第1052話 天宝

 そこはなにもガランドゥ。


 思わずギャランドゥみたいに言ってしまったが、そうボケてみたくなるくらいなんもなかった。なんやここ?


「光が差してるね」


 上を見れば、いくつもの穴が開き、空洞全体を見渡せるくらいには明るかった。


「あ、魚がいる」


 今度は下を見たプリッつあん。忙しいやっちゃ。と思いながらもオレも下に向ける。


「……小さい穴が外と繋がってんのかな……?」


 大きい魚はいず、イワシくらいの小さな魚がたくさん泳いでいた。


「食えるかな?」


 見た目は普通だし、こちらなど気にせず回遊している。こう言うパターンの魚は食えることが多い。だが、たまにハズレがあるので試食してくれるゴブリンって貴重なんだよな。


 まあ、腐嬢死がきてから野良ゴブリンはいなくなったので、試食はプリッーーじゃなくて、タケルにでもやらせるか。毒すらエネルギーにするとか言ってたし。


「ベー様! 置いていかないでください!」


 穴からミタさんや三人のメイドさんが現れた。まだ波が荒かったのによく接岸できたね。


「無理矢理接岸させました。クルーザーはベー様の力で頑丈になってますから」


 だからって無茶しすぎ。って言うだけ無駄か。無理矢理しちゃう方々だしね。


 結界を敷いて海面を歩く。


「なんなんだろうな、ここ?」


 広さは野球場くらいだろうか、崩れないよう石を組んで補強してある。


「人の手が加わっているのに、石碑や文字もありませんし、遺跡ではないと思うんですが、不思議です」


 とはレイコさんね。


「なんもねーのなら帰るか」


 海賊船とかお宝とか期待してたのに。クソ、こけおどしかよ。


「ねぇ、海の中に樹が生えてない?」


 なに言ってんだ? 海の中に樹なんて……ん? え? はあ? マジかよ!?


 プリッつあんが言ったように、樹が海の中に生えている。オレらはなんの不思議の国に迷い込んだんだよ!!


「……まさか、そんな、本当にあるだなんて……」


 驚愕する幽霊。そのまま昇天すんなよ。するなら説明してから昇天しなさい。


海典かいてんの樹と呼ばれる世界樹の亜種です。魚人の国にあるとは聞いたことはありますが、それが真実かは伝わってないんです」


 世界樹の亜種、ね。まあ、世界樹そのものがファンタジー全開の植物だし、海の中に生えてても不思議……天元突破だが、ファンタジーの海はビックリバーン(これと言って意味はなし)。驚きすぎて逆に信じられるわ。


「ちょっと潜ってみるか」


 ついてくる人、挙手!


 って尋ねるまでもないので、全員に潜水結界を施した。


「沈みま~す」


 三人のメイドさんはビクついたが、他は慣れたもの。平然としていた。


 イワシのような魚が逃げていき、視界をクリアにする。


「……確かに見た目は世界樹っぽいな……」


 ここが海の中とは思えないくらい普通に生っている。


「いえ、なにか金色の実が生ってますよ」


 レイコさんが指差す方向に、マジで金色の実が生っていた。


 大きさは桃くらい。形もなんか桃っぽい。ってか、桃だな。


 見た目、九十パーセントは桃なんだから、もう桃でイイだろう。


「もしかして、天宝てんぽうなの?」


 また知らない名が。ほれ、驚いてないで説明してみんしゃい。


「不老長寿の実と呼ばれたものです。東の大陸では天女が食べるものと言われ、世に出回れば実一つで国が買えるとも言われてます。ただ、東の大陸の天宝は地上になる樹なので、海典の樹に生っているのが天宝とかはわかりません」


「ふ~ん」


 なんだ。そんな程度か。つまんねー。


「……まるで興味なし、って感じですね? 不老長寿の実ですよ」


「今時不老長寿なんて流行らんだろう。まだ便秘に効く実のほうが珍しいわ」


 あれ、南の大陸でも貴重で、世の女性が競って手入れようとしてるんだぜ。オレも欲しくて頼んだが、二つしか送られてこなかった。それが精一杯なんだってよ。


「べ、便秘って、あれ一つで国が買えるものですよ」


「土地があって人がいたら国なんて買う必要もねーだろう」


 維持費には結構な金が必要だけどよ。


「食いたいヤツがいるなら採ってきてイイぞ。オレは魚を捕るからよ」


 それよりオレは桃より魚が食いたい。なんかイワシのつみれ汁が食いたくなった。いや、イワシじゃないけど。


 結界網で一網打尽。コンテナを出して詰め込み、小さくして収納鞄に放り込む。


 それを三回繰り返しても魚が減った気がしない。どんだけいんだよ?


「こんなもんか」


 食うのはコンテナ一つ分。残り二つはブルー島に放とう。


「桃は採れたか?」


 ってか、動いた感じがしなかったが、採んなかったの?


「別に不老長寿とか興味ないし」


「あたしたち、これ以上長寿になっても大変なだけですから」


 長寿を喜ぶのは短命な種族か、毎日を後悔しながら生きてるヤツぐらい。オレたちには不要である。


「そっか。なら、ここは封印だな」


 この漁場はオレのもの。誰にも渡したりはせん。ゲヘヘ。


 サクッと壁を塞いで、その場をあとにした。

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