ちなみに、ミヤビ様のステータスをお聞きしてもよろしいですか?」
「なんかねぇ、そんな話聞くとちょっと言いづらいわねぇ。
でもセルジオさんから聞いておいて私が言わないってのもだめだよね…」
「いえいえ、ステータスは冒険者として隠すのは当然のことです。
自身の強さを隠すのは強者であればあるほど当然の様に行うものですから。
正直ミヤビ様のステータスには興味はありますが、決して強要するようなことは致しません」
「やっぱりセルジオさんは良い人だよねぇ。じゃあだいたいの平均だけ教えるね。
できたら内緒にしててね、えっと13万ぐらいあるんだよね」
「…すみません、耳が遠くなっていたのか万と聞こえたのですが…」
「そうだよ、13万」
「はあ!なんだその数字は!」
「お坊ちゃま!声がおおきゅうございます」
「すまない、だがもはや人間の到達できるような数字じゃねえぞ、それ…」
「あれステファン生きてたんだ?」
「今の今まで落ち込んでたけどな、今の話で復活したよ」
「あら、残念」
「いや、マジでミヤビのステータスってそうなのか?
そんなの伝承にある勇者でもあり得ない数字だぞ」
「勇者っているんだ?」
「あくまでも伝承だぞ、100万の軍を打ち破ったとか胡散臭い話なんだが、いちおう伝承として残されているんだ」
「それって勇者って職業なの?」
「ああ、恐らくそうだろう。例えば俺の職業は剣士なんだが、その場合剣を振るのに必要なステータスやスキルが優先的に成長するんだ。しかし勇者はそれがすべて成長するらしい、そのせいでレベルが上がるほど差が広がっていき他の職業を圧倒するらしい」
「じゃあ、勇者も最初は弱かったけど努力して強くなったんだね」
「なあ、ひょっとしてミヤビは勇者なんじゃないか?」
「なんで?」
「いやそれ以外にそんなステータスあり得ない、ってか勇者でもあり得ないよな…」
「ステータスは乙女の秘密だから内緒よ」
「誰が乙女だって?」
「なに?文句あるの?」
「…ごめんなさい…」
「お坊ちゃま…」
「話は戻るけど、ダンジョンって他にはないの?できればもうちょっと手ごたえがあるといいんだけど」
「ミヤビが手ごたえがあるって無理だろ。そのステータスで手ごたえあるんだったら他の冒険者には手も足も出ないことになるからな」
「たしか、最上位難度のダンジョンがございましたが、そこは10階層も到達されていなかったはず。おそらく10階のボスがドラゴンと噂されていますが未だ確認されていなかったはずです」
「へぇ、そこならちょっとは楽しめるかな?」
「さすがにそこは俺達は付いて行けないぞ。ミヤビも俺達を守りながらなんか無理だろ?」
「うーん、二人を守りながらって縛りがあれば楽しめるかも」
「縛りって、最上位難度のダンジョンだぞ? 全力でアタックしても無事に進めるかわからないようなとこだぞ」
「お坊ちゃま、ミヤビ様ですぞ」
「そっか、ミヤビだもんな…」
「なんか失礼な事いわれてない?でもさぁ、こないだの100階層が10階層に相当するなら、10倍強いってことでしょ?」
「いや、ドラゴンっていってもこないだみたいなエンシェントドラゴンじゃなくて、ただのドラゴンだと思うぞ。普通はただのドラゴンでも相当な脅威なんだがな…」
「そっか、じゃあ大したことなさそうだね」
「最上位難度のダンジョンを大したことないとか…やっぱミヤビだな」
「ステファンって、やっぱり失礼よね」
「お坊ちゃま、夕食の件でもう少し学習された方がよろしいかと」
「おー、ミヤビはすごく強いってことだな、うんうん」
「はあ、もういわ。それよりギルマスが装備作ってくれるっていってたんだけど、どれぐらいかかるものなの?」
「職人がつきっきりで一週間か、物によってそれ以上といったところですかな」
「そうだな、今回はドラゴンの素材だろ?職人は放っておいても付きっきりでやるだろうさ、死ぬまでに触れるかどうかってぐらい貴重な素材だからな」
「あのね?ギルマスに丸投げになってるから一度見に行った方がいいかなって思うんだけど、普通は依頼するときってどうするものなの?」
「そうだなぁ、冒険者なら素材を職人の所に持ち込んで、いろいろ相談するもんだな」
「ええ、特に防具などは自身の戦い方にあったものや、弱点の補強のための特性など身に付ける者によってずいぶん違いがありますから」
「じゃあ一度顔を出しておいた方がいいわね。明日も暇でしょ?付き合ってくれる?」
「まあ、暇なんだけどな…もうちょっと言い方ってもんがあるだろ」
「ステファンだしいいじゃん。明日朝食を食べたら行きましょう」
「…わかったよ、じゃあ明日な」
~~~~~~~~~~
「ねえ、ミヤビさんって私を助けてくれたお姉さんのこと?」
「ああ、恐らく間違いないだろう」
門番の詰め所には、領主の館から逃げてきたサラと門番たちの姿があった。
領主殺害の犯人確保のため本来であればサラも逮捕されて牢獄につながれているはずだが、すでにミヤビによるものと明らかになっているため、サラは領主の被害者という立場でこの詰め所で暮らしている。行き場所もなく金も持たないサラを門番たちが不憫に思い、詰め所の家政婦として雇うことにしたのだ。
「一度お礼に行きたいんだけど、だめかな?」
「一応立場的には犯罪者と衛兵なんだよな、ただ嫌われ者の領主だったのとミヤビの捕獲が実質不可能ってことで今は放置されているんだよ。だからサラがひとりで行くのはいいが俺達と一緒となるとちょっとややこしいことになるんだ」
「ああ、犯罪者と衛兵が仲良くしてるとまずいってことね?
でもミヤビさんって犯罪者って感じがしないよね、どっちかっていうと正義の味方っぽいよ」
「そうなんだよな、それが問題なんだ。街の住民も領主の悪行は良く知っているし、これまでさんざん嫌な思いをしてきてるんだ。そこに領主に逆らって返り討ちにした、いわば正義のヒーロー的な位置にミヤビは奇麗に収まってしまったんだよ」
「なるほどね、じゃあこのままミヤビさんは無事ってこと?」
「街の住人はミヤビのことを英雄視して祀り上げている、そんなミヤビを俺達が捕まえてみろ、最悪暴動がおこるからな。そういう理由で暫くは無事だろう。
だが、すでに帝都に貴族殺しの報をもった連絡員が向かっている。その結果帝都後どう動くかで、今後のことが変わってくるだろうな。だが連邦とのこともあるから、簡単に兵を動かすことも出来ないだろうし、俺たちしたっぱにはこれ以上はわからんな」
「いろいろややこしいんだね?私はミヤビさんが無事ならそれでいいや」
「ああ、ミヤビはそんな悪人じゃないと俺も個人的には思っている。なにより街の平和がいちばんだし、このまま無事に済むといいな」
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