第1487話 調和力
まずは双方、自己紹介を始めた。
ねーちゃんとあんちゃんは面識はある。オレが贔屓にしている商人だとわかって、お互いが接触し合ったからだ。
まあ、そこでどんな話をしたかまではわからんが、二人のやりとりを見てる限り、お互い認め合ってるのはわかった。
それでも会う機会はないので、お互いの現状を語り合って情報の照合を行っている。
そう言うところは世界貿易ギルドに入ってもキャラ被りはしないだろう。どちらかと言えばあんちゃんが押されそうな勢いだな。
「べー様がアバールさんを推すのもわかります。種族、人種、身分に関係なく間に入れるって、稀有な存在ですよね」
それがあんちゃんの強みであり、世界貿易ギルド長に推した理由だ。それはチャンターさんでもアダガさんでも無理だ。もちろん、婦人でもな。初見で相手を受け入れられる商人はそうはいないんだよ。
もちろん、オレを初見で受け入れた者はいる。公爵どの然り。殿さま然り、な。
そんな中であんちゃんは薄汚い姿をしたオレを対等の相手として、一人の客として扱った。オレが会長さんを差し置いても一番の商人と認めるところはそこなのだ。
「そう言う商人、他にもいそうですけど?」
探せばいるだろうな。だが、オレはあんちゃん以上の商人とは会ったことはねー。もちろん、あんちゃん以上の才能を持った者ならいくらでも会っているぜ。だが、その商才を超えるほどの調和力を持っているんだよ。その証拠が目の前で繰り広げられてるだろう。
「よく皆様がべー様は未来視ができるんじゃないかと言っていましたが、そう言いたくなる気持ちがよくわかりましたよ」
オレに未来視ができねーことはレイコさんが一番わかってんだろう。
「そうなんですよね。なのに、べー様が思い浮かべる未来に向かっている。まるで神の導きのように」
確かに大きな力にお膳立てされてる気はしないではないが、人の営みは人がするものだ。人が選択していかないとならねー。そこに神が介在したらダメだとオレは思う。
……まあ、神(?)から三つも能力もらっておいてなに言ってんだって話だがな……。
情報の擦り合わせが終われば婦人の紹介に移った。
さすがねーちゃんと言うべきか、婦人がフィアラと名乗ったらすぐにバリアルの伯爵夫人に直結させた。これだから頭のイイ海千山千の商人を相手するのは嫌なんだよな。
「優秀だとは思ってましたが、相当なやり手ですよね」
オレとしては冷静にこの状況を見ているダリムが相当なやり手に見えてきたよ。
これまで見習いどもの表情をそれとなく観察したが、ここまで冷静な目になれたヤツはいなかった。真面目な委員長さんほど状況についていけない目をしていた。
……もしかして、ダリムって見た目の年齢ではないのか……?
どこか達観したような老成を感じるんだよな。
「なにかしら?」
オレの視線に気がつき、オレに目を向けた。
「いや、この状況をどう報告するんだろうと思ってな。そばかすさんなら泣きながら状況を見てるぜ」
まあ、報告書のことを忘れるタイプでもありそうだがな。
「見たままを書くだけよ。判断するのは上の方だから」
「見たままを見た通りに書けるって、それはもう異常だ。必ず書いた者の心情や常識、思い込みが入るものだ。だから見習いどもはやり直しを受けてヒーヒー泣いてたんだろう」
「あなたは見てないようで見てるのね」
「それは見習いどもも同じだろう。見てないようでオレを見ているしな」
「未知の存在を探れとか見習いさんに酷なことさせますよね、あの魔女さんは」
それも勉強と思ってんだろう。いや、誰が未知な存在やねん! お前だよ! とか返されたら嫌だけどよ。
「わたしは古い考えをする性格だから」
「だからこそ新しいものを見ろと叡知の魔女さんに突き出されたわけか」
本当にダリムを買ってるようだな、叡知の魔女さんは。なんかわからないことに悔しくなってきたぜ。
「わたしは変わらないわ」
「変わらないなんてねーよ。人は嫌でも変わっていく生き物なんだよ」
イイほうにか悪いほうにかはわからんけど、そのままなんてあり得ねー。時を重ねる毎に人は変わるもの。ましてや人と接して生きていくなら尚更だ。
「そう考えると、叡知の魔女さんは教育者だな」
やり方は万人受けしねーけどな。
「まあ、変わりたくねーってんなら必死で自分を律するんだな。世界はダリムが思っている以上に目紛しいもんだよ」
時をゆっくりさせたいのならゆっくり流れる環境を作らなくちゃならない。横でドンドン発展してもそこだけはゆっくり流れる場所をな。
「そこで他人事のように見ている自称村人! おれらが納得する説明をしやがれ!」
ハァー。スローライフの最大の敵は輝かしい未来を求めるヤツかも知れないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます