第1605話 かばカバ河馬ヒポポタマス

「……また階段かよ……」


 薄く光る石に照らされた階段が、遥か上に延びている。


「どのくらい続いてんだい?」


「詳しくは知らないが、とても長く続いているとは伝わっている」


 まあ、そんなこと聞いて試してみようと思うヤツは少ねーだろうな。オレも自力で登るのは諦めました。空飛ぶ結界でゴー!


 階段は非常階段くらいのサイズで、螺旋状に上へ続いている。


「目が回りそうになるな」


 時速五キロくらいで上がっているのだが、気分は遊園地のコーヒーカップに乗っているかのようだ。ちょっと酔ってきた……。


「べー様。外と繋がっているのなら転移バッチでいけるんじゃないですか? ユウコさんが目を回してます」


 乗り移ってんのに目が回るんだ。不思議だな。


「そうしたいんだが、門番ってのが気になってな。おもしろ門番なら見てみたいし」


 野次馬根性と言うのか、気になったら見たくなるのがオレという生き物。見ずに帰ったらずっと後悔しそうだ。


「門番におもしろいもおもしろくもありませんよ」


「たぶん、用意したのは先生だ。なら、見ておく価値はあるはずだ」


 あんな先生ではあるが、センスと技術は世界最悪。一周どころか百周回っておもしろくなっている。まあ、カバ子とかだったら湖に飛び込んじゃうかもな。※538話。


 少し速度を落とし、お茶でも飲みながら上っていった。


 一時間ほど上ったら体育館くらいの空間に出た。ここが門番のいるところか?


「……なんかファンシーなところだな……」


 なんだろう。とても嫌な予感がしてきたんですけど。


「誰!?」


 声がしたほうを見れば……うん。やっぱり。ピンクのカバが姿見の陰からこちらを見ていた。


「もしかして、昔、ご主人様が捕獲した炎帝の魔法使いですか!?」


 アハハ。見た目からは想像もつかない異名ですこと。


「つまり、カバ美だな」


 ハイ、決定。あいつはカバ美です。以後よろしこ! いや、以後はないんですけど!


「なんなのよ、あんたたちは?! 女の子の部屋にいきなり入ってくるなんて万死に値するわよ!」


 ……カバに言われてもな……。


 って正直な気持ちは出さない。なんだか口に出したら負けなような気がするんでな。


「ワリーワリー。ちょっと上にいくだけだから通してくれな」

 

 関わらないのが吉。さっさと通りすぎましょう、だ。


「通すわけないでしょう! 乙女の着替えを覗いておいて! 万死に値するわ!」


 あ、乙女なんですか。それはすんまそーん。脳内から抹消しまーす。


「あーはいはい。じゃあ、そういうことで」


 えーと、出口はどこですかー? あ、あそこですね。手すりに服なんてかけて行儀悪いゾ。


「燃えなさい!」


 紅蓮の炎が襲ってくるが、そんなもの結界で包み込み、次回、的が現れたらぶつけてやろうっと。


「なんなのよ!」


 ただの通りすがりの村人ですが、なにか?


 なんて答える暇なく炎が襲ってくる。炎帝と呼ばれているだけはある。カバだけど。


「……なんてバケモノなの……」


 オレから見たらお前のほうがバケモノだよ。つーか、住んでるところで暴れんなや。


「捕縛!」


 で、カバ美ちゃんゲットだぜ! 誰かモンスターな球を持ってきてー!


「捕まえてどうするんですか?」


「もちろん、リリースするよ。カバ子だけでも持て余してんだからよ」


 放置してるじゃん! とか言っちゃイヤン。あれはいるだけでオレの精神的負担になってんだよ!


「しばらくしたら解放するから大人しくしてろよ」


 カバ子よりは力がないようで、結界を破られる気配はねー。これなら一時間後に解放すればイイだろうよ。


「じゃあ、元気で暮らせよ」


 空飛ぶ結界を操り、上に続く階段へ向かい、また延々と続く螺旋階段を上がっていった。

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