第1123話 馬車隊
馬車の数は六台。二頭だての旅用馬車だ。
かなり遠い地から来たのか一台は荷物専用で二台が寝台車っぽい。貴族の世話をする人員用と思わしき馬車も二台。残りは貴族が乗る馬車だろう。
あと、護衛の騎士だか兵士が十二人。すべてが馬に乗って来た感じだ。
……馬車の数と剣が描かれた紋章から結構高位の貴族っぽいな……。
帝国貴族で紋章に剣が混ざっているのは高位、しかも武を司るとか公爵どのが言っていた気がする。爵位は忘れた。
「……脱輪か……?」
この馬車隊とは別の馬車隊がいて、貴族が乗る馬車らしきものが派手に傾いていた。
旅用の馬車だから頑丈に作られてはいるだろうが、それに耐えられるほど旅と言うのは優しくねー。さらに頑丈に作られている隊商の馬車だって一年間ごとに新しくしてるくらいだ。
「とは知ってはいても実際こうして見ると旅ってのは過酷なのがよくわかるぜ」
結界で強化した馬車や飛空船ばかり使ってると忘れがちになる。S級村人なら過酷なことにも慣れておかんとな。
便利なのも楽なのもイイが、それで精神や技術を忘れてしまっては本末転倒だ。村人たるもの常に戦いであることは忘れべからずだ。
「わたしとしてはその考えこそ本末転倒だと思うんだけど」
イヤン! 心の声に突っ込まないで!
「見て、お兄様! 妖精よ!」
との声が貴族が乗る馬車からしたが、それに構わず騎士だか兵士のところへ向かった。
「失礼。後続の者ですが、いかがなさいましたか?」
たぶん、この馬車隊の代表者と思わしき品のよさそうな三十前後の男を見て声を発した。
騎士だか兵士たちはオレが近づいて来たことは察していたが、相手は子どもで良質なコートを纏っていること判断して誰何することもなかった。
だが、品のよさそうな男は今気がついたようで、びっくりした感じでこちらへと振り向いた。
「……ウイルトン伯爵の馬車の車輪が外れてしまったのだ」
端的に説明する品のよい男。少し間はあったものの、相手の素性を観察して推察して、無難な答えを出す辺り、なかなか賢い男のようだ。
「そうですか。もし怪我人がいるのならおっしゃってください。わたしどもには薬師がおりますので」
オレが、とは言わない。怪しまれるだけだからな。
「少し待たれよ。ウイルトン伯爵に尋ねて参る」
品のよい男の言葉からして同じ伯爵だろう。友人かな? こうして付き合っているところを見ると。
品のよい男が前の馬車隊へと向かった。
「ありがとうございます。我らはバインエル伯爵に仕える騎士でございます」
やはり伯爵か。まあ、名前を言われてもわからんが、帝国式に一礼して答えておく。
「わたしは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。外国の者ですが、今は親交のあるバイブラスト公爵様の元で見聞を広めております」
帝国で外国の爵位などさほど通用しないが、バイブラストの名は絶大。礼を言った騎士や周りの者が目を大きくさせて驚いていた。
「これが証です」
と、公爵どのからもらった紋章入りのブローチを出して騎士に見せた。
十二公爵家の紋章だ、帝国貴族や関係者ならわかんだろう。知らなくてもバイブラストの名に疑いを持つ者はいないはずだ。それだけの力を持っているのが公爵だからな。
「すまない。薬師殿に診てもらえると助かる」
「お館様」
と、騎士が伯爵に耳打ちすると、やはり目を大きくさせて驚いた。
「バイブラストの関係者でしたか、ご無礼いたした」
「関係者ではありますが、バイブラストの者ではありません。見ての通り若輩者。ご指導いただければ幸いです」
ものの道理をわきまえている貴族なら、こちらもものの道理で受けるまで。変に上下をつけることはねーさ。
「う、うむ。それでは頼む。ウイルトン夫人が重症なのだ」
「わかりました。ドレミ」
「はっ。こちらに」
と、忽然と美女型で現れるドレミさぁーん。お前もオレの心を読んだりしないよな? って心配になるくらいオレの言動に合わせてくれた。ちゃんと救急箱を抱えてな。
「診てさしあげなさい」
「畏まりました」
と言うからできるのだろうと任せた。
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