第1251話 師
ぶっちゃけ、回復魔術って使いどころを選ぶよな。
いや、怪我を治すと言う点では有効な力ではあるよ。冒険者とか荒くれな業種ではな。
だが、帝都のようなところでは怪我より病気のほうが多い。そう言うところでは常備できる回復薬のほうが需要があるはずだ。
そもそも回復魔術を使えるヤツが少なすぎる。委員長さんの会話からも数人、オレの勘では三人いるかいないかくらいだ。
仮に五人だとしても千人規模の町くらいしかカバーできないだろう。とても帝都──いや、特定の者しか相手できないだろうよ。
それでは回復魔術なんて発展はしない。イロモノ魔術として笑われるだけだ。
ヤンキーを傷つけては回復魔術をかける委員長さんを見ながらそんなことを思う。
「そろそろ休憩したらどうだい? 無理しても身にはならんよ」
根性論を否定する気はないが、賢いヤツは効率を考えるもんだぜ。
「……もうちょっとでつかめそうなのよ……」
「そうかい。まあ、気が済むまでやればイイさ」
まだ若い身。失敗と後悔を繰り返せ。オレは前世で十二分に経験したからのんびりゆったりやらせてもらうがよ。
「ベー様。薬草採取班が戻って来ました」
パラソルの下でマ○ダムタイムをしていたら赤鬼のメイド(青鬼のメイドさんといたときのね。いつの間にかミタさんの下に置かれたらしいよ)が報告に来た。
「あいよ」
オレも薬草採取にいきたかったが、サダ──じゃなく、ミレンダ嬢を筆頭に解剖班(似たようなのが他に三人もいました)を見張ってなくちゃいけない。あいつら、ほっとくと夜な夜な村に恐怖を与えそうになりそうだから、物理的に止めないとならんのだ。
……あいつら、先生に預けたほうがイイかもな……。
毒は毒に制してもらったほうがまっとうになりそうだしな。起きたら相談しようっと。
薬草採取班が集めて来たものをビニールシートに並べてもらい、ザイライヤー族の薬師にレクチャーをしてもらう。
チビッ子さんに写真を撮ってもらい、他の魔女さんに名前や特徴をメモってもらう。
「……薬学が遅れてるから薬草が少ないと思ったけど、予想以上に豊富だな……」
オレらが住む大陸より豊富なんじゃね?
「用途も多いし、ザイライヤーの薬師、優秀すぎだろう」
いつからザイライヤー族に加わったか知らんが、オレらが住む大陸より確実に上をいっているし、病気に効く薬が多い。どうやって効果を知ったんだ?
「そうなんですか?」
オレの呟きを聞いたチビッ子さんが反応を示した。
「薬の種類が多いと言うことはそれだけ病気を知っていることであり診断ができるってことだ。これだけの知識があれば皇帝の主治医になれるぞ」
つーか、異常だ。どうやればここまでの技術を身につけられるんだ? 文化レベルがアマゾンの原住民レベル(は言いすぎか?)なのによ。
「……もしかして……」
「もしかして、なんなんですか?」
「──いや、なんでもねー。気にすんな」
おそらく転生者──オレらより前にこの世界に転生させられた者が関わっていると思う。
まあ、確証はないが、そうだと考えればこの世界のちぐはぐな文明文化のレベルが納得できるってものだ。
「そんなこと言われたら気になります!」
このチビッ子さん、意外に好奇心が強いな……。
「知りたければ叡知の魔女さんに尋ねな。まあ、教えてくれるかはわからんけどな」
帝国の裏にいる存在だ、転生者のことを知っていても不思議ではない。だからオレに近づいて来たんだと思う。勘でしかないけど。
見習いが叡知の魔女さんに尋ねるなどできないようで、チビッ子さんは黙ってしまった。
「どうしても知りたければ成り上がれ。真実を知るにも力がなければ押し潰されるだけだぞ」
真実なんて知ってしまえばそんなものと思えたりもするが、世間一般に知られてないのなら隠されている理由があるはず。それを無理に暴こうとしたら、まあ、アンタチャブルなことが起こるだろうよ。
「…………」
「どうしても、と言うなら教えてやろうか? 知ったそのときから生活は一変すると思うけどな」
それが明るくなるか暗くなるかはわからんけどな……。
オレの満面の笑みになにかを感じたのか、両耳を塞いで首を左右に振った。
「き、聞きたくありません!」
「フフ。それがイイ。世の中には知らないほうがイイことがあるからな」
好奇心はほどほどがイイ。それが長生きの秘訣だ。特に自分が凡人ならな。
「知らない真実を求めるより、知らない知識を得ることに集中しな。目の前には叡知が広がっているんだからよ」
金を出しても知ることができない知識はあるもの。それがちょっとの食料と薬で知ることができる。余所見してたら取り零してしまうぜ。
「薬師殿。調合を教えてください」
教えを乞う薬師殿に頭を下げる。いや、師に頭を下げる、か。これから学ばしてもらうんだからな。
「わ、わたしもお願いします!」
チビッ子さんがオレに続き頭を下げ、薬学に興味がある魔女さんたちも頭を下げた。
突然のことに薬師殿が戸惑うが、オレらの真摯な願いに応えてくれ、自分の知っている知識を伝授してくれました。
師よ、あなたに感謝します!
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