第1613話 結界ドン

「ホー! なんか寝てる!?」


「ガゥー!」


 なにか外が騒がしいです。ったく、コーヒー飲んでんだから静かにしてちょうだい!


「ミミッチーさんとプリンさんが帰ってきたんじゃないですか」


 番犬──番梟のクセに出歩くとか自由だな。大人しく籠に入ってホーホー鳴いてろや。


「メイド、食べていいホー?」


 ホーを変な語尾にすんじゃねーよ。キャラブレてんぞ。


「ふぐーふぐー」


「活きいいホー!」


「ガゥー!」


 なんかすっかり仲良くなってんな、こいつら? 梟とゴブリンにどんな友情物語があったんだか。まったく興味がねーな。


「べー様に許可を得てくださいね」


 サラッとオレに振るメイドさん。や、やるじゃねーか。


「外でやれ」


 カバ美を外に放り出したら結界を解いてやった。あと、離れを覆う結界を強化した。


「またそういう乱暴を」


「イイんだよ。獣なんぞ力で語らねーと納得しねー生きもんだからな」


 まあ、人も同じか。上か下かでしか語れねーアホが多いからよ。


「あ、なんか甘いものあったらちょうだい」


 ちょっと小腹が空いた。夜まで待つのもなんだからオヤツとしよう。


「ガトーショコラのケーキでよろしいですか?」


「ああ、それでイイよ」


 ガトーショコラってなんだっけ? なんかどこかで聞いたような記憶はあるけどよ。


「あ、わたしもお願いします! ユウコさん、体借りますね」


 幽霊より存在感の薄いユウコさん。乗っ取られている弊害か?


「わたしも食べる! 飲み物はオレンジジュースで」


 ユウコさんより存在感のねーメルヘン。食うときは主張してくるよな。


「お待たせしました」


 メイドさんがだしてくれたガトーショコラなるケーキは、チョコレートケーキだった。


「甘くて美味しいです!」


 ここ数日で完全に味を覚えたレイコさん。てか、甘党だったとはな。いや、ユウコさんが甘党なのか? ややこしいな。


 黙々と食べていると、バン! ドアが開いた。


 なんや? と視線を向けたらボロボロのカバ美ちゃん。なかなか激闘が繰り広げられたようだ。


「お前も食うか?」


 大量に作ったようで、ガトーショコラはまだたくさんある。遠慮しなくてイイぞ。


「……た、食べる!」


 のしのしと入ってきて、席に座ると器用に爪でフォークをつかみ、ガトーショコラを食べ始めた。


「旨いか?」


「……美味しいわよ……」


 なんか律儀なヤツである。カバ子と同じで狂暴だけど。


 直径二十センチくらいのをぺろりと食べ、出された紅茶をいっきに飲み干すと、ハァーとため息をついた。


「もうイイのか? まだあるぞ」


 てか、カバって雑食だったっけ? チョコレートとか食わせてイイんだっけ?


「もういい。わたし、少食だから」


 直径二十センチくらいのケーキを一つ食べて少食なんだ。カバの胃はよーわからんな。


 安全のためにオレとカバ美の間に張っていた結界にカバ美のパンチ(いや、張り手か?)が激突した。


「凄い力だ」


 カバ子も凄い力だったが、そういう種族なんだろうか?


「あんた何者よ?」


「オレはべー。村人だ。そして、プリグローグの生徒だな」


「プリグローグですって!」


 また結界ドンをするカバ美。確かにミミッチーやプリンが勝てる力じゃねーな。


「あの悪魔はどこだ!」


 相変わらず恨まれることばかりしている先生だ。


「ヤオヨロズ国のクレンイン湖の近くに建つ館で眠っているよ」


 そう教えてやると、席を立って離れを飛び出していった。


「見た目は魔術師っぽいが、中身は脳筋みたいだな」


「怒りで我を忘れているだけじゃないですか? それより、ミミッチーさんとプリンさん、大丈夫なんですか?」


「生きてはいるよ」


 あんな珍獣でも預かった以上責任がある。易々と殺させはしないさ。


「なんかボコボコにされているわよ」


 死んでないのならオールオッケーさ。


「あ、メイドさん。なんかしょっぱいものちょうだい」


 口ん中が甘くてしょうがない。しょっぱいものでさっぱりしてーぜ。


「漬物でよろしいですか? ドアラさんのお家からいただきました」


 お、おばちゃんの漬物か。そりゃイイ。


「渋いお茶もよろしく」


 ちょっと食いすぎだが、まあ、夕食は少なくしてもらったらイイさ。

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