第1288話 代表と呼称する

 オレの前に現れた町に入ったときの役人と五十代くらいの恰幅のよい男だ。


「こちらは、バルザイドを治めるグランドバル党員のマドリオ様です」


 今一、皇国の社会体制がよーわからんよな。


 グランドバルは党と土地を合わせ持つのか? 党員が町長なのか? なんなんだ?


「初めまして。ここより北の大陸で商売しておりますゼルフィング商会のベーと申します」


 一応、頭を下げておく。挨拶の仕方、聞いてなかったわ。


「別の大陸から、ですか?」


 肌の色からよそ者とわかるだろうが、別の大陸となると話が大きすぎて思考がついて来れないのだろう。


「はい。ゼルフィング商会の会長が皇国の上の方と繋がりがありましてな、その伝で皇国全土を商売して回っております」


「……皇国の、ですか……?」


「竜の王を倒し者、と言えばわかりますか?」


 皇国がどれだけの規模かはわからんが、何十年何百年と竜王に悩まされてきたと言う。なら、南の大陸がどれだけ広かろうと竜王のことは知っているはず。その竜王が倒されたとなれば千里を駆けることだろう。


 オレの読みの正しさを証明するかのように党員? 町長? なんだ? 


「代表でいいんじゃないんですか? どうせ名前で呼ばないんですから」


 そうですね。なら、この人を代表と呼称します。


「……シャーガラー、か……」 


 シャーガラー? なにそれ? 上手く翻訳されなかったのか?


「古い言葉で勇者とか英雄とか言ったはずです」


「竜の王を倒した方がここでどう呼ばれているかはわかりませんが、たぶん、その方で間違いないと思いますよ。まあ、証明できるものを出せと言われても困りますがな」


 フッヒョヒョと笑ってみせた。


「それで、我らになにかご用で?」


「……あ、ああ。食料はあれだけだろうか? ジャッド村の者やザイライヤー族の者がいたが、襲われなかっただろうか?」


「食料ならまだあります。ジャッド村も襲われましたが、ゼルフィング商会の拠点とする礼として復興しました」


 自信満々に答えてやる。


「……食料をいただけないだろうか……?」


「商売とあれば喜んでご用意いたしますとも」


 欲しけりゃ金出しな的な笑いをする。


「あ、他にも薬などもご用意いたしますよ」


「……被害が大きく、すぐには出せない。そこを考慮してもらえると助かるのだが……」


「では、考慮して町で暮らす許しと店を持つ許可、町の外に土地を持つことを認めていただきたい。それが可能なら来年まで充分な食料を供給いたしましよう」


 さあ、返答は如何に?


 なんてすぐに答えを出せたらこの代表は頭がおかしいレベルだろう。検討すると帰っていった。


「代表の権限がないのか、または議会制なのか、なんだと思う?」


 斜め後ろにいる委員長さんに振り向いて尋ねてみた。


「……なぜわたしに訊くのよ?」


「オレを観察するためにそこにいるんだろう? なら、これがどう言う状況で、どんな思考をして、相手はなにを考えているか、そう言うのをひっくるめてないとオレのことどころか目先のこともわからないぜ」


 この魔女さんは、結果からしか考察できない感じがする。それはそれでイイと思うが、過程も考察しないと理解できることは少ないと思うぞ。


「……あなたを理解するなんて一生できないと思うわ……」


「オレを理解するんじゃなくてオレの考えをわかれと言ってんだよ。でなきゃ、あんたらは利用されるばかりだぜ」


 他の者が見たらオレが損しているように見えるだろうが、オレはなに一つ損はしてない。したとしても倍にして利を得ている。


「帝国も南の大陸に進出したいのなら恩を売っておくのも手だぜ」


「……それは、帝国に食料を出せと言っているのかしら……?」


「出す出さないは帝国が決めたらイイさ。ゼルフィング商会は南の大陸に食い込んでいくぜ」


 南の大陸にはオレの欲しいものがたくさんあるし、ヤオヨロズの食糧庫の一つになってもらう計画でもある。


「この地域を開墾して砂糖とか作りてーな」


 これから砂糖の需要は増える。カイナーズホーム以外の供給を考えておかねーと、なにかあったとき対処できねーよ。


「館長と話し合ってみるわ」


「決断は素早く。行動は迅速に。ちんたらしてたらオレはどんどん先にいくぜ」


 オレは豊かな人生を送るためなら超働き者になるのだよ。


「ルダール。角猪の番を何十組か捕まえて来てくれや」


「バルナド様にも話してよろしいですか?」


「構わんが、酒くらいしか出さないからな」


 そうちょくちょく賞品なんて出してられんからよ。


「了解です」


 どこに張り切る要素があるかわからんが、戦にでもいくかのようにボルテージが上がっていた。


 まったく、使い難いヤツらだよ。


「ミタさん。パンでも焼いてよ」


 ここはパン文化じゃないみたいだが、贅沢言ってられる状況じゃない。不味くなければ受け入れられんだろうよ。


「畏まりました」


 あとは任せてオレはマン◯ムタイムと洒落込んだ。


「ところで、勇者ちゃんのことはよろしいですか?」


 よろしくはないが、慌ててもしかたがないさ。会えるときに会えるのがオレの出会い運だからな。それまでゆっくりまったりいきましょう、だ。

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