第1103話 クエオル 

 闇の中から残酷な音が響き渡る。


「苦戦してる?」


 一発一振りで終わると思いきや、銃撃音が止まず魔力の高まりが尋常ではなくなってきた。


「申し訳ありません。再教育します」


 ミタさんが謝って来るが、あなた、いつ教育してんのよ。ほとんどオレの側にいるよね? それとも別の人がやってんの?


 ……って言う以前にメイドに戦闘教育してることに突っ込みたいけどね……。


 二分して銃撃の音は止み、静寂が訪れた。


「……戻って来ないね?」


 一分が過ぎた頃、プリッつあんが不安な声を上げた。


 うん。そうだね。なんか嫌な予感がして来ましたわ。


「ミタさん。カイナーズに応援要請を出せ! 市長代理殿には問題発生。調査中と伝えろ。あと、厳戒警報発令だ!」


 言って結界灯を四つ、空に放り投げる。


 クソ。オレの考えるな、感じろが働かないってなんだよ! 危険じゃないってことか? 


 今も嫌な予感はするが、危険性は感じない。なんなんだ、これは!? 


「いろは、動けるか?」


「──ご命令のままに」


 と、幼女型のいろはが十二人、忽然と目の前に現れる。忍者か! 


「メイドを救出しろ。生き物がいたらすべてを殺せ。でも、捕獲可能なら捕獲しろ」


 ウパ子が食えると言った生き物であり、メイドさんズになんかした生き物でもある。調査できるのなら調査したい。


「マイロードの御心のままに──」


 そして、忽然と消えた。お前はどこを目指してんだ?


 ま、まあ、なんでもできるから超万能生命体。深く考えるだけ疲れるだけだ。そうなんだ~と軽く流しておけ、だ。


 数十秒後、いろはA(仮称)が赤鬼のメイドさんをお姫さまだっこで戻って来た。


「ここに寝かせろ」


 結界ベッドを創り出す。


 寝かされた赤鬼のメイドさんに外的損傷はなし。顔色は……赤いです。だって赤鬼だもの。クソ!


「呼吸はしてる。熱はなし。脈拍は低いが、弱くはない。ウイルス性ではねーな。即効性がありすぎる。まるで気絶した状態だ。


「ベー様。寄生虫ではないですか?」


 とレイコさん。寄生虫か。


 結界で包み込み、赤鬼メイドさん以外の生命体がいないか確認──したらいやがった!


「耳のところにいるな」


 この世界、結構寄生虫が存在してるのだ。


「耳から入るタイプか」


「厄介ですね」


 先生が教えてくれた寄生虫百科には、大体は口や皮膚から入るものが占めてるが、耳から入るのは数種類しかおらず、そのすべてが凶悪と来たもんだ。


 だが、我が結界なら問題ナッシング。あらよって感じで体外へと排出させる。


「ミズチですね。となるとクエオルって可能性が高いですね」


「クエオル?」


 なんじゃいそれは?


「ワームの一種です。こちらでは地走りって呼ばれてます」


 地走りか。オレは見たことはないが、オババからどんなものかは学んでいる。


 一メートルくらいのミミズっぽいもので、なぜか毛が生えてるそうだ。


「魔大陸では一般的でクエオルを食べる種族がいますが、寄生虫はつきません。寄生虫がつくのはこの大陸に生息するクエオルだけです。もしかすると黒丹病もクエオルが原因かも知れませんね。異常繁殖すると変な病気をばら蒔きますから」


 そうなのか。オレは犬のような竜が原因だと思ってたんだがな。


「オババが知ってたのそのせいか。代々、地走りを見たら焼けと伝わっているって話だから」


「ドレミ。クエオルを生きたまま捕まえろといろはに伝えろ。確かめたいことがある」


「畏まりました」


 そちらはドレミといろはに任せ、オレは無限鞄からコーヒー(モドキ)を出して寄生虫にかける。


「苦しそうにしてますね」


 オレにもそう見える。やがて動かなくなり、そして、溶けてしまった。


「効いたな」


「ですね。あまりにも顕著に表れてびっくりです」


 そう言ったら回復薬はどうなんのよ? アレだって即効性が反則でしょうが。


「ベー。次が来たわよ」


 プリッつあんの声に振り返ると、赤鬼メイドさんと同じく意識を失っていた。


 結界ベッドを創り、メイドさんを寝かせる。


「結界で包む。誰も触るなよ」


 結界から逃れられないだろうが、念のためだ。オレ以外は触らないほうがイイだろう。


「マイロード。捕獲しました」


 いろはB(仮称)が持ってきたなにか粘液っぽいものの中に地走りがいた。生きてるよね?


「結界の中に入れてくれ」


 わかるようにシャボン玉のようにし、その中へと地走りを入れてもらう。


「気持ち悪いわね。毛も生えてるし」


「……美味しそうでし……」


 ウパ子がシャボン玉結界に張りついてヨダレを出している。本当に食えるのか、これ?


「こいつには危険な寄生虫が住んでんだぞ」


「あたちのお腹強いから大丈夫でし」


 だろうな。お前はなんでも食うしよ。


「食べたい! これ食べたい!」


「ちょっと待て。確認してからだ」


 シャボン玉結界に張りついているウパ子を剥がし、コーヒーモドキを一杯分結界内に注ぐ。


「苦しんでいるようには見えるが、殺すまでの効果はなしか」


「苦手、って感じですね」


 こう言う反応のほうが素直に納得できる。これで溶けてたらファンタジーに文句言ってるとこだ。


「うん? 寄生虫が消えたな。地走りと相性がイイから寄生したのか?」


 まあ、それは先生に任せよう。オレは研究者じゃねーしな。


「ベー様。カイナーズが応援に来ました」


 相変わらず迅速やな。飛行場からかなり離れてんのによ。


「防護服を着させろ。そして、コーヒーモドキを噴霧器で撒け。見つけても殺すな。寄生虫が拡散する恐れがある」


 隊長らしきセイワ族の男に指示を出す。


「了解です! アルファセブン。至急防護服と噴霧器を用意しろ」


 カイナーズに任せ、オレは運ばれて来るメイドさんに侵入した不届き者を排除するか。


「ベー様。研究用に何匹かカイナーズにもらえないでしょうか?」


 なにか知的な感じのセイワ族の女が言って来た。


「わかった。しっかり調べてくれ」


 あとでレポートをちょうだいね。未来に残したいからさ。

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