第1258話 カーン

 わかってはいたけど、今回も大人数である。


 君ら暇なの? と思わず口から出かかったが、特大のブーメランになって返って来そうだから慌てて飲み込んだ。


「また班分けするぞ」


 魔女さんたちを基本に五チームに分けたが、人数が多い(主にカイナーズが)ので一チーム三班に組分けした。ふ~。


「まるで自分がやったように言ってますが、ベー様なにもしてませんよね」


 言わなきゃわからないんだから言っちゃイヤン。


 ちなみにオレは単独──ではねーけど、チームから外してもらった。久しぶりに狩りをやろうと思ってな。


 まあ、カイナーズや魔女さんたちから反対が出たが、うるせーと黙らせたよ。オレは最前線に立つ村人だ、ってな。


「誰一人理解できてる人はいませんでしたけどね」


 わ、わかってもらいたいわけじゃないので構いません!


 ドレミ、いろは、ミタさん、あと幽霊でエボーを探しにジャングルへと入った。空飛ぶ結界でね。


「ベー様! エボーがどこにいるかわかってるんですか?」


「わからん!」


 それ以前にエボーがどんな姿かも知りまセーン。


「じゃあ、どこに向かってるんですか?」


「あっちだ!」


 ビシッと前方を指差した。


「……つまり、適当なんですね……」


 当たらずも遠からず。だが、オレの中にある野生(笑)が言っている。あっちだとな!


「マイロード。二時方向に熱反応があります」


 密集する木々を結界で弾き飛ばしていると、右肩につかまる白猫型のいろはが声を上げた。あ、左肩には黒猫型のドレミがつかまってますぜ。


「熱? 竜って体温あったっけ?」


 暑さ寒さに強いかどうかは考えたことあったが、体温があるかどうとかは考えたことなかったわ。


「体温は約三十八度。熱量からいって猫系の生き物かと思います」


 え? スライムって赤外線なお目々してたの!? 


「スライムって謎ですよね」


 君も謎な幽霊だけどね!


「こちらに向かって来ます」


 時速にしたら六十キロくらいで飛んでいるのにそれについて来るか。スゴ……くはないか。元の世界でも熊は六十キロで走ると言うし、ファンタジーな世界の生きもんならマッハを出しても驚きはねーさ。


 すぐに追いつかれ、黒い肌をしたデカい猫? なんだ? 表現できねーわ。


「リジャーと呼ばれる竜ですね」


「竜? これが?」


 ま、まあ、確かに肌の質感が火竜に似ているし、よく見たら頭に二本の角が生えてた。


「エボーじゃねーんだな?」


「はい。エボーは二足歩行ですから」


 二足歩行に荷車を引っ張らせるんだ。


「確実にエサ認定されてんな」


 速度を上げたが、リジャーも速度を上げて追って来る。


「騎乗できたら見映えはいイイかもな」


 馬よりちょっとデカいが、馬より速く走りそうだ。手懐けるには大変そうだけど。


「ベー様。排除しますか?」


 どこからか大型拳銃を出すミタさん。そんなんで排除できるんかいな?


「弾丸が特別なので問題ありません」


 どう特別なのかを訊くのが怖いのでサラッと流すとして、無駄な殺しはしない主義。ほっとけと言おうとして止めた。


「……馬より速いか……」


 リジャーは猫化のようなしなやかさとジャングルを走るに適したフォルムをしている。乗馬好きとしてはそそられるものがあった。


「また寄り道脇道主旨忘れですか?」


 そんな三段活用みたいに言わないで。まあ、その通りなので反論できませんけど。


「あいつを捕まえる。手を出すなよ!」


 オレとリジャーの戦い。どっちが強く、いや、オレが上でお前は下だと教えるための調教である!


 殺戮阿吽を抜き放ち、空飛ぶ結界から飛び降りた。


「オレがお前に跨がってやるよ!」


 纏った結界を操りアクロバティックな着地。オレをエサ認定したリジャーと向き合った。


「ほぉう。さすが野生。誰が強いかわかるようだな」


「まあ、ある意味、ベー様が一番でしょうね」


 幽霊さん。シリアスな場面なんだからチャチャいれないでくださいませ。


 殺戮阿吽を振り回し、リジャーを挑発する。


 野生なだけに油断なくこちらを警戒し、距離を計っている。強者の余裕がないところを見ると、カーストはそんなに高くなさそうだ。


「まあ、オレの前では目くそ鼻くそだがな」


 リジャーから感じる強さは下の中。完全無欠に雑魚である。何十匹何百匹襲って来ようがオレの優位は揺るがねーぜ。


「さあ、来な。オレの愛馬──ではなく、未来の愛竜よ!」


 脳内でカーンと鐘が鳴った。

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