第1233話 たい焼き屋さん
「え? 空中? なんで?」
カイナが言うようにオレたちが現れたのは空中だ。
フュワール・レワロを創ったヤツはきっとアホだと思う。フュワール・レワロに入るときは触った場所から入れるようになってるのだが、中身の創り次第で命がない場合があるのだ。
「そう言う創りだ」
自由落下の中、カイナに答える。
「レニスたちは?」
「前に入ったときに仕込んでおいたから大丈夫だよ」
バイブラストの地下にあった天の森にいったとき、いくつかのフュワール・レワロに入って、手頃なものには結界を施していたのだ。
……ちなみに出るときは専用の部屋から出るんだから変な創りだぜ……。
このフュワール・レワロは個人用なのか、中はそんなに広くはなく、高さもない。地上まで百メートルもないだろう。
仕掛けた結界で落下速度が緩み、ゆっくりと地上へと落ちていく。
「なんか懐かしいところだね」
「たぶん、オレらと同じ転生者が創ったんだろうな」
それも昭和生まれで浅草の近くに生まれたんだろう。まあ、それはオレの勘だし、昔過ぎて浅草寺の記憶が乏しいから本物と同じかは知らんけどよ。
「音がないとなんか不気味だね」
「そうだな。なら、カイナーズのヤツでも住まわせろ。ここは、レニスにくれたからよ」
「うん。そうする。おれもたまに来たいし」
そのときはオレも来させてもらうよ。元の世界のことは吹っ切れたとは言え、こうも元の世界を見せられたら嫌でも郷愁が湧いて来るわ。
地面、と言うか、石畳の上に着地。見張りに立っていたカイナーズのヤツが駆けて来た。
「ご苦労様。レニスたちは?」
「レニス様とサプル様は町を探索しております!」
まあ、あの好奇心が服着たような二人がじっとしてられるわけねーか。
「カイナ。二人を頼むわ。オレは門を設置するからよ」
「どこに繋ぐの?」
「ブルー島の姉御のところに繋ぐよ」
離れに集中させると迷うヤツがいそうだからな。
「できればカイナーズホームに繋げてよ。いろいろ搬入するからさ」
「了解」
異存はないので了承する。
とりあえず、ここの転移結界門は境内の端に設置する。
ここから転移はできないので、外に出るための部屋──本堂へと向かう。
……罰当たりなヤツだよな、製作者って……。
本堂から外に出て地上へと向かう。カイナーズの哨戒艇の一つに上がる。
ミタさんもその哨戒艇にいて、いつものメイド服に着替えていた。
「いないと思ったら上がってたんだ」
完全無欠に忘れていたことは内緒。背後の幽霊、よけいなことは言わんとってね。
「ミタさん、転移バッチでカイナーズホームにいけたっけ?」
前に転移したような気もするが、カイナーズホームは魔改造されすぎて転移バッチでいけるかわからねー。弾かれる前に尋ねたほうがイイだろう。
「はい。大丈夫ですよ。カイナ様が専用の道を創ってくださいましたから」
カイナにそんな芸当ができたんだ。ちょっと驚き。
「じゃあ、カイナーズホームに転移する」
「あ、あたしがやります。専用の転移ルームがありますので」
そうなんだ。じゃあ、よろしこ。
ミタさんにつかまり、カイナーズホームへと転移。なんか格納庫っぽいところに現れた。
「今度からここに転移するとよろしいかと。常駐してる者がおりますので」
と言ってる間に黄色いエプロンをした店員が二十人くらい集まって来た。いや、多くね?
「いらっしゃいませ! ようこそカイナーズホームへ!」
全員で言うなや! うっせーよ!
「カイナから頼まれて転移できる門を設置するからどこかテキトーな場所を用意してくれや」
「どのくらいの場所が必要ですか?」
転移結界門を創り出す。
「このくらいだ。一応、動かせるから仮でもイイぜ」
「壁にでも大丈夫でしょうか?」
「問題ねーよ」
と、壁に移動させて固定させる。
「もし、動かしたいときはここのボタンを押して動かせる。決めたらもう一回押したら固定されるよ」
「……便利ですね……」
何個も創ってればバージョンアップもするわ。
「何人かついて来てくれ。カイナが物を運びたいって言ってたからよ」
あのフュワール・レワロにはなにもない。住むとなればいろいろ必要だろうよ。
転移結界門をレニスのフュワール・レワロを繋ぎ、扉を開いた。
「あ、あんちゃんだ!」
開けたらサプルとレニスたちがいた。まだ探索してるのか?
「よっ。どうだ、ここは?」
「すっごくおもしろいよ! たい焼き屋さんあったからあんこを買いにいくの!」
たい焼き屋さん? 前にたい焼きモドキを作ったことがあるが、屋さんまでやったことはねーぞ?
「あ、おれが教えた。見たら食べたくなったから」
カイナか。ならたい焼き屋さんもわかるか。ってか、たい焼き屋さんまであるのかよ。なにを目的でここを創ったんだ、製作者は?
「そうかい。いっぱい作ったらわけてくれや」
「うん! いっぱい作る!」
まあ、ほどほどにな。お前はいっぱいは一般から百倍はズレてるんだからよ。
「ベー様。あたしも行って来ます!」
ハイハイ。ご自由に。お菓子大好きメイドさん。と、手を振って承諾した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます