第1606話 お社山

 やっとこさ地上に出た。なんか祠から。


「ん? 神社?」


 なんか目の前に神社がある。いや、神社の裏か?


「ああ。山の神を祭るお社だ」


 お社ね。ここを造るのに転生者が関わっているのか? 真っ赤な鳥居が太陽に照らされて眩しいよ……。


「ここは、ゼルフィング伯爵の管理地なのかい?」


「ああ。王都からかなり離れているが、ハイニフィニー王国内でゼルフィング伯爵領だ」


「そうか。なら、王弟さんに言ってゼルフィング伯爵領として残してもらおう。誰かこの地を管理するヤツを選んでくれ。うちが全面的に協力するからよ」


 先生が目覚めたら連れてきてやろう。どんな姉妹関係を築いていたか知らねーが、最後に肉親に会っておくのもイイだろうよ。どうでもイイってんならそのまま放置しておけばイイんだからな。


「……なんか懐かしい光景だ……」


 実家の近くにあった山の上の神社。祭りとかするほど大きな神社ではなかったが、オレたち兄弟や幼馴染みたちとのイイ遊び場だったっけな……。


 一回りしてみると、お社はよく手入れされていた。


「毎日、手入れしてんのかい?」


「この下に村がある。そこの者らに手入れさせているよ」


 村? 階段のところに向かうと、確かに眼下に村が広がっていた。まあ、雪に埋もれてはな。


「村の者と面識はあるのかい?」


「主な長老とはある」


「じゃあ、会っておくか。ゼルフィング伯爵家が代替わりしたってな」


 なにも知らないってのも今後のことに支障が出てくる。おばちゃんの顔を知っているなら会っておくべきだろう。


「べー様。あのカバが階段を上がってきます」


 雪を無限鞄に放り込んで階段を下りていると、ばあちゃんの膝の上にいるドレミが声を上げた。


「あの結界を破ったのか?」


 そんな力があるとは思わなかったんだがな。魔法かなんかで破ったのかな?


「ヘキサゴン結界!」


 で、お社がある山を囲む。


 さすがに山一つを覆うには時間がかかるな。


 ヨシダを抜いて二倍速。で、お社──山をヘキサゴン結界で包み込んだ。ふー。さすがにしんどいわー。


「べー様」


 振り返ると、魔女っ娘スタイルのカバ美ちゃん。世界でも相手にしそうな出で立ちであった。


「逃がさないわ!」


 前足? をこちらに突き出すと、魔法陣が展開。紅蓮の炎が撃ち出された。


「結界」


 で、包み込む。すっかり出番がなくなったが、朧改(拳銃ね)の弾にしようっと。


「まだまだよ!」


 何度も撃ち出してくるが、ヨシダを持つオレの結界のほうが上。何万発撃とうが破られることはねー。


 底なし、ってわけじゃなく二十数発で膝を崩してしまった。


「本当にまだまだだったな」


 人外級の魔法だが、まだ人外の粋に手をかけたくらい。まだオレの相手じゃねーよ。いや、ヨシダを使わなかったらヤバかったけどね!


「捕縛!」


 で、魔女っ娘カバ美ちゃんを捕らえた。このまま放置しておくと村を破壊されかねねー。不本意ではあるがエリナに丸投げしよう。


「なにが不本意なんですか? 丸投げしようとしてるのに」


 こいつを連れていくこと。エリナに丸投げすることだよ。混ぜるな危険なヤツなんだからよ。


 それでもカバ美を預けられるところはエリナのところしかねー。この世に人外魔境があるとしたらあそこだけだからな。


「……は、放せ……」


 やはり魔法で結界を破ったようで、結界が消滅していってる。こいつ、どんだけだよ?


「大人しくしていろ。人外魔境に連れてってやるからよ」


 とりあえず、猿轡させて結界を強化。空飛ぶ結界に乗せて階段を下りた。

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