第1162話 生命の揺り籠

「天幕張ったんだ」


 フュワール・レワロの上に重圧感のある幕が張られていた。気がつかんかったわ。


「重要機密だからな」


「わたしは別に秘密にはしてませんよ」


 大図書館の魔女さんにフフと笑うが、軽く流されてしまった。お堅い魔女さんだ。


「それで、どうするのだ?」


「入らなかったんですか?」


「…………」


「アハハ。冗談ですよ」


 やはり引っかからないか。でも、答えないことで真実を言っているようなもの。適合者がいないってことだ。


「帝国のフュワール・レワロは固定式なんですね」


 フュワール・レワロは管理者しか入れない。だが、専用の出入口があれは誰でも入れるのだ。バイブラストにあるフュワール・レワロと同じようにな。


「よく知っているのだな」


「大図書館の魔女よりは知っていますが、すべては知ってません。制作者が資料を残してくれなかったのでね」


「そうか」


「はい」


 なんてからかうのもあとが怖いので、本題といきますかね。


 無限鞄からクナイを仕込んだベルトを出して腰に巻き、鉄球を入れた収納鞄を出して右肩にかけ、鉄粒が入った収納鞄を左肩にかける。


 柔軟体操して体をほぐし、両手首を振る。


「……なにをしているのだ……?」


「残虐運動です」


 大図書館の魔女の問いになぜかミタさんが答えた。なんでよ? つーか、残虐運動ってなによ?


「これからフュワール・レワロに入って門を創るのでちょっとお待ちを」


「門を創るとは?」


「これは単体なので専用の出入口がないので、直通門を中に創るんですよ。それと、門前の掃除ですね。しないと阿鼻叫喚になりますから」


「一人でいくのか?」


「一緒にいきますか? 大図書館の魔女なら死ぬことはないでしょうし」


 死なないよね? 人外だし。今さら引きこもりですとか言われても困るんだからね!


「ならばいく」


 と、なんかスッゲー魔力を放つ杖をどこかからか取り出した。


 ……この杖、マジヤベーもんだ……!


 博士ドクターが創ったもんよりヤバイもんに、ちょっと尿漏れしちゃう。


「あ、すまんな。久しぶり出したから忘れておった」


 すっとヤバイもんが消え、ただの杖っぽくなった。


「……おっかないの持ってますね……」


「初代がグレンに勝つために創ったと言っていたな」


 あ、ソウデスカ。ってか、その言い方だと勝ってないね。グレン婆はなにしたんだよ? 怖くて訊けねーな、こん畜生が!


「ま、まあ、大丈夫だと理解しました。容赦なく使ってください」


「よいのか?」


「極大魔術を丸一日撃ってもフュワール・レワロは壊れませんし、極大魔術一発で死ぬようなものは中にはいません。わかりやすく言うとオーガが羽虫にも劣るところです。ヤバイのは金王竜ですね。見たら逃げてください。大図書館の魔女でも勝てないでしょうから」


 あれはご隠居さんや暴虐さんでも勝てんな。メルヘン機総がかりでやれば勝てるかもしれんな。カイナなら瞬殺できそうだけど。


「……よく生きておるな……」


「自分でもよく逃げられたと思います」


 あれはマジビビった。死ぬかと思った。ちょっと泣きそうになったのは内緒だわ。


「それでもいきますか?」


「これでも大図書館を司る者。金王竜ごときに殺されたりはせぬ」


 それは頼もしいことで。危なくなったら助けてね。


「ベー様。あたしもお供させてください」


 なんかオーラがバトラーしちゃいそうな万能メイド。どったのよ?


「そんなところにベー様だけをいかせるわけにはいきません」


 あ、いや、忘れてるかもしれないけど、ドレミといろはがいるから。特にいろは団はメッチャ強いから。


「まあ、ミタさんなら大丈夫か。好きにしな」


 オレを気絶させるだけの力(メイド服がね)はあるし、戦闘能力も高い。大抵のはぶっ殺せんだろう。


「大図書館の魔女どの。わたしの肩につかまってください。ミタさんも」


 右肩に大図書館の魔女の手がおかれ、左肩にミタさんの手がおかれた。


「では、いきますよ」


 両手でフュワール・レワロ──『生命の揺り籠』に触れた。

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