第1375話 花*花
転移結界門を出ると、ボブラ村は夜だった。
まったく、時差とは厄介である。ブルー島時間では早朝なのにボブラ村では夜とか、ブルー島に住んでるヤツらはよく暮らしていけてるよな。オレなら時差ボケで調子を崩す自信があるぜ。
「それもべー様のやらかしですよね?」
やらかしとか言わないで。ブルー島はオレだけ住むはずだったんだからよ。
「あ、べー様。お帰りなさいませ」
横から声がして振り向いたら、狼系の獣人が現れた。な、なんだ!?
「あ、ああ。ただいま。なにしてんだ?」
「館の警備です」
うち、警備するほどの家だったっけ?
「あ、おお。そうか。それはご苦労さんな。風邪引かないようにな」
ボブラ村はまだ冬。気温も低い。全身毛で覆われていても寒いだろうよ。
「はっ! ありがとうございます。気をつけます」
「ところで、館には入れるのかい?」
この世界じゃ、田舎ほど戸締まりは厳重にする。まあ、鍵などはないが、内締めや戸板をしたりはする。うちはオレの結界で厳重、と言うよりは鉄壁にしてたがな。
「はい。入れます」
と言うので館に向かうと、先ほどと同じ狼系の獣人が扉を警備していた。
「お帰りなさいませ」
一礼して扉を開けてくれた。うち、完全に魔王城になってんな……。
「四天王とかいたりしないよな?」
まあ、これだけ厳重にしてたら四天王なんて無駄職でしかねーけどよ。
「お帰りなさいませ」
久しぶりに執事さんが現れた。
「おう、ただいま。家を守ってくれてありがとな」
執事さんがなにをしているか知らんけど、メイドたちのトップは執事さんだ。とミタさんに聞いた。なら、いろいろやってるってことだ。
「恐縮です」
「ってか、寝ずにいたのかい?」
「起きて迎えるのがわたしの役目ですので」
大変な仕事だこと。オレには絶対につけねー職業だな。
「食堂はやってるかい?」
「はい。なにか召し上がりますか?」
「いや、離れで食ってきたからイイよ。コーヒーを頼むわ」
「畏まりました」
執事さんにお願いして食堂へと向かった。
「ん? コンビニ、どうしたんだ?」
なにかアウト寄りの名前と外観だったのに、木目調の外観になり、名前も『花*花』になっていた。
「奥様がファミリーセブンだと言い難いとおっしゃいましたので、名を募り、厳正な審査の上、花*花となりました」
まあ、確かに言い難いわな。アウト寄りの名前なんてよ。
中を覗いたら中はそんなに変わらなかった。まあ、品物はこの世界で使えるものしかねーが、やけにお菓子が多いな。うち、そんなに食わしてないな?
「メイドたちの要望です。非番のときに部屋に集まってお菓子パーティーをするのが流行っておるようで……」
弛んどるとばかりにため息をつく執事さん。女ばかりの職場を仕切るのは大変だろうよ。
「執事業が辛いならカイナに口利きしてやろうか?」
と言うか、よく家の仕事をやってるよな。闇の世界で暗躍してそうな雰囲気なのによ。
「いいえ。わたしは、ゼルフィング家に、ベー様に仕えられたことに誇りを持っております。この命尽きるまでお家で働かせていただきます」
どんな生き方、考え方をしてきたかわからんが、執事さんが満足してるならオレがどうこう言う資格はねー。好きにしろ、だ。
花*花を一周してから食堂へと向かった。
食堂には何人かのメイドがいて食事をしていた。夜中に食うとか、ご苦労さまだよ。
「オレに気にせず食事を続けな」
立ち上がろうとするメイドさんたちを制する。貴重な休憩をオレのために使う必要なんてねーよ。
「お。囲炉裏も掘炬燵にしたんだ」
冬になったらしようと掘炬燵仕様にしてたが、まさか使うとは思わなかった。誰にも説明はしなかったのに。
「べー様。炭を入れますか?」
「炭?」
炬燵布団を捲ったら練炭コンロが入っていた。こりゃまた懐かしいこと。
前世でも子どもの頃に見たものだ。誰からの情報だ?
「マーロー様が欲しいと仰いましたので設置しました」
マーロー? 誰だっけ?
「つい昨日まで一緒にいたしゃべる猫ですよ」
あ、あー! あいつそんな名前だったっけ。ってかあいつ、練炭なんて知る年代だったのか? 三十手前で死んだと思ってたのに。
「そうだな。頼むわ」
寒くはねーが、練炭の暖かさはまだ記憶にある。久しぶりに感じるのもイイだろう。
すぐに火がついた練炭を入れてもらい、炬燵に浸かった。
ちなみに、オレんところでは炬燵に浸かると言ってました。皆のところはどうだった?
「おーあったけー!」
これぞ冬の炬燵って感じだな。あ、ミカン食いたくなった。
「ミカンある?」
控えているメイドさんに尋ねた。
「はい。すぐにご用意致します」
あ、あるんだ。それも茶猫の要望か?
本当にすぐミカンを持ってきてくれ、何十年か振りにミカンをいただいた。あーすっぺっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます