第1250話 ヤンキーの使い道
ギャーギャーと言う鳴き声だか叫び声に目を覚ましてしまった。
「……なんなんだよ、うるせーなー……」
まだ起きる時間じゃねーんだよ。静かにしろよな。
毛布をかぶって再度眠りにつこうとするが、ギャーギャーが徐々に大きくなって来た。
………………。
…………。
……。
「──うるせーよ!」
なんなんだよ! 安眠妨害だぞ!
「外、大変なことになってますよ」
レイコさんが上半身をキャンピングカーから出していた。朝からホラーは止めてください……。
「マイロード、濡れタオルです」
と、顔に濡れタオルが当たり、ゴシゴシと拭かれてしまった。
お陰で眠気も吹き飛び、頭がすっきりクリアとなった。
「まったく、なんなんだよ」
ドレミが差し出したカップを反射的に受け取り、なんなのか確かめることもなく口にした。
「……ありがとさん……」
中身はコーヒーで、とても旨かった。
キャンピングカーから出ると、インシュロック、って言ったっけ? あの線とかを束ねるヤツ? それで両足両腕をガッチリ拘束されたヤンキーがたくさん転がっていた。
「徹夜でがんばったんですかね?」
「ガンバりすぎだよ! ここはヤンキースタジアムじゃねーんだよ!」
いや、千や二千でもとは言ったけど! 本当に千匹以上生け捕りしてくるとは思わなかったわ!
「ベー様! たくさん捕まえ来ました!」
なんかボロボロになったカイナーズの連中の屈託のない笑顔が眩しいです。
「お、おう。ご苦労さん……」
その笑顔にはそうとしか返せませんでした。
「ってか、誰が捕まえたかわかんのか?」
個人戦だったんだろう? 家を建てるんだから……。
「大丈夫です。それぞれの魔物にチップを射ち込んでますから」
チップ? なんじゃそりゃ?
「ん~よーわからんが、誰が捕まえたかわかるなら纏めて払ってもイイってことかい?」
これだけいるのを換金してたら何日かかるかわかったもんじゃねー。そんなことに時間を使いたくねーよ。
「はい、大丈夫です! 部隊に経理がいますから!」
部隊に経理? なんのためにだよ? ほんと、よくわからん集団だよ。
「そっちがそれでイイならオレは助かるよ」
とりあえず二百万を渡した。
「その経理への手間賃と参加できなかったヤツらへの謝罪だ。余った分は酒代にしてイイからよ」
なんだかんだとカイナーズにはお世話になっている。二百万くらいで報いてやれるなら安いもんだわ。
「ありがとうございます!」
ふー。カイナーズのほうはこれでイイとして、ヤンキースタジアムをどうするかだな。
あ、ちなみにオレらは村の外にキャンプしてますよ。村の中は近隣から逃げて来たヤツらでいっぱいだったからな。
「凄いことになってるわね」
ヤンキーの悲鳴に起こされたのか、いつの間にか魔女さんたちが集まっていた。
「フフフフフフ」
って笑っているサダ──ミレンダ嬢は全力全開でスルー。ミタさんに視線を飛ばした。押さえろ! とな。
首トンされて気絶させられるのもスルーして、拘束されてるヤンキーに近寄る。
「カイナーズでも根絶やしにされないとか、ヤンキーの繁殖力はスゲーな」
この大陸でのゴブリンなのかな?
「これをすべて解剖するの? 物凄く嫌なのだけれど」
そうだそうだと、他の魔女さんたちの圧のほうが物凄く嫌なのですけれど。股間がキュッとするので止めてください。
「さすがにしねーよ。オレでも嫌だわ」
よほど好きか仕事じゃねーと解剖なんてしたくもねー。ゴブリンのときは三十体で嫌になったわ。
「魔女って魔物退治とかするのか?」
「戦術科ほどではないけど、年に五回は魔物退治をするわ」
魔女に戦術科とかあるんだ。おっかねーな。
「それは外に出てかい? それとも捕まえたものをかい?」
「……捕まえたものよ……」
さすがにスパルタじゃねーか。蠱毒のような場所なら付き合いを考えるところだ。
「なら、使い方はわかるよな」
攻撃魔術の的は動いているほうがイイ。戦闘をするなら、な。
「他にも薬の効果を見るのにもイイし、回復魔術の実験台にもなる。人型の魔物って重宝だぜ」
「……悪魔か……」
「フフ。人は悪魔にも勝る存在だぜ」
逆に天使にも勝る存在にもなれるんだぜ。知ってた?
「魔女の棲み家に、魔物を保管しておく場所はあるかい?」
「……あるにはあるけど、さすがにこの数は無理よ……」
やはりあるんだ。オレが想像する以上に大組織のようだ。
以前、公爵どのが何十もの大派閥があると聞いたことあるが、魔女はその一つのようだな。
「なら、オレのほうで預かるよ」
薬の効果を知るためにもヤンキーは持っていたほうがイイしな。
「今日は薬草採取班と解剖班、あと、回復魔術班に分けるか?」
ちなみにオレは回復魔術班です。どんなものか興味あるし。
「ええ。すぐに班分けするわ」
理解のある委員長さんで助かります。
「ミタさん。そう言うことだからよろしく頼むよ」
「畏まりました。カイナーズにも話を通しておきます」
頼れるミタさんが大好きです。
さて。朝食までにヤンキーを片付けんとならんな。
とりあえずヤンキーを小さくして、結界の中へとポポイのポイ。まったく、朝から忙しいこった。
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