第1390話 色っぽい理由
なんだかんだと徹夜してしまった。
「……す、少し寝るわ……」
徹夜なんて何度もしてきたが、全集中で薬作りは神経を使う。さすがに限界だわ。
コンテナハウスの端にいき、気絶するように眠りへついてしまった。
そして、目覚めたら窓から陽が差していた。がっつり眠ちまったようだな……。
「ふぅわ~。体いてー」
畳を敷いたとは言え、固いところで眠ったから体が変な形で固まってるわ。
いかんな~。時差ボケで体を壊しそうだぜ。
「少し、体を動かすか」
その前に腹が減った。なんか食うとするか。
色っぽい魔女さんや見習いの二人もいなくなっており、コンテナハウスから出ると、なんかでっかいテントが張られていた。
なんや? と思いながら離れに入ると、青鬼のメイドさんがいた。交代するほど眠ってたようだ。
「おはようございます、べー様」
「ああ、おはよーさん。なんか食うもん頼むわ。あっさり系で」
腹は減ってるが、がっつり系は胃が受けつけねー。スープとかで胃を慣らしてから固いものをいただきたいと思いまする。
「海鮮粥でよろしいですか?」
海鮮粥? 随分とシャレオツなもんを作ってるな。
「ああ、それでイイよ。ところで、魔女さんは?」
「まだ眠っているかと思います。遅くまで作業をしてましたから」
魔女さんたちも徹夜してたっけな。
海鮮粥なるものを出してもらい、いただきます。お、旨いじゃん。中華風の味なんだ。
お代わりをもらい、バナナのチョコレートかけをデザートに出してもらった。
のんびり食後のコーヒーを飲んでいると、魔女さんたちが入ってきた。おはよーさん。
「お風呂、いいかしら?」
「はい。沸いてますのでどうぞ」
メイドさんが魔女さんたちを風呂へと連れていった。オレも腹が落ち着いたら風呂に入るか。
しばらくしてさっぱりした魔女さんたちが上がってきて、フルーツ牛乳を立ち飲みしている。
見習いはともかく、色っぽい魔女さんは本当に色っぽく飲むよな。なんか危ないもんでも出してんじゃねーだろうな?
「……もしかして、淫魔の血が流れてんのか……?」
夢魔族と混同されがちだが、この世界では別の種族とされており、魔人族の派生とされている、とかなんとか聞いたことがある。
「はい。淫魔の血が濃く流れています」
「なるほどね。だから無駄に色っぽいのか」
オレですら色っぽいと思うのだから普通の男には毒でしかなかろうよ。
「言っておくが、そっちの気はねーからな」
オレは正常。ただ、枯れてるだけだ。いや、色っぽいと感じるんだから枯れてはないのか? それなら嬉しいんだがな。
「知って尚、平然としていられますね。意識すると淫気が感じやすくなるのですが」
「そうだな。確かに色っぽさが増した気がする」
懐かしい。欲情ってこんな感じだったっけな~。
「そんなんじゃ、魔女の世界でしか生きられねーな」
オレですら欲情するんだから町に出たら阿鼻叫喚になるだろう。
「ってか、よくそれでここに来たな」
バリアルの街を阿鼻叫喚にされたら困るんだけど。
「魔女の服には淫気を抑える効果があるので、触れなければ大丈夫かと思います」
あ、だからか。今着てるのバスローブだし。
「魔女の服でも色っぽさは出てたし、完全に抑えられてねーだろう?」
「そう、ですね。たまに同性も狂わせてしまいます」
「大変だな、淫魔ってのは」
オレだったら山の中で一生を過ごすぞ。
「ちょっと待ってな」
無限鞄からトイレの腕輪を取り出し、仕掛けている結界を排除。色っぽい魔女さんに腕輪を装着させる。
結界を纏わせ、淫気だと思う力を感じ、封じてみる。
「……こんなものか……?」
オレの欲情では判断できんが、淫気はなくなったと思う。
「腕輪のぽっちを押してみてくれっかい?」
「これ、ですか?」
ぽっちを押すと、欲情が湧いてきた。
「うん。ちゃんと抑えられてた」
もう一度ぽっちを押してもらうと、欲情は綺麗さっぱり消えてくれた。
「……べー様の欲情も開閉式ですか……?」
開閉式ってなんだよ。そんな機能はねーよ。
「その腕輪はやるよ。好きな男が現れたら淫気を発動させな」
せっかく淫気を持ってるなら好きな男を落とすのも手っ取り早いだろうよ。まあ、その後は二人のガンバり次第だがな。
まだ愛とか恋とか甘いこと言える時代じゃねー。見合いとか紹介で結婚するのが当たり前。恋愛結婚するのは希だろうよ。
……オトンとオカンはその恋愛結婚だったけどな……。
「魔女は婚姻できませんが、ありがたくいただいておきます」
へー。魔女って結婚しちゃダメなんだ。まあ、魔女を止めたら結婚できるオチなんだろうからどうでもイイや。
「食事して落ち着いたらバリアルの街にいくんで、用意しててくれや」
そう言って風呂へと向かった。
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