第1546話 グヌヌ

「なんか目が回ってきたな」


 シープリット族のためにスロープにして螺旋状にしたのが悪かった。百メートルも回っていたら気持ち悪くなってきたわ。


「少し休もう」


「まだ降りて間もないじゃない」


 冒険者の三半規管は丈夫である。まったく酔ってもねーよ。


「オレは村人なんだよ。冒険者やシープリット族のように強くねーんだよ」


「この中で強いの、確実にべーだよね?」


 B級冒険者からの突っ込み。肉体的精神的の話ではないのですよ。


「オレは基本、殲滅技を極めてるから激しい動きやこういう地形の変化や気候の変化に慣れるまで時間がかかんだよ。冒険者のように臨機応変に対応できる体じゃねー」


「殲滅技を極める村人もどうかと思いますけどね」


 イイんだよ! オレは小技より大技が好きなんだから!


 踊り場を創り出し、ちょっとコーヒーブレイク。あーうめー。


「ねぇ。あっちにもう一つ壁があるわよ」


 うん? 壁? 


 一応、壁に結界灯を取りつけてきた。そっちの壁じゃないとすると内側に壁があるってことか?


「……暗くてわからん……」


 斥候のねーちゃん、どんだけ目がイイんだよ。


 と、アリテラが弓を構えて矢を射った。


 数秒して「カーン!」と音が返ってきた。確かになにか硬いものがあるようだ。


「……防壁か……?」


 ここは人魚が造ったものと考えるなら、外からの攻撃に備えるために何十もの防御壁を築くはず。


「……つまり、ここはシェルターか……?」


 宇宙からきてここに仮の住み家を造り、湖に住もうとしてた、ってことだろうか?


「こんなことなら見習いを連れてくるんだったな」


 記録係を忘れてくるとか一生の不覚だわ。


「見習いさんからしたら助かったと安堵するでしょうね。こんな壮大なもの、報告書に纏めるなんて酷ですよ」


 ま、まあ、確かにそうか。見習いの知識ではこれを言葉として残すには無理があるわな。


「まあ、ここの謎は歴史学者に任せたらイイさ」


 謎には興味はあるが、自ら解きたいとは思わねー。オレは他人の成果を見せてもらうだけで満足できる男だからな。


「しかし、ここをゴブリンが下りていったのか?」


 壁には蔦が生えてはいるが、何百メートルも下りていくとか並みの決意じゃ下りられんだろう? それとも他に入れる場所があるのか?


「よし。休憩終わり。下りるぞ」


 コーヒーを飲んで落ち着いた。あと百メートルは下りられる。


 また目が回ってきた頃にやっと底に到着できた。もうここで終わりにしてイイかな?


「ゴブリンの骨かしら?」


「結構あるわね」


 ねーちゃんたちの声に下を照らすと、結構な数の白骨が散らばっていた。


「古くてわからねーが、落下して死んだっぽいな」


 あの穴から入ったのは間違いねーが、大半は落下して死んだのかもしれんな。


「まずはここを拠点とするか。ねーちゃんたちは周辺を探ってくれ。誰か上にいって見習いと応援を呼んできてくれ」


「……見習いさんたちを助ける気はないんですね……」


 助ける? これは知的探究だよ。知識の番人を呼ばなくちゃイカンでしょ。


「……可哀想な見習いさんたち……」


 探究の前には多少の犠牲はつきもの。途中で倒れたらその屍は拾ってやるよ。


 土魔法では家を建てるほどの土はねーので、結界で家を創った。


「無駄に豪華なものを創りますよね」


 オレはどこであろうと家を創るときは快適を目指す男なんだよ。


「ゴブリンの白骨は邪魔だな」


 結界であらよっとお片付け。あとで外に散骨しておきましょう。


 シープリット族の休憩場もイイ感じにできた頃、見習い魔女たちとシープリット族の応援部隊がやって来た。


「よし、見習いども。ここで見たこと聞いたこと、一つ残らず記録しろ。それはこの世界のためになるんだからな」


「わたしたち三人には無理よ!」


「それもそうだな。ツンツインテールの提案を飲むとしよう」


「あれ? わたし、大変なこと言っちゃった感じ?」


「そうだな。こいつが素直に引いたときは碌でもない考えを思いついたときだ」


 さすがララちゃん。一緒に旅をしたのは伊達じゃねーな。


「よし、ツンツインテール。見習いを三人くらい引っ張ってこい。お前が戻って来ねーとララちゃんとモブ子が苦労するだけだ」


 クックックと笑ってみせる。


「なんの悪党よ!」


「失敬な。オレはタダ、才能ある若人らに試練を与えているだけさ」


 お前のほうが若いじゃん! とかは聞きませぬ。


「ほらほら。仲間を呼んで来な」


 グヌヌなツンツインテール。一分くらい葛藤してたが、ワンダーワンドを出して上空へ飛んでいった。


「たくさん連れておいで~!」


 見習いからの冷たい視線などなんのその。記録するためなら小さな代償だい。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る