第1118話 都市開発 

「イイ崩れっぷりだ」


 老朽化で崩れ落ちた石組の建物を見て、なんとなく口にしてみた。


「崩れて二十年、って感じかな?」


 土魔法を使えるせいか、なんとなく年月がわかってしまうこの不思議。まあ、だからなんだって話だが、耐久性や耐久年数がわかるのはそれなりに便利なものなんだぜ。


「広さは二十坪あるかないかだな」


 たぶん、元は一軒家で二階建て。一般住宅、って感じ建てられたのだろう。


「まあ、こんだけあれば充分か」


「え? 狭くない?」


「そう大々的にやるわけじゃねーし、仮拠点だからこれで充分さ」


 ゼルフィング商会の支店は大通りに出す予定だし、ゼルフィング家としては冒険者ギルドの近くに構える予定だ。ここは謂わば裏の拠点。ゼルフィング商会や家とは切り離してやるつもりだ。


「店としては買取りを中心とした雑貨屋だな。なんで雇うのは地元のヤツにする。ってことでばーさん。イイヤツがいたら紹介してくれや。交代を考えて六人くらい」


 これはあんたらとの繋がりを強めるためであり、雇用を生むものでもある。嫌とは言わせねーぞ。


「つまり、丸投げするってことね」


 しーっ! 本音を出しちゃイヤン! そして、そんな目で見ないで!


 なんて蔑む目などなんのその。オレから丸投げを取ったらなにもなくなるわ! いや、なにかは知らんけど。


「オホン。じゃあ、次いってみよう!」


 ばーさん、案内よろしこ。


「ここで決まりじゃないのかい?」


 不思議そうに首を傾げるばーさん。そんな人らしい仕草もできんならもうちょい愛想を出せや。ただでさえ厳つい体なんだからよ。


「ああ、ここは買取り所に決まりさ。もう一つは見てから決めるよ」


 場所があるなら有効利用するのがオレのモットーであり、いずれここの土地は急騰するとオレは見ている。ならば、先に手に入れておくのが賢い土地運用(?)である。


「……よくわからんガキだ……」


「うん。よく言われる。こんなに単純明快に生きてんのによ」


 オレはオレのために生きている。それは、今生で決めて今も貫いているし、ブレたことは一度もねー。なのにわかってもらえない我が人生。寂しぃぃっ!


「まあ、ばーさんからしたら縁もゆかりもねーただちょっとまじわっただけの他人だ。わかる必要もなければ気にする必要もねーよ。あんたはあんたの縁とゆかりを大事にしな」


 オレには六つ子の気持ちとか一生かけても理解できない気がする。顔見知り、がイイ距離だと思います。


「……益々よくわからんガキだよ……」


 そう言って次の場所へと歩き出すばーさん。何度も言うけど、オレ、単純明快に生きてるからね。


「他人に理解されない人生って寂しいものね」


 うん。そうだね。あと、オレは君のことを理解してないけど、オレが羨むほど楽しく生きてるように見えるのは気のせいでしょうか?


 なんて疑問は二秒で遠くに放り投げる。


 共存(笑)してるとは言え、人格や価値観、思いが一緒になるわけじゃねー。違う者同士が集まって生きてんだから好きなように考えて好きなように生きろだ。それでわかり合えれば御の字。ダメならしょうがねー。それでイイとオレは思うぜ。


 なんて考えているうちに到着。ってか、三十メートルも離れてねーのか。ってか、よくよく見ればこの一帯、他より朽ち具合が酷いな。入植初期の頃か?


「ここは、古くなったために捨てられた場所さ」


 なにか寂しげな顔して言うばーさん。


 辛うじて人外ではねーから見た目通りの年齢なんだろうが、最低でも五十年はここで生きて来た感じは読み取れる。


 この魔物がいる世界では、村も町も百年続けば立派なものだ。消えては生まれの繰り返し。ましてや都市を維持するのは至難だろう。


 建物は老朽化する。それを誤魔化し誤魔化し修繕し、ダメになったら立ち退くと、前に隊商のヤツから聞いたことがある。


 なぜなら建て替える前提で建ててねーし、費用を出せるヤツなんて極一握りの存在だけだ。ほとんどの者は家を捨てて新たに家を建てるそうだ。


 それもどうなの? とは思ったが、土地に縛られるヤツは大体死ぬそうで、ここを見てたらなるほどと思うわ。


「新たに土地を求めては移り住み、空いた場所は朽ちるのを待つ、か。非情ではあるが利には叶ってるな」


 そうやって都市は新陳代謝が行われている、か。まったく世は無常だぜ。


「それで捨てられるわたしらはたまったもんじゃないがね」


「拾ってもらおうと考えられるのも迷惑な話だがな」


 だってあんたら税金払ってねーじゃん。と言っても無駄だろうから口にはしない。独立独歩は多くの死者の上に立ち、多くの生きてる者の意志が必要だ。弱者だと嘆いているうちはなにを言っても無駄でしかねーわ。


「この分だと、まだ土地はありそうだな」


「朽ちてはいるがな」


「それは手間がはぶけて結構なことだ。立ち退きはなにかとメンドクセーからな」


 苦労せずに土地所有者になれるとか、もう笑いが止まりませんがな! だぜ。


「誰も住んでないところはオレがいただく。ミタさん。シュードゥ族から建築に長けたヤツ、二、三人連れて来てくれ。無理とかふざけたこと言ったら強制連行して来い。シュードゥ族に拒否権はねー!」


 これはシュードゥ族にも利益があること。ここで愚図るようならオレは手を引かせてもらうわ。


「畏まりました」


 どこからかスマッグを取り出し、どこぞへと連絡を入れた。


「では、都市開発といきますかね」

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