第1378話 申し訳ありませぬ

「親父殿。今日の予定はあるかい?」


 朝食が終わり、食休みになったらそう尋ねた。


「予定? あ、ああ、村長のところの壁を修復手伝いにいくが、なにかあるのか?」


「ちょっと話があったんだが、予定があるならあとでイイよ。そう急ぐ話じゃねーから」


 あとでゆっくり話せばイイことだしな。


「オカンの予定は?」


「内職をしようかと思ってるよ」


 働かなくてもイイ身分になっても働くことを止めないオカン。染みついた貧乏性は一生抜けないか。


「なら、午前中は診療するから。オカンつきのメイドは誰だ?」


 と尋ねたら、近くの席にいたメイドが八人、立ち上がった。


 いや、いるのはわかっていたが、まさか八人もついているとは。どこぞの王妃にも負けてないな。いや、王妃のことなんも知らんけど!


「サラニラがいたら呼んでくれ。あ、無理なら呼ばなくてもイイからな」


 医者として忙しいだろうからな。


「畏まりました」


 一人のメイドが一礼して下がり、食堂を出ていった。


「オカンの体調管理なんかをやってたメイドはいるか?」


「わたしがしております」


 いつの間にか二代目メイド長が現れていた。ある意味、初代メイドより怖い人だよな……。


「オカンを診療するから館から出すなよ。あと、記録したものがあるなら見せてくれ」


「畏まりました。どこへ運べばよろしいでしょうか?」


「診療室、誰か使っているか?」


 一応、用意はしたが、使う暇なく出歩いているのがオレ。申し訳ごありませぬ。


「医療部が使っております。メイドの体調管理も必要になりましたので」


 そんな部門まで創ったんかい。どんだけ進化すんのが早いんだよ、うちのメイドは!?


「なら、オカンたちの寝室でイイや。その医療に関わっているヤツも一人呼べ。あ、魔女見習いは帰ってるか?」


 本当に放置してて申し訳ありませぬ。


「四人は戻っており、他は南の大陸におります」


 ララちゃんのところに二人置いてきて三人。四人は館。ってことは残り三人は南の大陸でなんかやってるわけか。


「じゃあ、その四人も連れてきてくれや」


「おい! なにかあるならおれにも教えろよ! 不安になるじゃねーか!」


「あとで話すよ。手伝いしてこいや」


「そう言われて仕事なんかしてられるかよ! シャニラになにかあるのかよ!」


「薬師として妊娠の診療をするだけだ。なんかあるならメイド長がなんか言っているだろう」


 なあ? とメイド長に同意を求めた。


「はい。奥様は健康そのものです」


「ほら。オレの言葉は信じられなくてもメイド長の言葉なら信じられんだろう」


 いや、信じられねーのはそれはそれで悲しいけどっ!


「……わかったよ……」


 渋々ながら引き下がり、手伝いへと出ていった。


「オレは風呂で身綺麗にしてくるから」


 昨日、と言うか、数時間前に入ったが、妊娠を診療するんだから綺麗にしておいたほうがイイだろう。


「じゃあ、しばらくしたら寝室に集まってくれ」


 そう告げて風呂へと向かい、しっかりと体を洗い、トアラに作ってもらった作務衣風診療着に着替えた。


「これ着るの、久しぶりだな」


 オババから薬師として認めてもらい、人を診るときにと作ってもらったはイイが、年齢一桁に診てもらう勇者は早々おらず、三回着たかどうかであった。


「そう言えば、ミタさんいなかったな?」


 フルーツ牛乳を飲みながら出てたら、ふいにミタさんがいなかったことに気がついた。


「他にもいろいろいませんけどね」


 うん。誠心誠意、申し訳ありませぬ。この失態はいずれ違う形でお返しもうしそうろう。


「べー。わたしもいくわ」


 と、プリッつあんがパイル○ーオンしてきた。


「邪魔すんなよ」


「わたし、べーの邪魔なんてしたことないわよ」


 オレの記憶の中には二桁は入っているけどな。まあ、四桁くらいで反論がきそうだから黙ってるけど。


 寝室に向かうと、オカンやサラニラ、メイドや魔女見習いたちが集まっていた。早いこと。


 結界で診療椅子を創り、オカンを座らせた。


「大袈裟じゃないかい?」


「まあ、雰囲気を大事にしたまでさ」


 何度も言うが、オレは形から入る男なのだ。


「記録を」


 ノートの束をもらい、ナンバー1から軽く読ませてもらった。


「オカンの妊娠、気がついたのサラニラなんだ」


「あなたから様子を見ててくれって言われたからね」


「ワリーな。医者としての勉強もあっただろうによ」


「いいえ。あなたの書庫を使わせてもらってるしね。気にしないで」


 それならよかった。苦になってなければよ。


「シャニラさん、悪阻もなく元気だったから気づくのに時間がかかったけどね」


「サプルやトータのときもそうだったっけ」


 腹が膨れてやっと気がついた感じだったよ。あのときはオトンとびっくりこきまくったっけ。


「順調のようだな」


 ノートにはオカンの一日の行動が書かれ、最後に「今日も元気でした」と締め括ってあった。


「ええ。順調だったわよ」 


「オカンの順調は当てになんねーんだよ」


 心臓病(番外編で書いたの何巻だったけな?)が悪化するまで話さねーんだからな。


「なにを心配しているの?」


 サラニラの問いに答えず、オカンの診察を開始した。

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