第1221話 揺らぎ
どんどん潜ると水圧を感じるようになって来た。
前に一度、結界なしでどこまで平気か試したことがある。もちろん、呼吸できるようにしてだけど、かなり深くまで潜れた。
結界をミタさんに繋ぐ。
「ミタさん。水深とかわかる?」
「え? あ、はい。わかります。二十三メートルです」
それでこの明るさか。湖の深さと海の深さは違うのかな?
今度はレニスに繋げる。
「レニス。体はどうだ? なんか違和感はあるか?」
「全然ないよ~。最高すぎて鼻血出そうよ!」
その表現はどうかと思うが、レニスらしいと言えばレニスらしいとも思うので、サラッと流しておく。
サプルに目を向ければこちらも興奮した様子。まあ、サプルの場合は湖で泳いでたりするから安心して見てられるけどな。
……たまに想定外のことをするのがサプルだけど、今回はレニスがいるから大丈夫だろう……。
そう自分を納得しておこう。本当に想定外のことしないでよね。
さらに潜ると、カイナーズの何人かが潜るのを止めた。どうした?
結界をミタさんに繋いで尋ねた。
「水圧に耐えられないようですね。訓練はしてますが、こんなに潜ることはありませんから」
潜水訓練もしなくちゃならないとか、カイナーズで働くのって大変なんだな。オレには無理そうだわ。
前世でも会社勤めが苦手な質だったし、自由気ままが一番オレの性にあってるぜ。
「……水質が異常に綺麗ですね……」
なぜかレイコさんの声が聞こえる。
海ではレイコさんと会話するためにと、レイコさんを含めて結界に包んでいたが、今回は呼吸にしか結界を使ってねー。なのに、なんで声が聞こえるのよ?
「あら、そう言えば確かに。不思議ですね」
あんたの存在そのものが不思議ですけどね! ってか、心の中で言ったんですけど!?
「まあ、そんなこといいじゃないですか」
ドライやね。水の中だけど!
「ベー様のたとえはよくわかりません。それよりなにか見えて来ましたよ」
心のモヤモヤを抑えて奥──と言うか底に意識を向ける。
なにか水が揺らめいている。なんなんだ、いったい?
「家長さんがこちらに来ますよ」
と言うので結界で包み込む。
「どうかしたんかい?」
「声!? え? はあ? え?」
「オレの力だ。慌てなくてイイよ」
あわあわしている家長さん。溺れ……るかどうかは知らんが、心臓は止めないでくれよ。
「……す、すまない。あそこから我々の住み処だ。地上の者が入るのはベーたちが初めてだ。我々に合わせているので問題があればすぐに出てくれ」
環境を変える力、または技術があるってことか。淡水人魚、スゲーな。
結界を広げ、ミタさんやカイナーズを包み込む。
「これから先が人魚の環境らしい。まずオレが入るから待っていろ」
「最初に入るなら我々が入ります!」
「そうです! カイナーズに任せてください!」
オレを遮るカイナーズやミタさん。そんな過保護にされる年齢……ですけど! それは今さらでしょう。もっと酷いところに入ったりいったりしてるんだからよ。
「わかったよ」
押し問答するのもメンドクセー。人魚の環境とは言え、命にかかわるほど違いはねーはず。仮にあったとしても即死でないならなんとかできる。仕事させるのも雇い主の仕事だ。
「では、我らがいきます」
「家長さん。頼むよ」
「ああ。わかった」
家長さんが揺らぎの先に入り、カイナーズの二人が続いた。ララさんが残っているのは人質的なことか? だとしたらかなり気を使ってること。
一分二分と過ぎ、十五分が過ぎた頃、カイナーズの二人が戻って来た。肉体的には無事のようだ。
「遅くなって申し訳ありません。この先はかなり水温が低いです。潜れば潜るほど下がっていきます」
人魚は寒さに強いとは聞いてるし、冬の海でも寒そうにはしてなかった。それは淡水人魚にも言えるってことか。
「ウェットスーツでは厳しいかもしれません。ドライスーツに着替えるか、ベー様の力で対処するのがよろしいかと思います」
経験者の助言は聞くべきだろうと、全員に結界を纏わせた。
「それで大丈夫なはずだ。確認してみてくれ」
南極(前世のね)の海でも南国の海の如く泳げるはずだ。
また二人が揺らぎの先に入り、また十五分くらいして戻って来た。どうよ?
「問題なくいられます。ただ、もう少し温度が低いと助かります。なにか風呂に入っている感じなので」
ちょっと上げすぎたか? まあ、個人差はあるだろうから二、三度下げる感じにする。
「お邪魔してまだ高いと感じたら言ってくれ。調整するからよ」
「わかりました。お願いします」
あいよと答え、家長さんを見る。こちらは準備オッケーよ。
「では、どうぞ」
家長さんに続いて揺らぎの先へとお邪魔しま~す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます