第1074話 いつものように丸投げ
「アバールの店にいって来る!」
驚愕から復活すると、じいさまがそう叫んで離れを飛び出していった。
なにをしにいったかは知らんし、話は終わったので好きにしろだ。どうせここに帰って来るんだろうからな。
「そんで、そっちの二人はなんなんだい?」
顔合わせ、って感じでもあるまい。じいさんは村相手の商売で、オレとはオマケ程度。近隣情報を買っている関係なのだからな。
だったらそれも引き継ぐのでは? と思われるかも知れんが、じいさんの伝と経験があるから買う価値があるんであって、経験の浅い者では大した情報は得られない。
じいさん以外にも情報をもたらしてくれる隊商とも繋ぎがある。じいさんからの情報がなくなってもなんら支障はねーさ。
「孫だ」
まあ、どちらも十八、九。あんちゃんの弟……の名前はイイか。ともかく、じいさんの年齢を考えたらいても不思議ではねーな。
「カイトです。お見知りおきを」
と、髪の短いほうの孫が挨拶する。
「ハイカと申します。今後ともよろしくお願いします」
ガタイのイイほうが丁寧に挨拶する。
たぶん、前者は行商人の弟子として育ち、後者は町商人の弟子として育った感じだろう。テキトーだけど。
「知ってるだろうが、挨拶されたら返しておく。オレはヴィベルファクフィニー・ゼルフィングだ。まあ、こんなガキなんで雑に扱ってくれて構わねーよ」
皆、忘れているかも知れないけど、オレ、十一歳。生意気盛りのクソガキです。
「お前を知っているヤツで見た目なんか気にしねーよ」
それはそれで悲しいものがあるよね。まあ、見た目通りに生きたことねーけどさ。
鬼子化け物と見られないように努力はしたが、子どもらしいことなんてしたこともねー。つーか、子どもらしいことしたほうが不気味に見えるわ。
「そうだな。本当にありがたいことだ」
こんな見た目なのに、ちゃんと相手してくれるんだから感謝感激雨霰だぜ。
人間、見た目が大事。見た目で判断するものに、中身を見て付き合ってくれるヤツは本当に貴重な存在である。
「だから、見た目に捕らわれれないヤツとは是非とも仲良くしたいぜ」
それがどれだけありがたいかを知っているからこそ、こちらが損しようともその縁は絶対に守るべき繋がりなのだ。
「そう言うことを恥ずかしげもなく口にするからお前を見た目通りには受け入れられんのだ。行動力も並みの商人よりありやがるからな」
「のんびりゆったりできる世じゃないからな」
オトンが死に、餓死寸前まで追い込まれたら嫌でも人生観は変わるものだ。この性格は今生で得たものだ。
「そんで、オレにどうして欲しいんだ?」
二人を見て問うた。
「はい。食料の取引をお願いしたいのです」
と言ったのはガタイがイイほうの孫だ。
「食料? 今の時期にか?」
と言うか、食料を買いたいってことか?
「はい。この時期に、今、買いたいのです」
じいさんに説明を求めようとして、止めた。これは、ガタイのイイ孫の商売。本人を差し置いてじいさんに訊くのは侮辱ってもんだろうよ。
「町は領主様が変わって少しずつよくなってはいますが、食料が不足ーーとまではいってませんが、充分ではありません。冬越しの薪も不足しております」
あ、ああ、そうだった。税を上げる領主だから会長さんに排除を願ったんだっけ。
「ドレミ。食料問題は深刻か?」
と、ヴィ・ベルくんに訊いてくださいな。
「深刻ではありませんが、苦労はしているようです。周辺の領地に借金をしていたようなので」
愛する人を救うためとは言え、ほんと、ろくなことしてなかったんだな、あの老騎士さんは……。
「町に回せる食料なんてあったか?」
もう保存庫のことすら関わってないからな~。
だからと言って無限鞄の中の食料では町一つは賄い切れない。村一つが精々だ。
「マイロード。魚はどうでしょうか?」
と、ドレミさんからの提案。
「魚か。内陸のヤツが食うかな?」
馴染みがないものは口にしないから難しいんじゃないか。
「食うヤツは結構いるぞ。毎回ボブラ村に来たら漁師から買って、町に運んでたからな」
じいさん、そんなことしてたんだ。知らんかったわ。
「それならあんちゃん、アバールと取引しろ。海のことは任せたからよ」
町一つともなれば海集落よりあんちゃんのほうがイイだろう。あんちゃんのところなら大量に集められるだろうしよ。
「アバールさんですか。わたしどもと取引してくれるでしょうか? 行商人相手に」
「大丈夫だろ。もし、グズるようならゼルフィング商会がいただくと言っておけ」
婦人には恨まれそうだが、金の卵を捨てるよりはマシだ。ましてや仕入れから流通販売まで独占できるんだからよ。
「となると、専用の馬車が必要になるんだが、行商とは分けたほうがイイか。じいさん、運び屋をやる孫はいるかい?」
子が一人だけってわけじゃねーだろうし、孫がこの二人だけってこともねーだろう。ひもじい育ちには見えねーしよ。
「ハイカに任せる。お前が仕切れ」
「と言うか、商会を立ち上げろ。町一つを賄うんだからよ」
商会は中小企業な感じか? 町商人は商店な感じ、かな? まあ、その辺は曖昧だな。
「わ、わかりました。よい商売をさせてください」
「ああ。イイ商売をしようぜ」
まあ、いつものように婦人にマルッとサクッとお任せなんですけどね!
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