第1291話 侵略順調
修道院(と仮称する)に入ると、インドの女性が着る……サミー? サリー? なんだっけ? まあ、あんな感じのを着ている年配の女と二十代の女がいた。
「パニーニさん。おれの飼い主のベーだ」
か、飼い主でいいんだ。まあ、そう言ったほうが納得されるだろうけどな。
「初めまして。別の大陸で商売をしているゼルフィング商会の長、ヴィベルファクフィニーと申します。どうかベーとお呼びください」
この地域の挨拶など知らんが、誠意は伝わると、真面目に挨拶をした。
「は、初めまして。パレードを預かるパニーニと申します」
パレード? 修道院をパレードと言うのか? いや、それなら自動翻訳されるはず。されないと言うことは違うってことだ。
「勉強不足で申し訳ありません。パレードとはなんでしょうか?」
わからないことは訊いたほうが早い。カンニング幽霊が囁かないってことは知らないのだろうからな。
「この土地の風習で、弱い者を支えるために未亡人や障害がある者が働く場所をパレードと呼びます」
支援団体みたいなものか? 国どころか大陸が違うとよくわからんシステムができるもんだな。
「ナーブラは、パレードだと示すものですか?」
「はい。聖獣の加護がある場所と知らせるために」
つまり、ここに手を出したら聖獣の怒りがあるぞって牽制してるわけか。信心深い土地なんだな。
「お教えいただきありがとうございます。商売するにはその土地を知らねばなりませんからな、大変ためになりました」
ありがたいと、頭を下げた。
「い、いいえ。こちらこそ勇者様ばかりかマーロー様にも助けていただきました。ありがとうございます」
恩を感じる。それは当たり前のようで当たり前のことじゃない。
荒れた土地では人の心も荒れるもの。その土地を見れば人がわかるし、文化の度合いもわかる。
「礼はありがたくいただきます。ですか、それ以上は不要。勇者があなた方を助けたと言うなら助けるだけの価値があったから。マーローも同じ。あなた方の人柄がよかったから手を差しのべたのでしょう。そんな方々とよしみを得られるなら商売で儲けるより価値があると言うものです」
その土地に入り込むならまず弱者を掌握しろ。信頼を得たらその上を掌握。さらにさらにと掌握したほうが上手くその土地に入り込めるのだ。まあ、オレの持論だけどな。
「これからわたしどもはここで商売していこうと思いますので、地元に貢献させていただきたい。つきましてはこれをお受けください」
町から得た金をパニーニさんに渡した。
「それと、わたしどもが扱っている回復薬をお受け取りください」
魔女さんたちが作った回復薬を渡した。
人の褌で相撲を取る、とはちと構うが、オレの懐はまったく痛まない。それどころか侵──地元に根づこうと思えば安いものさ。クク。
「……外来生物の恐ろしさを体現したような方ですね……」
それも生存競争。奪われたくないのなら必死に抵抗するんだな。
「パニーニさん、遠慮することはないよ。ゼルフィング商会ではよくやっていることだからさ」
「ですが……」
「気が引けるならゼルフィング商会がここでやっていけるよう力を貸して欲しい」
こいつ、こんなにコミュニケーション能力が高かったっけ? つーか、パニーニさん、よくこんな不思議猫を受け入れてんな? ここは不思議に満ち溢れてんのか?
「勇者ちゃんで慣れたんじゃないですか? まあ、あの子は破天荒なだけですけど」
まあ、あの台風みたいな子ならしゃべる猫くらい受け入れられるか。いや、そうか?
「……わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「はい。なにか足りないものがあれば遠慮なく申し出てください。子どもは未来の宝ですからな」
どこかのキャッチフレーズじゃないが、次の世代を洗──教育すればシープリット族を受け入れやすい。価値観は小さい頃から植えつけんとな。
「……悪どいのか清いのかわからない方ですね……」
世の事象は見る者によって変わるもの。良いも悪いも表裏一体。子どもを利用して子どもが幸せになる。そしてオレまで幸せになるのだからイイじゃない。それが許せないと言うならもっと賢い手を見せてくれよ。ただ文句を言うだけのヤツの言葉など聞く価値もないわ。
「マーロー。パレードをしばらく見ててあげなさい」
「ああ、任された」
まったく、面倒見のイイ猫だよ。
外に出て土魔法でポールを創り出し、ここはゼルフィング商会の縄張りだとばかりにコーヒーカップが描かれた結界旗をはためかせた。
「侵略順調」
「いや、侵略って言っちゃってるし」
おっと。順調すぎて口が緩んでしまったわ。順調なほど気を引き締めんとな。さあ、次にいきますか。
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