第1278話 テキトーです

 オレが受賞者の前に立つと、五人の受賞者が前脚を折った。なに!?


「シープリット族の服従の姿勢です。戦士は後脚を折ります」


 あ、そう言えばしてたな。受け取りやすいからやってるとのかと思ってたよ。


 司会のセイワ族のメイドさんからマイクをもらう。


「オレに服従はいらない。立て!」


 知らなければなんとも思わなかったが、知ったからには不愉快でしかねー。オレの前ですんじゃねーよ。


「まず、特別賞を狙いにいった者たちに賞賛と賛美を送る」


 言ってから賞賛も賛美も同じじゃね? とか思ったが、誰も気にしちゃいないのだからサラッとサラサラ流しましょう。


「今の時代で力は正義だ。弱い者に生きることは許されない! オレが言うまでもなく魔大陸で生きて来た者なら骨身に染みていることだろうからな」


 ってなこと、勇者たちにも言ったような言わなかったような? オレのボキャブラリーは貧困だぜ。


「だが、どんな強者でも食わなきゃ死ぬ。飢えを知る者ならわかるだろう」


 生きている上でオレが一番怖いのは空腹だ。あの胃を絞めつけるような痛みと腹を空かせるオカンやサプルの顔が今でも頭に残っている。


「ただ力があるだけが強者ではない! そんな強者はなんら怖くはない! なぜならそんな獣は知恵で軽く屈服させれるからだ!」


 まあ、そんな強者バカばかりだと助かるのだが、なぜかオレが対峙するのは厄介な強者ばかり。胃が痛くなるばかりだぜ。


「手玉にしているようにしか見えませんけどね」


 そんな簡単ならオレはここで演説なんてしてないよ。


「受賞者たちが見つけた果物はこれから発行する書に発見者の名前を残す」


 まあ、発行するのは帝国。書くのは魔女さんたちだけどな!


 これぞ漁夫の利作戦(あ、今考えました)である。


「知恵の勇者たちよ。お前らの名はこの世界が続く限り残るだろう。同胞たちよ、五人の勇者たちを讃えよ!」


 闘技場がドッと湧いた。


 ってか、こいつら暇なのか? どうやって生きてんだよ?


「大半がカイナーズに所属してるみたいですよ」


 それを知っている幽霊さん。君の情報収集能力が怖くてたまらないよ。


 イイ感じに湧いたら腕を高々と挙げて黙らせる。


「受賞者にはカイナーズホームで使える商品券とオレから勲章を与える。優勝者、オレの前に!」


 バナナを見つけた……なんだっけ?


「ハイリーさんですよ」


 幽霊さん、ナイスアシスト!


 黒い毛の男が前に来る。戦士並みにデカいな。


「優勝者ハイリーには十万円分の商品券と金の勲章を与える」


 勲章なんていつの間に? と疑問に思う方もいらっしゃるだろう。だが、我の土魔法なら勲章の百や二百余裕で創れるのだよ。


「ありがとうございます!」


 ミタさんが商品券を渡し、オレが勲章を上半身と下半身の間に結界でつけた。いつでも脱着可能だから安心してね。


「バイガさんですよ」


「二位のバイガ、前に」


 茶色の毛をした男は見ただけで若いとわかるヤツだった。


「二位のバイガには五万円分の商品券と銀の勲章を与える」


 八万円にしようと思ったけど、バナナがメイドさんたちに好評だったので差をつけさせてもらいました。


「三位はダイオールさんですよ」


「三位のダイオール、前に」


 さらに若いとわかる──いや、女か? 胸がちょっと膨らんでいるが?


「まだ未成年の女性ですね。名前は男っぽいですけど」 


 やはり女か。獣顔だとわかんねーな!


「三位のダイオールには三万円分の商品券と銅の勲章を与える」


 つーか、三位までにして欲しかった。勲章、三種類しかねーんだしよ。


「四位はザザーさんです」


「四位のザザー、前に」


 こいつも女だ。胸の膨らみから言って成人だろう。


「四位のザザーには一万円の商品券と銅の勲章を与える」


 まあ、金の勲章の価値を高めるためと思って銅の勲章にしておこう。


「五位はダードンさんで」


「五位のダードン、前に」


 全身灰色──いや、白か、これは?


「かなり年配の方ですね。八十歳はいってるんじゃないですかね?」


 傷が多いことからして元戦士って感じだな。


「ダードンには五千円分の商品券と銅の勲章を与える」


 あっさりした受賞式だったが、特別賞なんだからこんなもんでイイやろ。


 受賞者たちが下がり、闘技場を見回す。


「シープリット族よ。お前たちはオレに力を示した。次に知識を示した。それがどう言う意味を示したかをわかる者はいるか?」


 まずいないだろうから沈黙が返って来ました。


「それはつまり、シープリット族は種としてさらに先に進めることを示したのだ! シープリット族よ、進め! 立ち止まるな! お前たちの未来は輝いているのだから!」


 さあ、湧けとばかりに両手を天に掲げた。


 起こる歓声。結界で耳を塞いでなければ鼓膜が破裂してるところだわ。


「……ほんと、べー様は人を煽てるのが上手ですこと……」


 豚もおだてりゃ木に登る、だよ。


「よくわかりませんが、適当ですよね?」


 ハイ、テキトーです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る