第1183話 通常運転

 食堂に来ると、メイドさんたちのお料理教室が開かれていた。


「平和だな」


「ベーがいないと大体平和よ」


 幻聴は無視して囲炉裏間へと向かう。


「誰もいないな」


 ってまあ、当たり前か。まだ三時くらいだしな。


「ミタさん。コーヒーちょうだい」


 誰もいなくても一人で過ごせるので、コーヒーを飲みながら読書と洒落込みます。


「わたし、皆に挨拶してくるわ」


 コミュニケーションオバケのメルヘンさん。存在ハッキリしろよと突っ込みたいが、逆に突っ込まれそうだからいってらっしゃいと見送ります。


 しばらく読書してると、なにか賑やかな声が耳に届いた。


 なんや? と顔を上げると、食堂のドアが開いてサプルたちが入って来た。


「あ、あんちゃん! ただいまー!」


「おう、お帰り。楽しかったか?」


 まるで帝国にいかず留守番してたようなセリフだが、妹を迎えるのもまたイイもの。細かいことはなしだ。


「うん! 友達と舞踏会に出たりお茶会したり、なんだかお姫さまみたいなこといっぱいやったんだ!」


 舞踏会? 九歳の子が? いったいなにがあったんだ? オレ以上にわけのわからんことになっていたようだな……。


「窮屈じゃなかったのか?」


 お姫さまとか憧れる性格ではない。どちらかと言えばバトルアクションの主人公になりそうな性格なんだかな。


「全然! 毎日が楽しかったよ!」


「そうか。それはよかったな」


「うん。友達もたくさんできたしね」


 友達、と言うと、貴族のご令嬢、だよな? サプルと話しが合うのか? 真逆にいると存在だと思うのだがな?


「あ、あんちゃんにお土産。本好きの友達がくれたの!」


 と、収納鞄から大量の本を出すサプル。これはもうお土産ってレベルじゃないよ。大手書店に配送だよ。


「こんなにくれたのか?」


 その友達とやら、本屋の娘か? 


「うん。グレイムリアちゃんのおばあちゃんが魔女でね、あんちゃんのこと話したらくれたの」


 魔女? 話がまったく見えん? サプルの友達関係はどうなってんのよ?


「ベー様。貴族でも魔力の多い者は魔女学園に入りますが、貴族令嬢としての付き合いもあるので冬の社交界に参加するのです」


 と、ニューメイド長さんが教えてくれた。


「なるほど。帝国の貴族令嬢は大変だな」


 魔女学園があることにびっくりだが、思い返せば魔女がやたらといたな。あれは魔女学園があるからだったんだな。


「でも、魔女学園に通わない子より楽でイイって言ってた」


「貴族のご子息やご令嬢は十三歳から十八歳まで一般学園に入る決まりがあり、いろいろな学問を学び、季節の社交に参加したり、茶会を開いたりと忙しいそうです」


 ニューメイド長さんがサプルができない説明をしてくれる。この方、マジ有能。


「ちなみにサプル様のお友達様はカレット様のお友達様でもあります」


「カレット様は公爵様の娘様ですよ」


 あ、はい。補足ありがとうございました。


「レディ・カレットは魔女学園に入ってんのか?」


「ううん。通ってないって」


「カレット様は公爵令嬢なので公爵領の学園に通っております。ただ、義務ではないのでたまにしかいってないようです」


 なんだろうな。オレは誰としゃべってるかわからなくなるぜ……。


「ねぇ、あんちゃん。友達をうちに呼んでもイイかな?」


「それは構わんが、貴族のお嬢さまが外国に来てイイもんなのか?」


 よくは知らんが、不味いんじゃねーの?


「うちなら大丈夫だって言ってたよ」


「公爵様が許可を出しています」


 ってことは公爵どのの派閥か。殿下に疎まれたりしねーのだろうか?


「まあ、人数にもよるが、サプルが呼びたいなら呼べばイイさ。多いならブルー島に招けばイイしな。ミタさん。用意しておいて」


「畏まりました」


 ミタさんに任せたら安心。覚えている必要はねーな。


「あ、そうだ! 村の皆にお土産渡して来ないと!」


 女の性分なのかな? 皆に挨拶にいったりお土産渡しにいったりするのは?


「オレも帰って来たことも伝えてくれや」


 もし、オレのことを忘れてたらしっかり脳味噌に刻んで来てね。あんちゃんとの約束だよ。


「いってきまぁーす!」


 サプルに続くメイドさんたち。妹をよろしくお願いします。


 敬礼して見送り、いなくなったら読書に移った。


「ミタさん。コーヒーお代わり」


「はい」


 旨いコーヒーを飲みながらの読書。至福である。


「……これが通常運転ってやつですね……」


 幽霊の突っ込みなんてノーサンキュー。

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