第1192話 初顔さん

「……お前、なにやってんのよ……?」


 やっと動けるようになり、正座しているアホの元に向かい、呆れ気味に尋ねた。


「カホに反省の正座をさせられてます」


 カホ? 誰や? 


「カイナーズの戦略情報局長です。ハルメランで会った青鬼族の女性です」


 あ、ああ。あの冷徹そうな青鬼のおねーさんね。敵にしちゃダメな感じの。


「……ごめん……」


「構わんよ。いろいろ知れたし休めもしたからな。つーか、邪魔だからもう退けや」


 ドアの前で置物になられてたら邪魔でしかたがないよ。タダでさえうちの前には珍生物ばかりなんだからよ……。


「ぴー!」


「びー!」


「大丈夫でちか?」


「ホー。肉食べたい」


「やっと起きて来た」


 誰がどの珍生物かは各自の想像と判断にお任せします。


「カホに怒られそうになったらちゃんと取りなしてよ」


 どんだけ恐いんだよ、そのカホさんとやらは? つーか、なんでお前まで恐がってんだよ。カイナーズで偉いのお前だろうがよ。


「……カホは、いろいろと恐いんだもん……」


 ダメだ。精神的に負けてるわ。


 ま、まあ、中身は普通の男だしな、女には勝てないか……。


「ミタさん。上手く伝えておいてよ」


 オレも勝てそうにないんでミタさんにマルッとお任せです。


「畏まりました」


 離れに入ると、レニスと人族のメイド、あと、なんかお嬢さまな感じのねーちゃんがいた。初顔さんやね?


「客かい?」


 ってか、友達か? なんか親しげな空気に満ちてるが?


「初めまして、ですわね。わたくしは、タリオ。妹さんに誘われて行儀作法の教室を開かせてもらっております」


 あ、サプルが連れて来た貴族、いや、元貴族のお嬢さまか。


「そうかい。帝国式の行儀作法はいろんな国の基礎となってるから助かるよ」


 派生して変わっていることもあるが、帝国式を覚えていればこの大陸内なら使えることだろうよ。


「博識とは聞いておりましたが、そこまで知っているとは思いませんでした」


「いろいろ調べて勉強したからな」


 下準備もなしに帝国に乗り込むとか無謀でしかねーよ。


「ふふ。頼りになるお兄様がいてサプルが羨ましいです」


「うちに来たらもうタリオは家族だ。あらゆる不幸からオレが守るから安心しな」


 そう言えるだけの力を築いて来たし、それをまっとうできる意志と覚悟を持った。なに一つ心配はいらねーよ。


「はい。よろしくお願いします」


 上品に笑うタリオ。生まれもあるだろうが、この醸し出す品はタリオの性根が出してんだろうな~。


「そんで、レニスの具合はどうなのよ?」


 オレが聞くのもどうかと思うが、なにも知らないのもどうかと思う。差し支えなければ教えてちょ。


「うん。サラニラは問題ないって」


「そうか。それならよかった」


 サラニラがどれだけ腕を上げたかはわからんが、大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。


「そんで、実家にはいつ帰るんだ?」


「あ、いや、それが──」


「──ここで生ませる!」


 と、なぜかカイナが断言する。って、なにドアの隙間から言ってんだよ。中に入って言えよ。


「あ、うん。おれの魔力って母体に悪いみたいで四メートル以内に入っちゃダメって言われてるんだ」


「お前の魔力なら一メートルも千メートルも変わらんだろうがよ」


 オレはもう慣れたから気にもならないが、この膨大な魔力の前では四メートルなんて意味ねーだろうが。


「いや、この家に魔力封じの結界をかけてるでしょ?」


「あ、ああ。そう言やそうだったな。すっかり忘れってたわ」


 結界で丈夫にしてるついでに魔力遮断の効果もつけてたっけ。サプルが暴走しても大丈夫なように、な。


「それに、妊娠しての転移も妊婦にはよくないんだ」


「マジか!? そう言うのは早く言えや! オカン、シュンパネ使ってるだろうがよ!」


 ぶっ飛ばすぞ、アホんだらが!


「シャニラさんなら大丈夫だよ。なんか丈夫らしいから」


 あ、うん。丈夫だな。竜の血効果でよ……。


「なら、飛行機……に乗ってもイイんだっけか?」


 なんかよくないとか聞いたことあるが。


「まだ四カ月だから大丈夫なのは大丈夫だけど、この世界の空は危険だからね、なるべくなら止めておいたほうがいいと思う」


 あー確かに危険だな。魔力壁で守られてない飛行機では。


「となると飛空船もダメか」


 あれも結構強い魔力を放ってるし。


「そうだね。だからここで生ませるよ。ここならレニスもどこにもいけないからね」


 あーうん。そうだな。レニスは目を離したらどこかに消えるタイプだ。


「ミタさん。レニスの監視、よろしくな」


 メイドは二十四時間体制らしいし、気をつければ大丈夫だろう。たぶん……。


「畏まりました。体制を整えます」


「……妊娠って大変なのね……」


 妊娠ではなくレニスの性格と方向音痴が、だと思うけどな。


「ブルー島内なら好きに歩いて構わんさ。家に閉じ籠もってるのも体にワリーからな」


 ほどよい運動に健やかな環境。それならブルー島でも可能だわ。

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