第1271話 ククッ

 ハイ、闘技場が完成で~す!


「あー疲れた」


「その一言で済まされないものが造られたけど?」


 ミタさんから差し出されたアイスコーヒーを受け取り、イッキ飲みしたら委員長さんに突っ込まれてしまった。いや、ボケてはいないよ。


「どこまでも非常識よね」


 オレ的には常識内で収めたのだけれどな。収用人数千人くらいだし。


 さすがに何万人も収用できる闘技場を一夜では創れんよ。そこまで非常識じゃねーわ。


「……そうね。非常識の物差しで常識を計ってもしょうがないわね……」


 遠くを見ながら呟く委員長さん。どったのよ?


「きっと真理を見つけたんですよ」


 幽霊に理解される魔女。オレにもその真理とやらを見せてもらいたいもんだよ。まあ、不都合な真理なら目を逸らさせてもらいますけど!


「二人とも。シープリット族を闘技場に入れてくれ」


 バルドナとルダールにお願いする。シープリット族の命令系統知らんし。


 オレが創った闘技場は半地下。上に創ると時間がかかるので半地下にしたのだ。


 もう一日あれば装飾にも力を入れたかったが、一夜ではシンプルなものしかできなかった。まあ、及第点だな。


「他所の国で好き勝手しすぎじゃない?」


「大丈夫。近隣の有力者はこちらに引き入れてるから」


 ここがラーシュの国かは知らんが、バルバラット族や淡水人魚、ザイライヤー族とこちら側だ。さらにカイナーズが実質支配している。魔王軍が攻めて来ようが瞬殺だろうよ。


「侵略じゃない」


「否定はしない」


 オレが可笑しく楽しくするためなら侵略も辞さない。まあ、支配は他人に任せるがな。


 なぜか魔女さんたちもオレのあとに続いて闘技場に入り、オレはミタさんだけを連れて闘技台へと上がった。


 闘技台の中央に立ち、席に入って来るシープリット族……だけじゃなく、パートのオネーサマ方まで入って来た。いや、あんたら関係ねーじゃん。


 とか思ったけど、観客は多いほうが勇者たちの功名心も満足すんだろうよ。


 一時間以上かかったが、席(あ、シープリット族の体型に合わせてます)がすべて埋まった。立ち見もスゲーな。


 ルダールが闘技台に上がって来て、オレの斜め後ろについた。


 これと言った段取りはないが、フリーダムなら時間を気にすることもねー。流れに任せて進行すればイイさ。


「べー様。マイクです」


 と、ミタさんからマイクを渡された。え?


「カイナーズホームから式典部を借りました」


 式典部? なんじゃそりゃ? どこに需要が……あったか。いや、カイナーズには未来視できるヤツがいるのか?


「ヤオヨロズができれば式典はあるだろうからと設立されたようですよ」


 あ、うん、そうですか。先見の明がおありですこと……。


 カイナーズはあるがままに受け入れるのが吉と、マイクのチェックをする。テステス。甘いイモ旨いな甘納豆~。よし。


「ここは、シープリット族の勇者たちを讃える場所である!」


 テキトーに叫ぶと、割れんばかりの歓声が起こった。ノリのイイヤツらだこと。


 おーおーと十二分に叫ばせ、拳を天に掲げると、ピタリと叫びが静まった。


 ……ノリと勢いって怖いな……。


「勇者とは困難に当たろうとも不屈の精神で立ち向かい、勝利した者だけに与えられる称号である。軽々しく与えられる称号ではない」


 そうじゃない勇者もいるけど、それはそれ。これはこれである。


「勇気なき戦士は戦士ではない。知識なき人は人ではない。ただ蛮勇を誇るだけの戦士はただの獣だ。そんなものに誇りなど語る資格はない」


 せっかくなのでシープリット族に倫理と道徳を教えておく。


「この世界にはいろいろな種族がいる。それはこの場で語る必要もないだろう。それがどんなものか見て来ただろうからな」


 観客席を見回す。


「力なき命に未来はない。力のないヤツの言葉など誰にも届かない。弱者はただ強者の糧になるだけだ」


 魔大陸にいたヤツならこの言葉は深く胸に刺さるだろうよ。


「しかし、それは獣の理論だ。人の理論ではない。人は理性を持ち、知恵を使い、和と法を持って進化して、今ここに立っている」


 その間にはたくさんの血を流して試行錯誤があっただろうよ。


「だが、オレは勇者を否定しない。蛮勇を否定しない。種族を否定しない。命を否定しない。強者を否定しない。弱者を否定しない。なぜだかわかるか?」


 それに答えられる者はいないだろう。ノリと勢いで言ってるのだから。キリッ。


「……詐欺師か……」


 鼓舞ですよ、幽霊さん。


「それがオレが生きている世界がそうだからだ」


 ニヤリと笑ってみせた。シープリット族に人の表情がわかるか知らんけどな。


「勇者ルダール! オレが与えたハルバードを与えたとき、誇らしかったか?」


 前を見たままルダールに問う。


「はい! ガンクツオーはおれの誇りです!」


 その声は自信に満ちており、心から出た言葉だろう。見る者が見たら輝いて見えるだろうよ。


「巌窟王を捨てて、魔大陸に戻りたいか?」


「戻りたくありません!」


「なぜだ?」


「あそこには誇りがなかったからです!」


 それは今が幸せだから出た言葉だろうな。


「今は最高か?」


「はい。最高です!」


 きっとイイ笑顔を見せていることだろうよ。


「この世界を壊したいか?」


「壊したくありません!」


 一つ頷きして、下ろした拳をを再度天に掲げた。


「勇者たちよ。これが答えだ。世界だ。生きて輝け。シープリット族の栄光は今このときより始まるんだからな!」


 と、闘技場が爆発したように湧いた。


 ククッ。チョロいヤツらである。

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