第984話 腐嬢三姉妹

 不気味ガールが現れた。


「ベーは逃げ出した」


「──クフ。おやおや、どちらへおいかれですか?」


 ヒィ!


「でも、回り込まれた」


 ってか、頭の上からのゲーム的な状況説明なんていらねーんだよ! なんとかしてー!


「アヤネ、久しぶり」


「はい。プリッシュお姉様。お元気そうでなによりです」


 いろいろ突っ込んで、心の底から叫び倒したいが、今はこの状況をなんとかして! この腐界から一刻もおさらばさせてくださいませ!


「ヴィどの、いきなりダッシュなんかしてどうしたでござる? 忘れ物でござるか?」


「はい、そうです! 忘れ物したのでアデュー!」


 ──村人忍法、壁走りの術!


 シュタタタと壁を走り、不気味ガールの横を通り抜ける。


「──おやおや。忘れ物でしたらこのアヤネが持って参りますよ」


 ヒィィィィィィッ!!


 なんだこいつ!? なんで一緒に壁を走ってんだよ!! なにに進化してんだよ!?


「器用ね、アヤネ」


 もう器用ってレベルじゃねーよ! 変態だよ! いや、変態だよ! じゃなくて、変態だー!


「クフフ。お姉様に仕える者とこのくらいできねば恥ずかしいですわ」


 この状況でなに和やかに会話してんだよ! この不気味ガールをなんとかしてくれ!


 こいつ人だろう? なんで壁を走れんだよ! いや、オレも人で壁走ってるけどさ!


「諦めなよ。逃げられないんだからさ」


 男は負けるとわかっていても逃げたくなる生き物なんだよ! 察せよ! そして、助けてよ!


「ミミッチー! ベーに頭突き!」


 頭からプリッつあんが離脱。そして、横を走る不気味ガールが消失した。


 ──殺気!


「ホー!」


 ミミッチーの頭突きと思われる攻撃を紙一重で回避。オレは殺意があんなら感じ取れんだよ! つーか、殺す気で来やがったな! 逃げ切ったらあとでぶっ飛ばしてやる!


 村人忍法、隠遁の術!


 プリッつあんがいないのなら隠れるまで。オレの隠遁は神ですら見つけられないぜ!


「フギャン!」


 なんか壁にぶつかった。なんで壁があるんだよ!?


「非常用通路は狭間に着いたら消える」


 それを早く言いやがれってんだ!


 壁に押され、螺旋階段を転げ落ちてしまった。痛いぃ~!


「バッドエンドね」


 だから、そんなゲーム的表現なんていらねーんだよ! 不運のメルヘンがっ!


 なんで黒い息子には幸運のメルヘンがついてオレには不運メルヘンがつくんだよ! 不公平だ!


「……いったいなにがあったでござるか……?」


「気にしないで。いつものベーにしかわからないベーだけの茶番劇だから」


「……プリどのは、ヴィどのをよくわかっているでござるな……」


「長い付き合いだしね」


 いや、君と出会ったの、春だよね? まだ一年間も過ぎてないよね? いや、もう何十年と一緒にいる気がしないではないけどさぁ……。


 はぁ~。逃げられないのならしょうがない。ならば、正攻法で立ち去るまで。


「んじゃ、またな~」


 さあ、おうちに帰るべ。


 空飛ぶ結界を創り出し、乗り込もうとしたらオレンジ色の脚がヌルッと体に巻かれた。


 え、なに? と思った瞬間、浮遊感が襲って来て、なぜかエリナたちがいる席へと座らされた。


「……帰してください……」


「なんで産まれたての小鹿のように震えているでござるか?」


 それは恐怖と嫌悪とその他諸々からです。


「それはそうと、キャロのことはどうなったでござるか?」


 プリッつあん、説明よろ! オレはこの渦巻く感情を押さえるのに必死なんです。


「事情はまったくわからないけど、なんとかなったんじゃない? カーレントが上に住むことになったから」


 ハイ、なんとかなったので帰してください!


「それはよかったでござる! さすがヴィどのでござる!」


「ありがとうございます。安心して暮らせますわ~」


 お礼なんてイイです。帰してくれればもうそれだけでオレは報われます。


「あなたが骸骨嬢さん? よく骸骨で動けるわね。あ、わたしはプリッシュね」


「はい。よろしくです。わたしは、キャロリーヌと申します。エリナの妹です」


 妹?


「と言っても義姉妹ですけど。でも、本当の姉妹以上に仲良しですわ」


「初めまして、プリッシュ様。わたしは、マリナリア。キャロの妹です」


 この、白いエルフ、どっかで見たようなないような、まったく思い出したくないのはなんでだろう?


「エリナがおねえさんなんだ」


「あはは。本当はマリが年上なんでごさるが、妹だと譲らないでござるよ」


「だって、昔のわたしは死に、ベー様の力により甦りました。産まれて間もないんですもの、姉なんて名乗れませんわ」


「わたしも十九で死にましたから、エリナの妹ですわ」


「死んでから七年過ぎてるのでござるから拙者より年上でござろうが」


「いえいえ。エリナは二十四で死んで、五年は過ぎてるじゃありませんか」


「この中でエリナがしっかりしてるんだから長女でいいと思いますわ」


「マリの意見に賛成です」


「もー! 拙者、そんなにしっかり者じゃないでござるよ~」


 なんだろう、これ? オレはどこのなに空間にいるわけ? 誰か説明プリーズです。


「仲良し三姉妹ね」


 いえ。腐嬢三姉妹です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る