第1480話 契約してた!

 次はマーなんとかじいさんが息を切らしてやって来た。そのまま死なんでくれよ。


「久しぶり。相変わらず元気なじいさんだ」


 オレもこの年代になってもバリバリスローなライフを送っていたいもんだ。


「迷惑な老人になりそうね」


 たまに主張するメルヘンはお黙り。ってか、あなたまで人の心を読まないで。共存はコミュニケーションバケモノだけで間に合ってんだよ。


「え? もう共存契約してるわよ」


「ハァ? え? いつの間に? オレ、承諾した覚えはないんですけど!」


「外にいきたいって言ったら好きにしろって言ったじゃない」


「あー。言いましたね。なんとも簡単な共存契約ですね」


 いや、確かに好きにしろとは言ったが、あれで契約成立とかお手軽すぎんだろう! 下手なこと言えねーな!


「なにを言ってるんだい?」


「こっちのことだ。気にせんでくれ」


 いや、気にせずにはいられないことだけどよ。


「しかし、妖精か。同士の話ではもっと明るい妖精を頭に乗せてると聞いたが?」


「あら、わたし暗いかしら? 仲間内では活動的すぎて輪から外れてたんだけどね」


「プリッつあんと比べるのが間違ってる。アレは特異中の特異体だからな」


 オレはアレを普通とは認めねーぞ。


「だからこそべーに合うんでしょ。あの子、妖精とは思えないくらい社交性があるから」


 妖精から見てもプリッつあんは特異体のようだ。


「わたしはミッシェル。べーからはみっちょんと呼ばれているわ。好きなように呼んでちょうだい」


「ブリッシュ様もそうでしたが、ミッシェルさんもべー様に似てますよね。どうでもいいことにはとことんどうでもいいってところ」


 オレがブリッつあんと似てる? 真逆な性格してると思うんだがな。


「──そんなことはどうでもよい! 説明しろ!」


 あ、いたね、じいさん。名前のように存在感も消えてしまうじいさんだよ。


「説明もなにも薬を売りに来ただけだよ。ねーちゃんとじいさんを呼んだのは市会だ。求めるならそっちに求めな」


 オレの身元を確かめるために呼んだんだからそっちと話し合え。オレが言っても信用できんだろうからよ。


 市会のヤツらと話し合いが開始され、侃々諤々かんかんがくがくあーだこーだとオレの情報が共有されてます。スパイを送り込んでるわけじゃねーのによく知ってますこと。


 三十分くらいして市会のメンバーが納得し、巨乳ねーちゃんとじいさんが同じ席に、ってかテーブルを足して会議っぽくなってしまった。


「大袈裟だな」


「大袈裟なものを持って来たことを自覚しろ! お前でなければ一笑に付してるわ!」


「べーは笑い飛ばせないことばかりだからな」


「人生は笑い飛ばしたもんが勝ちだぜ」


 それはこの世界に生まれて学んだこと。そして、それ以上に突っ込むことも多いことがあると学んだけど!


「まあ、なんでもイイが、話を進めてくれや。こっちも暇じゃねーんでよ」


 双子を抱く時間割いて来てんだ。いつまでものんびりしてらんねーんだよ。


「のんびりしているところしか見てませんけどね」


 オレは人に忙しい姿を見せないタイプなんです。


「とにかく、取り分はそっちの言い値で構わねー。このエルクセプルを競りに出してくれ。効果は実証しただろう? それでも信じられねーってんならもう一本試してみな」


 数は減るが、五本もあれば館運営の資金や買いつけ金に不足することはねーはずだ。


「いや、べーがそうだと言うならそうなのだろう。真実はのらりくらりと誤魔化すが、ウソは言わないからな」


「その点、お前は信用も信頼もできる。お前が儲けようとするときは必ず損をするからな」


 本当にオレのことを熟知している。


「なぜカムラ王国に持ってきた」


「アーベリアン王国や帝国捌けねーし、これを買えるだけの国は六ヶ国でも二つか三つ。その二つか三つで伝手があるのはカムラ。だからここに来たんだよ」


 ワールドワイドな村人でもそうそう外国にいけたりはしねー。アーベリアン王国の王都より近いカムラだって数回しか来たことねーよ。


「数回いってる時点でそうそうではないと思うんですけどね」


 オレにはそうそうなんです。


「大騒ぎになるのを覚悟してるのか?」


「少なくともアーベリアン王国と帝国は大騒ぎにはなってねーな」


 どちらも大騒ぎにさせない力を持っている。ってな感じで笑ってみせた。


「オレとの伝手をなくしたいなら好きなだけ騒げばイイさ。オレはこの国のもんじゃねーからな」


 じゃあ、密入国かい! って言われたらそうですと答えておきましょう。


「姫勇者を預かり、バイブラスト公爵とも繋がりがある、か」


「加えて人魚の国とも繋がりがある」


「南の大陸とも繋がりがあるぜ」


「いったのか?」


「いっただけな。オカンが子を産んだから帰って来たよ」


「そう言えばザンバリー様とシャニラさんが結婚したんだったね。べーを調べると驚愕ばかりで忘れていたよ」


「まあ、挨拶にいくなら暖かくなってからにしろよ。まだ産まれたばかりだからよ」


 どうせオレとの繋ぎでいくだろうから釘をさしておく。


「オレはねーちゃんやじいさんを信じるんで、そっちで勝手に進めてくれや。思い出した頃にまた来るからよ」


 席を立ち、じーさんに目配せしてこの場から退出させてもらった。

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