第1393話 VHS
薬作りは夜中まで続け、バリアル時間に合わせるために睡眠薬を飲んで眠った。
「……目覚め、最悪だな……」
催眠効果があるものは色っぽい魔女さんから提供されたものだが、意識が重くて気持ち悪さが出るものだった。
九時くらいに起きたが、一時間くらい頭が働かなかった。
「これ、もっと改良したほうがイイんじゃねーか?」
「そうね。わたしも初めて使ったけど、ここまで最悪なものとは思わなかったわ」
色っぽい魔女さんも使ったことがないと言うので、治験がてら飲んだが、個体差ではなくこう言うものらしい。
「ドレミ。濃いコーヒーを頼む」
「どうぞ」
幼女型メイドになっているドレミにお願いしたらすぐにコーヒーを出してくれた。サンキュー。
「……うん。苦くて目が覚める」
苦くなくてもコーヒーを飲んだら目が覚めるけどな。
「動くの、午後からにしよう」
目は覚めたが、気分はまだ最悪のまま。動く気になれんよ。
「そうしてもらえると助かるわ。動ける気がしない……」
この睡眠薬、確実に失敗作だよな。
「マイロード。蒸しタオルです」
顔に蒸しタオルをかけられ、ゴシゴシと拭いてくれた。
「コリアント様、拭きますね」
あちらも蒸しタオルで顔を拭いてもらっているようだ。あ、魔女見習い、いたんだ! って突っ込みは止めておくれよ。
拭いてもらってちょっとスッキリ。楽になったよ。
そのまま瞼を閉じたまま体を横にしていると、婦人の娘が入ってきた。あ、おはよーさん。
「気分が優れないと聞きましたが、そんなに酷いのですか?」
「まあ、それなりにな」
健康優良体だったせいか、体調不良のときはかなりキツく感じるのだ。
ハァ~。五トンのものを持っても平気な体も絶対ではねーってことか。これからは健康に気をつけて生きていかねーとな。
「暇なら変装して街を見てきたらどうだ? メイドさんたちがついてりゃ問題ねーだろうからな。いろは、分裂体を一人つけてやれ」
「イエス、マイロード」
街娘風のいろはが現れた。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ああ、どんどん甘えてイイよ。あんたはもううちの家族だからな。メイドさんたち、頼むわ」
婦人を引き抜いたときから守ると誓った。なら、その娘も守るのがオレの責任だ。まあ、実行するのはメイドさんだけど!
婦人の娘が出ていき、冷たいタオルをおでこに当ててもらって静かにしている。
このまま眠ってしまいたいが、それではいつまでもバリアル時間に合わせられねー。ガマンして眠らないように堪える。
「……暇だな……」
もう無音でも心穏やかになれるくらいになってたのに、体や気持ちが弱くなると静かなのがどうしようもなく寂しくなるものである。ほんと、健康とは欠かせない宝だぜ。
「マイロード。なにか観ますか? 創造主がカイナーズホームから大量にDVDを買いましたので、分裂体を通して映すことができます」
なにやらスライムの謎機能をカミングアウトされてしまった。
「……えーと、劇団マルセーヌのDVDとかあったりするか……?」
実を言うと、演劇とか好きなんだよね、オレ。この世界、旅芝居もねーから寂しかったんだよね。
「しばらくお待ちください」
外国の劇団だからDVDが出てるかわからんし、エリナが買っているかもわからん。ないならないで構わんさ。
「──ありました。VHSでしたが」
VHSとか、久しぶりに聞いたな! つーか、VHSまで売ってんのかよ、カイナーズホームは! ほんと、誰に需要があんだよ! いや、今まさにオレに需要があったけど!
「ま、まあ、観れるんならなんでもイイわ」
「わかりました」
幼女型メイドのドレミが何体も現れ、手を繋いだかと思ったらスライム化し、うにょうにょ動いたあとに五十インチくらいの画面となった。
またスライムの謎機能。こいつらはどこに向かって進化してるんだろうな? いや、進化させてるのはエリナだろうけどよ。
「では、開始します」
と、画面にノイズが走り、なんか懐かしい青色の画面になり、画像の荒い映像が映し出された。そこは忠実なんだ。
フランスの劇団だが、なぜかこの世界のことばになっている。そんなことできるなら映像をもっとクリアにしろや。なんの拘りだよ?
いろいろ突っ込みたいが、せっかく観せてくれるのだからありがたく観させていただきましょう。
「……こ、これは、いったい……?」
あ、魔女さんたちもいたんだっけ。完全に意識から外れていたわ。
「演劇、帝国にもあるだろう?」
あるって話は聞いたことがあるぜ。
「いえ、このスライムたちのことですよ」
「そこは管轄外だ。オレに聞かんでくれ」
オレはもうスライムの謎機能を追求する気はねー。超万能生命体に死角はねー。
「興味ねーなら場所を移すよ」
まったく動けねーってわけじゃねー。ゼロワン改+キャンピングカーに移るくらいはできる。
「いえ、構いません。わたしも演劇好きですから!」
「わたしも構いません」
「いいんじゃない」
魔女さんたちの賛同を得られたので、皆で演劇を観賞することにした。
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