第1276話 男は綺麗な女が好き

 今、チョコバナナがムーブメントを巻き起こす!


「その心は?」


 チョコバナナが食卓に上がりそうで怖いです。


「あーそうなりそうな勢いですね」


 なぜかチョコバナナの屋台が増え、工場か! と、突っ込みしたくなるくらい作られている。


「いつも思うのですが、なぜあんなに作るんですかね?」


 それを訊いちゃいけないサンクチュアリ。でもねーが、貯められるときに貯めるのが我が家の家訓──にしました。


「レイコさんは、飢えって覚えているかい?」


「もう覚えてないですね」


 幽霊になると三大欲がなくなるのか。いや、たまに寝てるな、この幽霊。まったく、常識が通じない幽霊だよ。


「いや、非常識に言われると傷つくんですけど」


 傷つくような繊細さがあるんなら幽霊なんぞになってるわけないやろ。笑わせんな!


「……それ、パワハラって言うんですよ……」


 どこで覚えて来たか知らんけど、それは上司から受けるやつだからね。


「忘れてるかもしれませんが、わたし、ご主人様のメイドで、今はべー様に貸し出されてる身ですよ。べー様が上司になるじゃないですか」


 メイドと言うその設定は完全に忘れていたが、オレは先生から押しつけられた気持ちでいたよ。あの先生、いらないものはオレに押しつけてくるからな。


「つーか、シープリット族までチョコバナナにハマるとはな。見た目、肉食なのに」


 魔大陸のヤツらって意外と雑食なんだよな。長年の食料不足で雑食になったのか?


「魔女さんたちもある意味肉食ですよね」


「だな」


 女は甘いものが好きとは言え、チョコバナナにかける情熱で湯が沸かせそうな勢いだ。チョコバナナ片手に果物を記録しているよ。


「コンビニのバナナシェイクが飲みたいな」


 シェイクなんてシャレオツなもん、そんなに飲んだ記憶はねーが、夏の暑い日に喉が渇いてコンビニで飲んだバナナシェイクは今も覚えてるよ。量が少なくて作れなかったのが残念だよ。


「──シェイクですか! べー様、なんですか、それ!?」


 三十メートルは離れていただろうミタたさんが大声を上げた。


「ミタレッティーさん、お菓子のこととになると耳がいいですよね」


 耳が大きいだけに聴覚はイイが、ミタさんの耳は特別。お菓子のことは騒音の中でも聞き分けるのだ。


 ……耳がピクピクしてるときはお菓子のことを聞いていることをオレは知っている……。


「べー様! シェイクってなんですか?」


「カイナーズホームにハンバーガー屋あっただろう」


 Mなバーガーを売る店。


「潰れてミセスドーナツに変わりました」


 あ、あったね。ミスターに謝れってドーナツ。つーか、カイナーズホームで潰れるとかあったんだ。あそこで潰れるとか謎すぎんだろう。


「そのミセスなドーナツではシェイクは売ってねーの?」


「ありません。ドーナツだけです」


 カイナーズホームの運営方がほんとよーわからんわ。


「シェイクはどんなものなんですか?」


「え、えーと確か、ミキサーにバナナと氷と牛乳入れて混ぜる、だったかな?」


 テレビで観た記憶はあるが、細かいことまでは覚えてねーや。


「わかりました!」


 で、わかるミタさんがマジパネー。あれだけの説明でコンビニのシェイクにも負けないバナナシェイクを作ってしまった。


「どうですか?」


「あ、ああ。旨いよ」


 花が咲いたように満面の笑みを見せるミタさん。それを別の男に見せれば引く手あまただろうに。才能の使い道を間違ってねーか?


「べー様も似たようなものじゃないですか」


「オレは好きな方向に全力に正しく使ってます」


 嫌いな方向になんて一ミリグラムも使いたくねーよ。


「メイドさん。ストローあったらちょうだい」


 オレを監視する蛇の目をしたメイドさんにお願いする。


「畏まりました。べー様にストローを」


 と、赤鬼のメイドさんに指示を出す蛇の目をしたメイドさん。蛇のような慎重さである。いや、蛇が慎重か知らんけど。


「べー様。ストローです」


 赤鬼のメイドさんからストローを受け取り、シェイクを飲む。やっぱりシェイクはストローで飲むものだよな。あーうめ~。


 シェイクを作る屋台が新たに追加され、大量に生産されてるのを見てると、綺麗になったバルナドと特別賞狙いのヤツらが戻って来た。


「お前ら、毎日風呂に入るようにしろや。綺麗にするのも文明人の証だぞ」


 見た目は獣でも中身まで獣になることはねー。文明人の心を持ちやがれ。


「風呂に入る習慣がない者には難しいですよ」


「なら、入る習慣を作らせてやるよ」


 蛇のような目をしたメイドさんを呼ぶ。ミタさんにお願いしてたことはどうなってる?


「少々お待ちください。衣装部に問い合わせます」


 そう言うとスマッグを取り出して通話をすると、何度か頷いてから振り返った。


 オレもそちらを見ると、メイド服を着たシープリット族の女が五人やって来た。


 ちなみに特別賞の商品とは関係ないよ。綺麗にする計画の一環でシープリット族の女をメイドに雇ったのだ。


 なにか犬に服を着せるような気がしないでもないが、そこはシャレオツなセンスを持つヤツがやると男を魅了する仕上げにできるようだ。


 特別賞狙いの野郎どもがメイドに目を向けていた。


「フフ。男に種族は関係ねーな」


 男は綺麗な女が好き。あ、特殊な趣味の持ち主は排除させていただきますぜ。

 

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