第1207話 ガンバレ

「バカじゃない」


 と言う罵倒を何度メルヘンの口から聞いただろう。そろそろオレの心に傷がつく……こともねーな。つーか、ちょっとゾクゾクして来た感じ。


 なんて言ったらドン引きされるのでお口にチャック。なんでもないって顔で受け止めた。


「出会うことがバカならオレは堂々と、高らかにバカだと言ってやるさ」


 オレの人生、イイ出会いが多い。それを否定するくらいならオレは出会いに胸を張って生きていくぜ。


「はぁ~。そうね。言いすぎたわ。ごめんなさい……」


 こう言うところは素直なんだよな。やり難いわ。


「気にしなくてイイよ」


 オレもゾクゾクしたことも気にしないからよ。


「ミタさん。カイナーズホームで魔道具売ってる……誰だっけ? フミさんの従姉妹? 親戚? なんだっけ?」


「従姉妹のハルさんです」


 あれ? そんな名前だったっけ? まあ、ミタさんがそう言うならハルさんって名前なんだろう。


「人魚用の浮き輪を買って来てくれ。ある分だけ」


 前にいくつか頼んだ中に人魚用の浮き輪も入れておいた。制限なしで。あれから数ヶ月経ってるし、十個くらいはできてんだろうよ。


「畏まりました」


 控える一般(?)メイドさんに指示を出し、シュンパネでカイナーズホームへと飛んでいった。


 無限鞄からテーブルと椅子を出してコーヒーを淹れてもらう。あ、カフェオレにして。砂糖抜きで。


「あ、わたしも~」


 テーブルの上に自分用のテーブルを出すプリッつあん。なんかこんな状況久しぶりな感じ。


「イイ眺めだな」


 背後のことは完全無欠に無視して前方の景色を楽しむ。


「ベーの琴線がわからないわ。あんな大きいトカゲを見てなにがおもしろいのよ」


「見慣れないものを見るのはおもしろいもんさ」


 これは前世の記憶があるから。なんもおもしろ味もない人生を送ったから。この世界に生まれて人生の素晴らしさを知ったから。だから見るものすべてが輝いて見えるのだ。


「変なベー」


 変で結構コケッコー。オレは他人に恥じる生き方はしてねーもん。


 流れていく景色と時間を楽しんでいると、カイナーズホームに買い物にいったメイドさんがツナギ姿のハルさんを連れて帰って来た。


「どうしたい?」


「浮き輪は後回しにしてたものなので不備があったら申し訳ないので飛んで来ました」


 そうなんだ。技術者の鑑だな。


「来てもらってワリーが、いつでも動かせるようにしててはくれよ。まだ人魚が来てねーからよ」


 それ以前に人魚と交流できるかもわからない。まあ、オレの勘は接触して来ると言ってるけどな。


「ここの人魚と仲良くするの?」


「それはあちら次第だな。否定されてまで無理矢理仲良くしようとも思わねーし」


 話した感じ、閉鎖された世界って感じでもなく、トカゲさんたちとも交流がある感じだ。それに敵対してるわけでもねー。いや、襲われたけど。


「広い湖とは言え、こんな狭い世界で生き抜くには大変だろうな」


 海まで続いている川や支流もあるだろう。そこにはたくさんの種がいるだろう。だが、食物連鎖のバランスが崩れたり狂ったりしたら簡単に死滅してしまう。


 まあ、そうでなくても順風満帆に、なんていく種族がいるわけもない。問題の一つや二つあるものだ。


 その日に黒髪美女の人魚が来ることはなく夜になり、なぜかバーベキュー大会となった。


 ……自由なヤツらだよ……。


 別に咎めることでもないのでオレも参加。ワニの肉を美味しくいただきました。


「あ、それは八岐大蛇ですよ」


 ぶっほっ!


 な、なんてもん食わしてんだよ! なんの肉か教えてよ!


「ベーでも嫌がるものがあるのね。なんでも食べるのに」


「なんであるか知ってたらありがたく食うよ。知らないものを食うほど悪食ではねーわ!」


 食えることが大切だから食えるものを知っておきたい質である。メンドクセーと思うが、そう言う性格だからしょうがないでしょ。


「ベー様。申し訳ありませんでした」


 話を聞いていたミタさんが謝って来た。


「イイよ。食えるから出したんだろうからな。ありがとな」


 驚きはしたが、オレのために出されたもの。それに文句を言ったら作ってくれた者に失礼ってもんだ。


 バーベキューが終わったら桟橋に出て星空の下でコーヒー片手に食休み。ゆっくり流れる時間が幸福感を満たしてくれる。


「イイもんだな」


「そうね」


 オレの頭にパ○ルダーオンしてるプリッつあんが答える。


 そんな長いときを連れ添った妻のように答えないでください。君と知り合って一年も過ぎてないんだからさ。


「マイロード。囲まれてます」


 猫型ドレミがメイド型へとトランスフォームした。あ、最近見てないけどいろはもいるよ。忘れないでね。


 空に結界灯を打ち上げ、辺りを照らした。


「夜中の訪問は遠慮して欲しいんだがな」


 水面から上半身を出した人魚たち──いや、どもと言ったほうがイイな。悪い顔してるぜ。


「ベー様。我々が相手します」


 カイナーズの連中が前に出た。


「任せる」


 出番なしじゃ肩身が狭いだろう。ガンバレ。


 水の中の生きもんとどう戦うかは知らんが、なんとかするのがカイナーズ。気にせずキャンピングカーへと入り、夢の中へと旅立った。

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