第1136話 権力最高

 うーむ。どうやらハルメラン組に取っては余り心休まる状況ではねーようだ。


「親方たち。酒が不味くなるようなら解散してもイイぞ」


 倉庫の一つを借り受け、そこをシュードゥ族の飯場としている。ある程度心地よく改造したから飲むだけならそっちでも構わんだろうよ。


「いや、ここで飲む。逃げてられるか」


「そうだ。ここで逃げ帰ったらシュードゥ族の名折れよ」


「まったくだ。おれらはどこでもシュードゥだ」


 最後の理由はよくわからんが、弱味を見せたら負け、的な感じなんだろう。


「まあ、好きにしたらイイさ。ただ、ぶっ潰れんなら飯場に戻ってぶっ潰れろよ。これからシュードゥの名を冠した魔道具を大々的に売り出すんだ、醜聞になることはせんでくれよ」


 シュードゥ印は信頼の証。作ってるヤツが酔いどれとかイメージにワリーからな。


「……シュードゥの名を冠した……?」


「ど、どう言うことだい?」


 なにやらシュードゥ族の連中が酒を飲むのを止めてオレに集中する。


「これからゼルフィング商会は、あんたらが作った魔道具を売る。その際、魔道具のすべてにシュードゥの名を刻む。これは最高級の魔道具だって示すためにな」


 帝国で売っている魔道具と区別するためと、差別するためだ。あとはまあ、帝国で売っているって言う実績作りだな。技術面でも文化面でも帝国が一番で、そう周辺国には認識されている。帝国で売られてるんですよ、と言えば信用を得られるのも早いってもんだ。


「ただ、ゼルフィング商会が帝国で活動するのはまだ先だから造船業を先にするがな」


 魔道具はゼルフィング商会としてやるから婦人の都合と準備に従うが、造船はゼルフィング家の事業として進めさせてもらう。


「あ、あの、よろしいんでしょうか? 帝国で商売とか大丈夫なのですか? 造船業など既得権を冒す行為だと思うのですが……」


 さすが市長代理殿。よくわかってらっしゃる。


「フッ。帝国での販売はあくまでも事実作り。名を売るためのものさ」


 帝国のガチガチの市場に割り込むことなんて最初から考えてはいない。外国人が入るにはハードルが高いからな。


 ちなみに、ゼルフィング商会は食料の買い専門。隙間的な感じでやるから既得権も関係ないーーと思う。オレはビジネスの専門じゃねーから無茶言わんとって。


「では、どこで売るんですか?」


「まずは南の大陸でだな」


 帝国の狭い市場などで悪戦苦闘するより、まだ市場ができてない外の国で商売するほうが楽である。


「南の大陸、ですか?」


「ああ。あちらは魔法や魔術が遅れているからな、魔道具の市場はないに等しい。それに、あちらは諸島が多い。需要はある」


 まあ、そう簡単に受け入れられるとは思わないが、独占となるのだから慌てる必要はねー。のんびりゆったりやっていけばイイのさ。


「み、南の大陸ですか? なぜ南の大陸なんですか? と言うか、南ってどこなんですか?」


 ガクと崩れてしまう。知らんのかい! 意外とおちゃめさんね、市長代理殿は……。


「海の向こうだよ」


「海、ですか?」


 え、そこから? 海知らんの? いや、知るわけないか。内陸の者は一生海を知らないで過ごすのがほとんどだからな……。


「お玉さん。ここから海って遠いか?」


 席を移ったお玉さんに尋ねる。あ、言い忘れたけど、美魔女さんと六つ子のばーさんも連れて来てます。無理矢理に。問答無用で。慈悲はなし。


「……なんの地獄なのよ……」


 あらヤダ。美魔女さんが怯えてますわ。なぜかしら?


「遠くわないわよ。馬車で一日くらいかしら?」


 微妙にわからん説明だな。まあ、二、三十キロって感じなんだろうけどよ。


「なら、プリッつあんに連れてってもらうか。あ、帝都の空って飛んでダメだったな」


 おもいっきり忘れてた。竜騎兵とかいるんだった。


「それならレヴィウブの名で申請しておくわよ」


「……あんた、権力持ちすぎじゃね……」


 帝都の近くにこれだけのものを造るのだから権力ないし影響力は尋常ではないと思ってたが、それは裏でのこと。表にはないと思ってた。それが表にまで素で力使ってるぜ。


「権力なくして好きなことはできないでしょう?」


 悪戯っぽく笑うお玉さんに、思わず噴き出してしまった。 


「ああ。まったくだ。権力万歳だな」


 ほんと、お玉さんはわかってる幽霊だよ。もう尊敬するわ。


「頼むわ」


「ええ」


 まったく、権力を持つ友達は最高だぜ。

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