第1169話 進水式

 次の朝、久しぶりに気持ちよく目覚めた。


「ん~~~ん。よく寝た」


 ここ最近、生活が乱れ巻くってたからな、普通に夜寝て普通に朝起きる。健康的でイイもんだ。


 まあ、また乱れる予感しかねーが、今は健やかな目覚めに幸せを感じようではないか。


「おはようございます、マイロード」


「おはよーさん」


 抱き枕となるドレミに挨拶を返す。


 自分の部屋なら洗面所があるのだが、プリトラスで借りている部屋にはついていない。なので、着替えてから洗面所に向かいます。


 洗面所(男性用)を誰がどうリフォーム(?)したかわからんが、なかなか造りはしっかりしており、水回りも普通に使えた。


「不思議なもんだ」


 まあ、それも今さらで、カイナが造った(?)もんに突っ込み入れたところで無駄。ファンタスティッ~クで流しておけ、だ。


 サッパリスッキリ身嗜み。今日も元気に生きますか。


 食堂に来ると、赤毛のねーちゃんたちがいた。


「おはよーさん。早いんだな」


「船乗りにしたら遅い時間だよ」


 漁師なら早いのもわかるが、なんで船乗りも早いんだ? 


「海は夜に動くと危険なんだよ。凶暴なのは夜に動くんでね」


 ファンタジーの海は大変だね~と思いながら席につくと、メイドさんがコーヒーを持って来てくれた。サンキューです。


「ミタさんは?」


 いないけど、どったの?


「館に戻って交換留学の人選をしています」


 あ、そうでした。すっかり忘れましたわ~。と、顔には出さず、あんがとさんで流しておいた。


「なあ、あたいたち、いつまでここにいなくちゃならないんだ?」


「うん? ああ、船もできたからいつ帰ってもイイが、できれば仕事を頼みたい。どうする?」


 帰りたいってんなら無理に引き止めたりはしねーよ。どうしてもってわけじゃねーしな。


「仕事ってなんだよ?」


「南の大陸にいくからそんときの足になってもらおうと思ってな」


 ラーシュの国には諸島があり、珊瑚が綺麗だとか。それを見るために赤毛のねーちゃんらに船を出してもらいてーのだ。


「あんた、自分の船持ってんだろう。プリッシュから聞いたぞ」


「オレが持ってる船は娯楽用で武装はしてねーんだよ」


 モコモコ兵器は外したし、乗ってるメイドが完全武装だけど、船自体に攻撃力や防御力はねー。どうせなら武装船のほうがイイと思ったまでだ。


「……その言い方だと、サリエラー号が武装してるように聞こえるんだけど……」


 あれ? 言ってなかったっけ? 


「言ってねーよ! サリエラー号になにしてくれてんだい!」


「どんな海でも航海できるようにした」


 赤毛のねーちゃんに貨客船を任せるが、いざってときのために最高にして最強の船に仕上げるようシュードゥ族の親方連中に申し上げそうろう。


「……あんたを信じた自分が憎らしいよ……」


「そうしょげんなって。武装ないよりはイイだろう」


「そ、そりゃそうだけど……」


 ならテンョン上げていけや。最高にして最強の船の船長になったんだからよ。


「ん? ちょっと待って」


 なによ? あ、メイドさん。コーヒーお代わり。


「いやいや、そんなわけないよね」


 なにを妄想してんのよ? 他のおっさんたちが戸惑ってますよ。


「……もしかして、だけど、南の大陸には海賊がいたりするの……?」


 お、さすが親父さんの娘だ。勘がイイじゃねーか。


「手紙でいるって話だが、どの程度かは知らんのよ。まあ、乗り込む系の海賊なら体当たりして沈めたらイイさ」


 そう言う海賊なら木造船だし、アタックして沈めたれ。


「……どっちが海賊だかわかんないよ……」


 襲って来るのが海賊。反撃するのが冒険商人。それでイイじゃん。深く考えんなって。気楽にアタックしろや。


「進水式ってやったのか?」


「シンスイシキ? なんだいそれ?」


 あれ? ねーの、そう言う儀式。


「まあ、船を水に入れる儀式だな。船の安全と航海の無事を祈ってな」


 ハイ、いつものようにテキトーです。ゴメンナサイ!


「って、もう水に浮かんでたりするのか?」


「え、ああ。浮いてるね……」


 あらら。浮いてたのね……。


「ま、まあ、あの船は海を走る船だ。河はノーカンだ」


 河船ではなく海船。区別はちゃんとしないとな。


「ノーカンがなんだか知らないけど、そうだね。サリエラー号は海の船だ。海に下ろしたらシンスイシキをやってくれよ!」


「ああ。わかった。約束する」


 どこの海かは約束できんけどね。

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