第1486話 推薦
旨すぎて限界まで食ってしまった。
動くのも辛いので空飛ぶ結界を創り出し、ダリムを乗せてさっきの個室で落ち着くまで休ませてもらった。
「マイロード。コーヒーを淹れましょうか?」
「あ、ああ。頼む」
コーヒーが入る隙もなく胃がいっぱいだが、コーヒーが手元にあると落ち着く気がする。コーヒーはオレの万能薬だ。
礼を言って出してくれたカップをつかみ、コーヒーの香りを嗅いだ。うん、イイ匂いだ。
「ドレミ。わたしもコーヒーちょうだい」
オレ以上に食ったみっちょん。メルヘンの胃ってどうなってんだろうな?
「べーはいつもコーヒーばかりだな」
「まーな。けど、これはコファーだな」
味はコーヒーだが、オレの舌は誤魔化されねー。これは南の大陸にあったコファーだ。
「コファー?」
「南の大陸産のコーヒーだな。前にねーちゃんに飲ませたのはコーヒーモドキだな」
「そう言えば、王子様と文通してると言ってたね」
「つい最近、やっと声を聞けたよ。あれは絶対美少年だな。もう声からイケてたぜ」
まあ、ラーシュが美少年でも醜男でもオレらの友情が変わることはねー。いつまでもズッ友だ。
「その口振り、かなり深くまで南の大陸までいったな?」
「そんなに深くまではいけてねーよ。厄介な魔物に襲われて何日も寝込まされたからな」
あのときのことを思い出すと、己の弱さを痛感させられる。せめてX5に勝てるくらいにならないとな。あと、千段の階段を余裕で昇れる体力も身につけないと。
「……べーを寝込ませる魔物がいることも驚きだが、その年齢で波瀾万丈すぎるだろう……」
まあ、そうだな。オレはスローなライフをしたいだけなのによ。
「確実に放り投げた人生を送ってるようにしか見えませんけどね」
オレは諦めず、夢を求める不屈の男。スローなライフを捨てたりしないぜ!
「なぜそれをわたしに話した? なにが目的だ?」
やはりねーちゃんは見抜くか。あんちゃんとは違うベクトルで一流な商人だよ。
「ドレミ。あんちゃんがなにしてるかわかるか?」
「少々お待ちください。パープルに調べさせます」
ドレミの分離体も有限のようだ。
「──お待たせしました。ゼルフィング商会で婦人と会議をしています」
「婦人の部屋か?」
会頭室だっけ?
「はい。そこにいます」
それはよかった。あそこにも結界マークをつけておいて。
結界マークをつけているならそっちに戻る必要はなく転移結界門を創られる。あらほいっとな。
「ドレミ。開けてくれ」
まだ腹くっちくて動けないんですよ。
扉を開けると、婦人とあんちゃんが苦虫潰したような顔で立っていた。仕事中すんませんね。
「紫の猫が来たときから嫌な予感がしたが、まさかカムラの女獅子といるとはな。今度はなにをした?」
「いや、まだなにもしてないよ」
「カムラを揺るがすような薬を売りに来てなにもしてはないだろう」
ヤダ。すぐにバラさないでよ!
「あれか。もう慣れたとは言え、あんなもんが流通させたら戦争になっても不思議じゃねーぞ」
「帝国にも教えたが戦争にはなってないぜ」
なあ? とダリムを見た。
「あなた単体でも厄介なのに、あの館長ですら恐れる人外王国と戦争などできないわよ。帝国が一日としないで滅びるわ」
「見習いのクセに内部事情を知ってるな? アーベリアン王国が人外の国なんて見習いに教えるような叡知の魔女さんではないだろう?」
あれは必要ならしゃべるが、見習いにそこまで情報を伝えたりはしねーはずだ。しゃべったとなればダリムだからしゃべったってことだ。
「そう言えば、わたしだけ館長に教えられたわね? え? なぜ?」
それだけのものをダリムが持っているってことだ。ほんと、叡知の魔女さんはダリムになにを見ているんだ? 片鱗は見えるが、具体的なものはなんも見えねーぜ。
「で、いったいなんなんだ? おれたちを女獅子に会わせる理由は?」
「ねーちゃんを世界貿易ギルドに入れることを推薦する。判断は二人に任せるよ」
「世界貿易ギルド? それはなんだ?」
「細かいことは婦人とあんちゃんに聞いてくれ。商売のことはオレが語るより詳しく教えてくれるよ」
「商売以外のことはお前が話せよ。つーか、なにを考えてるか先に言え!」
迫って来るあんちゃんを結界でシャットアウト。今動かされたらリバースするから。
「また変な力使いやがって!」
「暴力に頼ろうとするあんちゃんが悪い。まあ、忙しくねーなら座れや」
「忙しいよ! お前が次から次へと仕事を投げつけてくるからな!」
「嫌なら放り出してイイぞ。ねーちゃんにやらせるから」
「わたしを生け贄にしないでくれ。アバールだからやれていると言うことがわかるやつれ方をしてるぞ」
「なんだあんちゃん、疲れてんのか? ならまた栄養剤を飲ませてやるよ」
「五日も寝ずに働きたくないわ!」
「そのあと死んだように眠れただろう?」
「五日間もな! そのあとまた三徹したよ!」
「若いとは言え、働きすぎはいかんぞ」
「それは仕事をガンバりすぎるあんちゃんがワリー。なんでもかんでも自分でやろうとするからだ。前も言ったが、任せられることは下に任せろ。上は任せたヤツの失敗の責任を取ればイイんだよ」
オレは婦人が失敗したらすべてをかけて責任を負うぜ。
「アバール。落ち着きましょう。べーがこうなのはあなたが一番知っていることでしょう」
さすが婦人。わかってるぅ~。
「まあ、商売のことはガチ商人に任せる。ねーちゃんもよく聞いて判断しな」
ため息の合唱を聞きながらすっかり冷めたコファーをいただいた。冷めてもウメー。
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