第973話 平和万歳

「まあ、一旦、上に上がろうや。ドレミ。カブリオレを上昇させてくれ」


「畏まりました」


 カブリオレが上昇。それに合わしてプリッシュ号も続き、開放扉を潜った。


 プリッシュ号が出たら開放扉を閉め、カブリオレを小さくして無限鞄に仕舞った。


「……ベー……」


 なにか、気落ちした感じの公爵どの。それに寄り添う夫人たち。愛されてるね~。


「らしくねーぞ。選択したことに後悔すんな」


 イケイケが売りだろうが、それを貫いて見せろや。


「別にオレは、公爵どのの判断と決断に文句を言うつもりはねー。公爵ともなれば守るものも多いだろうからな」


 ましてやデッカイねーちゃんなんて害でしかねー。世間には公表できんだろう。強力な存在は恐怖を生む。疑心暗鬼に捕らわれて謀反の疑いをかけられて、皇帝なり、他所から突き上げを受けるなんてこともある。


 それならないほうがイイ。臭い物には蓋ってことだ。


「……すまない……」


「謝罪など不要だ。公爵どのが判断し、決断し、それをオレが受け入れた。双方合意のもとだ」


 責めることなんてなに一つない。まあ、どちらが得をしたかはわからんがな。


「まあ、ちょっとお茶にしようぜ」


 急展開に次ぐ急展開で疲れた。ここらで一服しようや。


 ミタさんがいないのでドレミさん、お願いしやす。ってか、いろははどこだ? なんか姿が見えねーんだが?


「ここに、控えております」


 背後からの声にびっくり仰天。いたんかいっ!?


「ちなみに、わたしもいますよ」


 そんな幽霊の自己主張なんていらねーんだよ。ダマッてろ!


「……なぜ、お前はリオカッティーを取ったのだ? どう考えても厄介でしかないだろう」


「さすが大領地の当主だ。欲に溺れないか」


 あれだけ得を説いても損を忘れない。他の誰がなんと言おうとオレは公爵どのを尊敬するぜ。


「……情けないとは言わないのだな……」


「情けない男に女は惚れないよ」


 帝国の公爵ともなれば柵だらけのがんじがらめ。あちらを立てたらこちらから恨まれる、そんな立場だ。


 並みのヤツなら気が狂いそうだし、偏った価値観で身を守るかだ。


 そんな地位にいながら公爵どのは人の心を失ってない。バカなことに全力で挑み、生きることを楽しんでいる。


 そんな男、なかなかいないぞ。奇跡のような存在だ。ダチとして鼻が高いぜ。


「オレは他人事だから気軽に言えるし、守る地位も誇りもない。すべては自分のため。イイ人生にするためなら躊躇いもなく他人を利用する。そこに罪悪感なんて微塵もねー」


 畜生は受け入れられないが、外道なら喜んで受け入れよう。オレは裏で暗躍するのが大好きだ! 自分だけが知っていると思うとゾクゾクするぜ!


「最高にグズい村人よね」


 ………………。


 …………。


 ……。


 って、ことはすっぱり忘れてください。オレ、善良な村人。平和万歳。平々凡々に、悠々自適に、スローライフ最高な人生を送ってます!


「人は愛し、愛されてこそイイ人生を送れると、オレは思うんだ」


「人を利用し、騙してこそいい人生を送れるの間違いじゃない?」


 もー! メルヘンは黙ってて。オレは平和を愛する村人なの!


「オホン! まあ、お互い納得しての取引だが、納得できないって言うなら取り消してもイイぜ」


 オレはクーリングオフを肯定する男だぜ。


「いや、取り消すことはしない。今のバイブラストでは手に余る。引き取ってくれるならおれの娘をつけてもいいくらいだ」


「公爵どのを親父殿と呼ぶのは嫌だからいらねーよ」


 カーレント嬢とか全力でノーサンキュー。オレは……いや、なんでもないです。好みは人それぞれです!


「うちの娘は引く手あまたなんだぞ」


「だったら欲しいと言うところにくれてやれ。オレはいらねーよ」


 つーか、政略結婚とかやるのか? そう言うの嫌いなタイプだろう、公爵どの。


「まあ、欲しくなったら言ってくれ。四人までなら許すぞ」


「なんで四人なんだよ! 嫁は一人で充分だわ」


 四人とか、ストレスマッハでもらったその日に死ぬわ! 自分の嫁くらい自分で見つけて、自分で口説くわ!


「オレが引き取るのはデッカイねーちゃんだけだ。他はいらねーよ。──いや、代理人の地位はもうしばらくもらうな」


「それは構わんが、下のはよいのか? おれはここをすべて差し出すつもりで言ったんだが」


「オレはこんなところに閉じ籠る趣味はねーし、ここは、バイブラストにあってこそ役に立つところだ。邪魔なものはいらねーよ」


 クリエイトの間は魅力だが、代理人の地位にいれば利用できるのだから主になる必要はねー。間借りが一番楽な使い方だ。


「なんで、ここは、カーレント嬢が好きにしろ」


 オレのポケットはそんなに大きくねー。入るだけで充分なのさ。


「下のは消却箱を創り出し、人を雇って片付けろ。記憶操作の指輪なり首輪なり創り出せばここの秘密は守られる。細かいことはバイブラストで考えろ」


 そこまで付き合ってられんわ。


「代理人権限でここを探索させてもらうぜ」


 下にいる骸骨嬢までの道程と創りたいものがあるんでよ。


「ミミッチー。案内役頼む」


 テメーには、まだまだ吐いてもらいたいことがあるんでよ。

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