第1117話 世は無常

「名乗るのを忘れてたけど、わたしはリクオウ。この子たちは、ライネージュ、ハルフィージュ、サラトネーラ、ライフォート、サーネーライ、ハルフォートよ」


 と美魔女さん。あ、ちょっと待って。


 ミタさんにプリッつあんを呼んで来てもらう。


「なぁーに?」


「こちら、リクオウさん。で、こちらからライネージュさん。ハルフィージュさん。サラトネーラさん。ライフォートさん。サーネーライさん。ハルフォートさんだ」


 と美魔女さんと六つ子さん紹介したら変な顔された。なによ、皆さんに対して失礼ですよ。


「……ま、まあ、わたしは、プリッシュ。これの保護者みたいなものよ」


 あらヤダ。とうとう保護者に昇格してますわよ、このメルヘンたら。でも、よろしくお願いしやすっ!


「……どう言うことかしら……?」


「この自称村人は、人の名前を覚えるのに時間がかかるの。たぶん、あなたのことも外見や特徴で名前を決めてると思うわ。狐耳さんや美女さんって感じでね」


 惜しい! でも、さすがプリッつあん。わかってるぅ~!


 と言うことで外付け記憶装置には美魔女さんや六つ子さんの名前は登録されました。じゃあ、次の課題へといきましょうか。


「あんたがここを仕切ってるなら、拠点を用意してもらいてーんだわ。できれば家屋一つ。崩れてようが構わねー。もし、住んでるヤツがいるなら立ち退き料は十二分に払うぜ」


 金か物で解決するならいくら出しても安いもんだ。


「崩れてていいのなら二つはあるわ。サラトネーラ。案内してあげて」


「金は?」


「いらないわ。ただ、役所に登録は必要よ。わたしたちは不法占拠してる立場だから」


 ってことは税金も払ってねーってことか。まあ、スラムなんてそんなもんか。


「ならこちらで処理しておくよ。オレの後ろには市長代理殿がついてるからな」


 持つべき友は権力者。もう笑いが止まりませんな!


「……市長代理の後ろにべーがついてるの間違いでしょう……」


 そこは似て非なるもの。通すべき形と言うものがあるんです。


「ふふ。なるほどね。いい関係ね」


 イイ関係かはともかく、うちのメルヘンは役に立つメルヘンです。恥ずかしいから口には出さないけどな!


「まず近いところから頼むわ」


 って、六つ子ばーさん、立ち位置変わると誰だかわかんねーな。案内してくれるばーさんどれよ?


 せめて服を変えろと言いたいが、変えたところでオレに判別できるかはわからねーか。なんか服が綺麗だし、毎日替えてそうな感じだ。


「ついて来な」


 あ、あなたですか。よろしくお願いします。


 案内ばーさんのあとに続き、劇場からさようなら。あ、バルグル茶をもらってくるの忘れたわ。


「ばーさん。案内の前にバルグル茶を買えるところに連れてってくれや。今日から飲みてーからよ」


 あれに蜂蜜を入れても合いそうだし、砂糖と餅を入れてもイイかもしれん。とにかくバルグル茶が気に入ったのだ。


「御姉様が言ったようにアレは貧乏人の茶だ。店で買うようなものではない。個人が勝手に作っているのだ」


 へーそうなんだ。あんなに旨いのに。出るところに出せば結構な金になると思うんだがな。


「飲んでる者は多いのかい?」


 美魔女が飲んでるくらいだ、それなりには作るヤツはいると見たが。


「多い。材料はタダで手に入れられるからな」


 ほーほーそりゃ結構なことじゃねーか。


「ミタさん。ヴィベルファクフィニー号にカイナーズホームが入ってんだよな?」


 確かカイナがそんなこと言ってた記憶があるがよ。


「入っているともうしましょうか、カイナーズホームに繋がっていると言ったほうが正しいかも知れませんね」


 まあ、カイナだし、なんでもありと流しておこう。


「なら、蜂蜜や餅は売ってるな。テキトーに買って来てくれや」


 オレが持っている蜂蜜のほとんどミタさんに取られ、チャンターさんから買ったバモンではいまいちな気がする。ここはカイナーズホームに頼らしてもらおうじゃないか。


「バルグル茶とはそれほど美味しいのですか?」


 あれ? 飲んで……はいないか。出されたのオレだけだったしな。


「旨いな。なぜあれが貧乏人のお茶なのか意味がわからんほどに。似た味がないんで説明に困るが、口当たり的には汁粉やココアかな? アイスに混ぜたりパン生地に混ぜたりにしてもイイかもな。サプルなら絶品のお菓子にしてくれるぜ」


 それでなくても近い材料で前世のスイーツに負けない


味を出せるスーパーでミラクルな妹である。これだけのものなら天下一品のスイーツを作るだろうよ。


「たぶん、ミタさんなら一発で嵌まる味だと思う」


 お菓子大好きなミタさんだから、この味や口当たりはドンピシャだろう。いや、そこまでミタさんの好みなんて知らんけどさ。


「ミタレッティーが嵌まる味ならわたしも飲んでみたい」


 うん。君の好みは未だに理解できんから責任は持てからね。


「ってことで、ないのなら集めるしかねーか。ミタさん。ついでに千円札と小銭を用意してくれ。それでバルグル茶を買い取る」


 スラムでも貨幣は流通しているだろうが、そんなものは微々たる量。ならばこれを期に円に乗り換えても構わんだろう。


「……それは、経済侵略になるのではありませんか……?」


「お、ミタさんは難しい言葉知ってんな。だが、そのセリフは今さらだ。だってとっくにこの都市はヤオヨロズ国に支配されてんだからよ」


 政権と経済はオレに。武力はカイナに。住民の三割近くは異種族が占め、こうして裏の勢力もゼルフィング商会&ゼルフィング家の傘下についたようなもの。


 これで自治権を声高に主張できる者がいたらオレはそいつを王(と言う名の傀儡)にしてやるぜ。


「まあ、自分の足で立ちたいと言うのなら立てばイイさ。オレはそれを肯定するさ」


 ただし、オレは即行撤退させてもらうがな。


「ここのヤツらは独立独歩を捨てて、外に助けを求め、受け入れた時点で文句を言う資格はねーんだよ」


 オレは正義の味方でもなければ救世主でもねー。俗物の世界で生きる俗物な存在だ。なら、損得で動くのは当然だろうが。


「弱いことは罪と知れ。この世は強者が支配してんだよ」


 違う! と言うなら是非とも反論し、証拠を見せてもらいたいもんだ。


「その強者を裏から操る村人がいるんだから世は無常よね」


 メルヘンの呟きなど右から左にさようなら~。さあ、バルグル茶を買い漁るぞぉ~!

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