第1391話 娘アリエス

 さっぱりさせて戻って来ると、見知らぬお嬢さんがいた。


 見た感じは大人びているが、感じからしてオレより下、ってところだろう。誰や?


「アリエス様ですよ」


 戸惑っているオレに、メイドさんが教えてくれた。レイコさん、知ってる?


「いえ、お初ですね。でも、誰かに似てますね」


 言われてみれば見覚えのある顔立ちだな。着ている服からイイところのお嬢さんなんだろうが、そんなところのお嬢さんと知り合いなんていないんだがな?


「フィアラ様のご息女です」


「あ、婦人の娘か!」


 思い出した。婦人に娘がいたことを。


 会話したこともなく、一瞬の邂逅だったから記憶から溢れ落ちてたよ。


「ってか、コーリンに預けてたよな?」


 まあ、花月館でも会わなかったけどよ。


「はい。ですが、コーリン様に学校で学びなさいと言われて通ってました」


 学校? あ、そういや、王都で拾った姉妹も学校に通ってたな。あ、いや、幼年学校だったっけか?


「コーリン、服以外のことにも頭が回るんだな」


 オレの中では服狂いとしてインプットされてるよ。


「んで、なんでここに? 休暇か?」


「いえ、べー様がバリアルへいくと聞きましたので、ご一緒させてもらえないかと思いまして。あ、これ、母からです」


 と、手紙を渡された。


 中を開き、文面を読むと娘が友達と会いたいと言うのでよろしくとのことだった。


 まあ、いろいろ急展開なことがあったし、友達との別れもできなかったんだろう。


「わかった。メイドさん。メイド長に言って護衛を用意してもらってくれや」


 魔族のメイドばかりだが、メイド長ならなんとかしてくれるはずだ。プリーズ、メイド長!


「その友達やらは、会いにいったらすぐに会ってくれるのか?」


 事情はあったにせよ、身分ある者が離婚した。それはセンセーショナルで恥ずべきことだ。いくら友達とは言え、会ってくれるかどうかわからんやろう。


「よろしくお願いします」


 つまり、オレになんとかしろってことらしい。ハァ~。


「会えるようにしたらイイんだな?」


 地位回復でないのなら問題ない。伯爵領なら周りは高くても男爵。その下に役人、あとは商人だからな。場を作るくらいならやりようはあるさ。


「はい。別れの挨拶もできませんでしたから」


「用意はできてるのか?」


「はい。用意はしてきました」


 準備がイイこと。


「じゃあ、護衛が来たら出発するか」


 できるメイド長さんでも用意に三十分くらいはかかるだろう。それまではゆっくりアイスコーヒーでも飲んで──。


「──お待たせしました」


 と、ダークエルフのメイドが現れた。


 一般的服を着て、長い耳をふわっとした髪で隠している。肌の色は内陸部では珍しくてもまったくいないわけじゃねー。隊商にもたまに混ざってる。そう目立ちはしねーだろう。


「ってか、もう用意してたのか。メイド長さんは本当に優秀だよ」


 どんだけ先を見通されているんだか。もしかするとミタさんより優秀なのかもしれんな。


「じゃあ、婦人の娘を頼むわ」


「畏まりました。お任せくださいませ」


「なにもないと思うが、メイドを何人かバリアルの街の近くに待機させておいてくれ。いや、飛空船でいくか。せっかく飛空船場を造ったんだからよ」


 忘れていたが、バリアルの街には飛空船場を造り、農産物を買っている、はず。全部、婦人に任せていてわかりませぬ!


「クレインの町には話を通してありますので、すぐに出発できるかと思います」


 本当に用意がイイな! オレ、見透かされてる!?


「そうか。じゃあ、少ししたらいくと伝えてくれ」


 風呂上がりでもうちょっとゆっくりしたい。それからでイイだろう。


「魔女さんたちも用意があるなら準備しな。って言うか、あんたらも普通の格好をしろや。魔女服は目立つからな」


 せめて三角帽子は取れ。つーか、うちの中でも被るものなのか? 邪魔じゃね?


「服がないわ」


「メイドさん。頼むわ。あと、アイスコーヒーちょうだい」


 きっと用意されてるだろうから着替えてこいや。


「皆さま。こちらへどうぞ」


 ダークエルフの一人が奥へと連れていき、離れのメイドさんがアイスコーヒーを出してくれた。


 まったく、まったりできる時間もねーぜ。

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