第1345話 男のプライド
茶猫が引きつけている間にオーガが住む山を一周する。
「逃げるのに適した山だな」
オーガにそんな知恵があるとは思わなかったぜ。
「どう逃げるのに適してるんだ?」
「そうだな。この下の川、幅は狭く浅そうだからオーガの身体能力なら渡るのも簡単だ。木々も深く、追い込める場所もない。バラバラに逃げられたら少人数では囲めない。気配を読めても追うのは大変だろうよ」
もし、逃げることを考えていたら、金目蜘蛛以外にも昔からオーガを捕食する存在がいるってことだ。
「そういや、こちら側に来てから竜を見てねーな」
南の大陸は竜の国と言ってもイイ。なのに、まったく竜を見ないってのはおかしすぎる。竜なら金目蜘蛛でも負けやしないだろうに。
「セーサランの気配を察知でもしたか?」
よくあることだ。今まで住んでたところに強い存在が現れて追いやられ、大暴走になることは。
「今考えるとヤンキーもその口だったみたいだな」
弱いものは強い生き物の気配に敏感だが、強い生き物の中にも気配に敏感な生き物もいる。そう言う生き物は賢いから厄介なんだよな。
「ほんと、生態系をもののみごとに壊してくれたぜ」
まあ、それも弱肉強食の摂理。文句を言ったところでしょうがねー。奪われるのが嫌なら必死こいて守れ、だ。
「……あんたの頭の中、どうなってんのよ……?」
「至って普通の頭の構造だよ」
ものの見方を広げたら誰にでもできる考察だわ。
「まあ、イイ。作戦はこうだ。囮役はここで待ち、オーガが来たら二手に分かれる。オーガが釣れたら背後から勇者ちゃんとララちゃんが追って静かに排除する。オレは猫のを排除する。理解できたか?」
主に勇者ちゃん。あなたに言ってるからね。
「鬼ゴッコだね!」
あ、うん、ま、まあ、そうだね。鬼ゴッコだね。いや、そうなのか?
なんとも言えんが、勇者ちゃんが理解できたならなんでもイイ。深く考えるな、だ。
「ララちゃんは?」
「静かに、ってのが難しいけど、修業、なんだろう?」
「そう言うことだ」
理解が早くてなによりだよ。
空飛ぶ結界を降ろし、茶猫に仕掛けた連結結界に繋いだ。
……スマッグとか使う前にやっていた通信手段だよ。あまり使う頻度は少なかったけど……。
「猫。川があるほうに来い!」
「──うおっ! びっくりした!」
あ、伝えておくの忘れてたわ。
「オレの力だ。川がある場所、わかるよな?」
「あ、ああ。わかる。ったく、五分でいくよ」
連結結界を切り、全員に目配せし、鬼役(が鬼を追うとはこれいかに?)は空へと上昇した。オーガに感知されないくらいに。
「あ、来た!」
真っ先に勇者ちゃんが茶猫を発見。その後ろからオーガの集団がいた。
「飢えで我を忘れている感じだな」
これが最後の力だとばかりに茶猫を追っている。このまま放置してたら自滅しそうだな。
とは言え、オーガのメスばかりで子はいねー。きっと巣にいるのだろうな。
茶猫がガキどもと合流。オーガが囮を認識したら三方に走り出した。
「よし。作戦開始だ!」
「ボク、あっちね!」
「なら、わたしはあっちか」
充分に離れたら勇者ちゃんが空飛ぶ結界からジャンプ。ララちゃんはワンダーワンドを降下させた。
二人が森の中に消えてからまた茶猫に結界を連結させた。
「猫。巣はわかるな?」
「ああ」
「できるか?」
もちろん、子を殺すことだ。
「害獣だ。やれるよ」
それはよかった。ちゃんと守るべきはなにかを理解してて。
「そうか。じゃあ、頼む」
「わかってる。そっちこそガキどもにケガさせんなよな」
別に示し合わせたわけじゃないのに、理解し合えてるオレら。イイ友達になれるかもな。
「了ー解。ただ、ちょっと武勇伝は作らせてやるけどな」
父親に再会したときの土産話を作っやるのは許されるだろう?
「またなんか考えてんな?」
「そうなったらイイな~ってくらいだよ」
南大陸にも他種族地区があるとラーシュの国とも友好が築けるからな。
「……友人にも容赦のない方です……」
友人とは対等でいたいからな。
「一国どころか南の大陸のほとんどを支配した大国の王子さまと対等とか、そう言えるのはべー様だけですよ」
ふふ。そうかもな。
「いろは。頼むぞ」
──いたんかい!!
って突っ込みはノーサンキュー。オレ一人で勇者ちゃんをフォローできないんだからいろはとドレミを連れて来るのは必須だわ。
背中にしがみついている白猫型になったいろはに頼んだ。ちなみに、ドレミも猫になって背中にしがみついています。
「すでに配置しております」
「さすがいろは。ありがとな」
「光栄です」
いろは隊か団かはわからんが、これでオーガはジ・エンド。無事解決──とならないのがオレの人生。考えるな、感じろが警戒警報を出している。
「……金目蜘蛛の女王か……」
「かなり大きいですね」
ラーシュの手紙でもデカいとは書かれていたが、こちらに向かって来る金目蜘蛛の女王は、ガ○タンクとタメがはれそうなデカさだった。
「X5を知ってると、スケールが小さく見えるな」
「べー様が戦うんですか?」
「もちろん。オレが戦うさ」
戦いなんぞに興味はないが、X5を倒し切れなかったことにちょっとモヤッとしてうる。
「ドレミ。手を出すなよ」
こんなオレにも男としてのプライドはある。負けたら悔しいと感じる心はある。X5を倒し切れなかったことが悔しくてたまらないのだ。
「最強の村人をナメんなよ」
次、X5が襲って来たらぶっちぎりで勝つために、金目蜘蛛の女王にはオレが強くなるための糧となってもらうぜ!
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