第1182話 流してくださいませ
「うん。そろそろ館にいくか」
帝国でのなんちゃって貴族の気持ちはなくなり、ボブラ村の村人、ベーへと気持ちが切り替わった。
「どこにいてもベーはベーでしょう」
そんな心の機微を見抜いちゃイヤン。上辺はちゃんと変えてました。
「ベー様。留学者はいかがなさいますか?」
「自由にさせてて」
「つまり放置ね」
そこのメルヘン、言い方! 例え事実だとはしても、もっとまろやかに、オブラートに包んで言いなさいよ!
「では、ブルー島内の散策を進言してみますね」
「暗いけど、大丈夫なん?」
ブルー島では何時なんだ?
「はい。大丈夫ですよ。ブルー島は二十四時間体制で動いてますので、昼間と同様に店も開いてますので」
どこぞの観光都市よりスゴいことなってんな。ブルー島はどこを目指してんだ?
「そっか。なら大丈夫だな」
「そう思ってるのはベーだけだから。あの子たちにしたら不安しかないからね」
ハイ、ごめんなさい。誠心誠意、謝らせていただきます。が、そんな非難でオレが屈したり考えを改めると思うなよ! オレはその場の勢いで決める男だ!
と、心の奥底で叫ぶだけにしておきます。言ったらどうなるかわかるから。
「ミタさん。よろしくお願いします!」
他人の力を得られるならオレは頭を下げることに躊躇いを見せたりはしない! 必要ならその足すらナメてやるさ!
「……この男は……」
メルヘンなんぞの蔑みなど蛙の面になんとかよ。オレはオレの生き方を変える気はないわ!
「はい。わかりました。こちらでやっておきますね」
その微笑みが頼もしい。惚れはしないけど。
椅子から立ち上がり外に出ると、珍竜どもがじゃれ合っていた。
「……こいつなんて言ったっけ……?」
人間が憎いと叫びながらオレをスルーしやがった犬のような竜。ってか、なんでここにいるんだ?
「え? ベー様が飼うのではなかったのですか?」
なぜそうなるかを是非とも知りたいな。いや、イイ。不本意な答えが返って来そうだから。
「ギンコよ」
あ、ああ。そんな名前……いや、オレがつけた、んだっけ? あまり劇的な出会いじゃなかったからよく覚えてねーや。
「普通の人なら忘れられない出来事を忘れる自分の生き方を考えたほうがいいわよ」
………………。
…………。
……。
「ほ~らギンコ、高い高ぁーい」
ギンコを高い高いのクールクル。飽きたら放り投げて館へと向かいます。君らはそこで遊んでなさいね。
「……本当にこの男は……」
ハイ、こんな男なので諦めてください。
「うっ」
夜からいきなり昼と、目の奥が痛くなるな。
「フュワール・レワロも昼夜をいじられたらイイんだけどな」
受け継いだとは言え、あるものを受け継いだだけ。変な力を受け継いで創り変えるなんてことはできないのだ。
「ベー。寒い」
ああ。冬だからな。今さらなにを言ってんだよ。
「ここも暖かくしてよ。わたし、冬服持ってないんだからさ」
「帝国だって寒かっただろう」
オレは結界を纏ってたからどのくらい寒いかは知りませんけど。
「全然違うわよ。なんでここはこんなに寒いのよ」
「山風が当たる場所だからな、ここは」
ご先祖さまはなんでこんな場所に住んだのやら。オレにはよーわからんわ。
「そもそもなんで今頃言うんだよ? 村に来たときに言うことだろうが」
ブルー島には転移できない。必ず転移結界門を潜る必要がある。そこで気づいて冬服を用意すりゃイイじゃんか。
「船長服は厚くできてるからそんなに寒くなかったのよ」
まあ、ゴンドラ部は結界で纏わせてないから風がビュービュー吹いてくるからな。厚着じゃないとやってられないわ。
「しょうがねーな。ほれ」
オレの髪を集めて羽織るプリッつあんを結界で包んでやる。
「カイナーズホームで冬服買って来いよ。冬本番になる前に」
「まだ寒くなるの?」
「息がキラキラ光るくらいまでなる」
たぶん、氷点下十度になる日もある。これなら雪が降ってくれたほうが暖かいよ。
「まあ、年越し祭が終われば南の大陸にいくから夏着も買って来たほうがイイぜ」
あっちは季節が逆転してるようだからな。
「ベーといると昼夜とか季節とかわけわかんなくなるわよね」
うん。オレもわからなくなるときがあります。なので、サラッと流していただけると助かります。
館に入ると、執事さんとメイドさんが並んでいた。
「お帰りなさいませ」
執事さんの言葉にメイドさんが続く。
何度も受けてるわけじゃないが、不思議と我が家に帰って来たと思えるようになってから不思議だよ。
「おう、ただいま。留守を守ってくれてありがとな」
帰る場所を守ってくれてる。まったくありがたい限りだぜ。
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