第1339話 寓話
「なるほど。だからオーガが来てたのか」
まるっとサクッとサムシング。謎は解けた! ってほどでものーか。失礼しやした。
「オーガって人を食うのか?」
ララちゃんが首を傾げている。
「食うには食うが、あまり望んで食っている感じはないな。ゴブリンもそんなに食っている感じはなかったし。きっと獲物がないときに食うんだと思う」
人より家畜を狙うから厄介なんだよな。それなりに知恵も回るから狩るのも大変だし。
「で、その生き残りは?」
「声をかけたら逃げた」
「なんで?」
「いや、見も知らぬ生き物がしゃべったら驚くだろう。自分で言っておいてなんだがよ……」
あ、あぁ、そりゃそうか。オレの周り、しゃべる獣が多いからそれが当たり前になってたわ。
「ま、まあ、こんなド田舎じゃよけいに怖がられるか。迷信とか根強いからな~」
前世の記憶があるからか、そんな迷信など鼻で笑っていたが、ファンタジーな世界じゃその判別が曖昧になってくる。この世界、幽霊とか精霊とか当たり前にいるんだからよ。
……まったく、ファンタジー世界で生きるって難しいぜ……。
「たぶん、生き残りは子どもだと思う」
あーこれは見なかったことにできない案件だ。
どうも茶猫は子どもに甘い。原因は三兄弟だろうが、前世の道徳も相まって見捨てるなんてしたくないだろうな~。
「んじゃ、なんとかしないとな」
「え?」
信じられないって顔でオレを見る。見捨てるような男だと思ってたのかよ。オレは家族の思いを踏みにじることはしねーよ。
「助けたいんだろう?」
目がそう言ってるよ。
「……あ、ああ。助けたい……」
茶猫の首をつかんでララちゃんへと放り投げる。
「まずは腹拵えしろ。今日の疲れを取れ。助けるのは明るくなってからだ」
暗闇で怯えている者を無理矢理引っ張り出してもよけいに警戒されて、心を頑なにするものだ。
「北風と太陽。その厚く着た警戒心を解くなら明るいほうがイイだろう?」
それはお前も経験してるだろう? あの三兄弟でよ。
「そう、だな。無理矢理やってもダメだったな」
揚げたワカサギを皿に盛ってやると、飢えた野獣のように食い始めた。切り換えの早い猫だよ。
「村人さん。北風と太陽ってなに?」
「寓話って言ってな、教訓話を物語にしたもんだよ」
寓話ではないが、トムくんのペンキ塗りの話は好きだ。衝撃的でもあった。あれはオレの元になっていると言っても過言じゃねーぜ。
「おもしろそう! 話して!」
こう言うとき、こちらの神の酷さを痛感するよな。前世の記憶があるなら勇者の力を理解できて、周りも苦労しなかっただろうに。
「記憶があっても周りに多大な迷惑をかけてる転生者もいますけどね」
誰だ? そんな迷惑なヤツは? ちゃんと周りに謝れよな。
「一つだけだぞ。休むのも勇者としての義務なんだから」
「うん、わかった!」
しょうがないと、北風と太陽の寓話を話して聞かせた。
話を聞かせ終わらせ、目をキラキラさせる勇者ちゃんを女騎士さんが慣れたような感じで寝かしつけた。さすがです。
まだ八時くらいなので十歳以上には寝るには早い。なので、十歳以上は焚き火を囲んでそれぞれの時間を過ごした。
女騎士さんは無限たい焼き食い、ララちゃんは日誌っぽいものを書き、茶猫は村のほうを向いている。オレはオレでマンダ○タイム。夜営っぽい感じはないが、まあ、こんなキャンプ風夜営もイイだろう。
「────」
茶猫の耳がピクッと動き、起き上がった。
「オーガか?」
「たぶん。二匹いる」
偵察かな?
「オーガって夜行性だったか?」
「腹が減ってたら朝も夜もないよ」
食わなきゃ死ぬだけ。空きっ腹での夜は地獄そのものさ。
「田舎での暮らしは命懸けだな」
「街には街の、田舎には田舎の苦労があるもんだよ」
まあ、このファンタジーな世界の街で暮らしたことはねーが、前世では経験した。仕事に人間関係にと、苦労は絶えないものさ。
「どうする?」
「弱肉強食の法により狩るが、せっかくだから利用させてもらうか」
脅威と安心は見えたほうがイイってな、隠れている者らの警戒心を脱ぎ捨てる陽射しとなってもらおうか。
「悪い顔してるぞ」
おっと。オーガたちに気づかれるな。笑顔笑顔っと。
無限鞄から海竜を出し、頭だけを切り落として結界コンロで焼き始める。
「そんなもん焼いてどうするんだ?」
「オーガたちの食欲を掻き立ててやるためさ」
空腹時にこの香ばしい匂いは凶器だろうよ。朝までガマンできるかな?
「気配が消えた」
「仲間を呼びに戻ったかもな」
是非とも団体様でおこしいただけるよう願っておりまっせ。
「たぶん、夜明け前に襲って来るかもしれん。それまで眠っておけ。オレが起きてるからよ」
散々眠ったからまだ眠くならんのよね。
「わかった」
「魔力を回復させておかなくちゃね」
茶猫とララちゃんがやる気を見せ、女騎士さんはラストスパートとばかりにたい焼きを食い始めた。
……また太るよ、あなた……。
皆が横になり、オレは海竜が焦げないように回転させながら匂いを周囲へと放った。
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