第1220話 潜水

「……本当にやるのか……?」


 ノリノリなレニスに再度問う。妊婦って自覚しろよ。


「やるに決まってるじゃない。人魚の住み処にいけるなんて滅多にないチャンスだもの」


 いや、当然のように人魚と交流してるし行き来もしてるよ。と言ってみるも、レニスはまったく聞かない。完全に心はダイビングに天元突破していた。


「……こんな頑固じゃ周りは大変だろうな……」


「まったくよ」


 なぜオレを見ながらおっしゃるんですかね、このメルヘンは? オレはレニスのことを言ってるのに。


 やる気満々全開一二〇パーセントなレニスに花丸笑顔のサプル。混ぜるな危険な二人を宥めすかし、カイナーズが用意したモーターボートに乗り込む。


「そう言えば家長さんとララさんは?」


「あそこにいます」


 ミタさんが指差す方向に……ん? どれ? まったく見えないんですけど。


「とりあえず、あの二人のところに向かってよ」


「畏まりました。ゆっくり向かってください。スクリューに巻き込まれるといけませんから」


 ジュゴンもスクリューに傷つけられるとか聞いたことあるが、この世界では人魚に気をつけないといかんのか。水上ルールとか作らんとならんな。


「ワリーな、待たせてよ」


 待たせと言うか放置してすみませんでした。


「あ、いや、構わんよ……」


 まあ、そうとしか言えんだろうな。モーターボート三十隻以上に囲まれたらよ。


 ……もう威圧と受け止められてもしかたがねーよ……。


 カイナーズの考えもわかるのでなにも言えねーが、少しは配慮もしろよな。世の中暴力だけでは解決しねーんだからよ。


「ここからいくのかい?」


「いや、もっと陸から離れた場所だ。ただ、住み処の上を行き来されると困るので離れた場所から来てもらいたい」


「わかった。そちらの指示に従うよ」


 有利に立とうが、信頼関係を築くことを蔑ろにしたらアカンたれ。それが一番他種族との関係をよくするのだ。


 ララさんを先頭に湖の中央へと進んでいく。


 振り返ると陸はもう見えなくなり、四方水ばかり。方位磁石がなければ遭難しそうやな。


「湖の湖畔には電波塔を築いたので迷うことはありません。あと、人魚の許可を得て浮標も設置するのでご安心ください」


 水上は完全に掌握した感じやね。


 二十分ほど進むと、モーターボートが減速してやがて停止した。ついたの?


「ここから入って欲しい」


「あいよ。ミタさん。用意できてる?」


「はい。こちらはできております。サプル様やレニス様は大丈夫なんですか?」


「レニスはオレの力で問題なくした。水竜に噛まれても平気だ」


 形はダイビングだが、水圧や温度、気圧に空気は地上と同じにしてある。まあ、それだとダイビング感がないので浮力は残してあるよ。


「サプル。泳ぎとは違うんだから万が一のときはマジカルチェンジフォーしろよ」


 サプルに纏わせてある結界は水中にも対応できる。危ないと思ったらすぐにマジカルチェンジするんだからな。あんちゃんとの約束だぞ。


「ってか、ミタさんってダイビングしたことあんの?」


 もうウェットスーツに着替えて酸素ボンベ……は背負ってませんね? 空気、どうすんの?


「魔術で息継ぎするのでご安心ください」


 それはもうダイビングじゃなくね?


 まあ、ミタさんが納得してるならオレが口出すことじゃねー。つーか、オレも結界で息継ぎするんだからなんも言えねーわ。


「んじゃ、いくか」


 結界に頼らずとも水に慣れているので、飛び込むのに躊躇いはなし。いや、ちょっと溺れる予感がよぎりました。ウパ子、ついて来てねーよな?


 潜ってから辺りを見回すが、オレを溺れさせる悪はいなかった。ホッ。


 改めて周りに目を向ける。


 人魚が住むところは水質がよく透明度がある。それは淡水人魚も同じなようで十メートル先までよく見える。


 ……大型の魚も結構いるんだな……。


 南米にいそうなタピオカ? じゃなくて、ピラ、ピラ、ピラ……クル、だっけ? まあ、そんな感じのやチョウザメっぽいのまでいる。いや、チョウザメって北半球の北欧? ロシア? とかにいるんじゃなかったっけ?


 観賞するにはなんか微妙なので意識から外し、潜っていく家長さんやララさんのあとに続いた。


 さあ、淡水人魚の住み処はどんなだろうな? 楽しみだぜ。

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