第969話 なにか出た

 予想通り、オレは落下した。


 ……雑な創りしやがって。クリエイターとして失格だわ……。


 慌てず騒がず、先ほど仕込んでおいた結界ロープを発動させて、落下を止めた。


「なんでもクリエイトできんなら重力も創れってんだ」


 遥か下を見ながら、これを創り出したアホに文句を言った。


「つーか、どんだけ広いんだよ。さっきの空間が可愛く思えるわ」


 端はわからんが、下までは数千メートルはあるだろう。オレにスカイダイビングの趣味があったなら、イイ遊び場発見と歓喜しているところだわ。


 まあ、オレにはスカイダイビングの趣味はないので、ため息しか出て来ねーがよ。


 結界ロープを巻き、上へと一旦上がることにした。


 扉から出て、結界で壁を創る。万が一落ちたら洒落にならんからな。


「もうイイぞ」


 そう宣言すると、全員が結界壁に寄り、扉の中を覗き見た。


「……下が見えんぞ……」


「どれだけの空間があるのです?」


 東京ドームが数万個入り、東京タワーが数百個重ねたくらいだろうよ。下にある箱庭より広いわ。


「参った。想像以上だわ」


 まったく、これほど空間を無駄遣いにしてるの見たことねーよ。創造力はあんのになんで想像力がねーんだよ。アホ過ぎるわ。


「ミミッチー。空間の枠はクリエイトできるのか?」


「枠? なに?」


 首(?)を傾げるアホ梟。それが梟としての知能の限界なのか? エリナに改造させんぞ、ゴラァ!


「まあ、イイ。プリッつあん。カーレント嬢や夫人たちをプリッシュ号に乗せてやってくれ。下に降りるんでよ」


「わかった~。プリッシュ号を大きくさせるね」


 手段は任せる。


「ミミッチー。代理人もクリエイトはできるのか?」


「どうだろう? 代理人にしたのベーが初めてだからわからない」


 はい、そうですか。なら、試してみろ──とやってみたらできました。イイのか、それで!?


 い、いや、ゆるゆるな設定に文句を言うのも疲れるだけだ。できる。なら、やれだ。


「プリッつあん。その開放扉から出ろ! 但し、勝手に降りるなよ。オレが降りてからだからな!」


「わかった~!」


 その返事を信じるからね。


 ベストを叩いてピータ、ビーダを出て来させる。


「ぴー!」


「びー!」


 なんのようだ、コンニャローとばかりに元気な二匹に鎧を纏うように命令する。


「いろは。一応、武装しておけ」


「畏まりました」


「お、おい、なにがどうなってんだ、説明しろ!」


 と、激オコな公爵どの。あなたもプリッシュ号に乗りなさいよ。バイブラストの最重要人物なんだからさ~。


 と言っても聞くわけもなし。自ら前に出ないと気が済まない質だしな。


「オレの考えるな、感じろが油断するなって言ってんだよ。だから、念のために備えてんのさ」


 このピリピリ感はなんか危険なものがいるときの感じだ。備えなくちゃ怖くて降りられねーよ。


「本当ならオレだけでいきたいんだが、残ってろって言っても無理だろう?」


「当たり前だ! これ以上、なにも知らないでいられるかよ!」


 知らないままでいたほうが幸せなのに、難儀な公爵どのだ。


「だから念には念をで備えてんだよ」


 無限鞄から箱庭で作った結界式輸送飛行艇──カリブオレを出し、伸縮能力でデカくする。


「また、変なのを作ったな」


「必要に追われたんでな。ドレミ、操縦を頼む。皆、乗れ」


 荷台部に乗り込み、ピータとビーダを左右に配置し、後部はいろはに任せた。あと、なぜか乗ろうとしないミミッチーを強制的に乗りました。テメーも道連れじゃ。


「ドレミ。出発だ」


「はい。では出発します」


 箱庭ではドレミに任せていたので、なんの不安もなく任せる。


 カブリオレが浮かび、開放扉に向かい、ゆっくりと降下して行く。


「……高いな……」


 飛空船に乗って高さには慣れているだろうが、この大空間で感じる高さはとても異質に感じることだろうよ。オレも箱庭での経験がなければビビッていたことだろう。


「ドレミ。下は見えるか?」


 操縦席は下も見れるように作ってある。超万能生命体ならなんなく見れるだろうよ。


「はい。瓦礫が大量に見えます。恐らく、この高度から落ちて砕けたのでしょう」


 壊れるのか。ってことは強度にまで能力は及ばないってこと、か?


「なにか危険なものや動くものは見えるか?」


「いえ、危険なものも動くものも見て取れません」


 動かない危険なものもあるが、それならオレの考えるな、感じろが働くはず。今は見えるものに注意だ。


 ゆっくりと降下し、あと三十メートルって感じろのところでカブリオレを停止させる。


「動くものは見えるか?」


 荷台部にいるすべての者に尋ねると、ないと言う答えが返って来た。


 考えるな、感じろはピリピリしてるが、危険とはまだ叫んでいない。奇妙な状況だぜ。


 しばらく辺りを見回すが、まったくもって変化なし。それでも様子を見、三十分を過ぎたくらいでカブリオレを降ろした。


「いろは、なにか感じるか?」


「いえ。生命体の気配どころか、なにも感知できません。ですが、肌がピリピリします」


 超万能生命体からの警告は大事に受け取り、カブリオレから飛び下りた。


 ズボンのポケットから殺戮阿吽を抜き放ち、辺りを伺う。


 一歩踏み出しては警戒。また一歩踏み出しては警戒。カブリオレから二十メートルほど離れてもなにもなし。だが、ピリピリ感はなくならない。


「……気のせいだったのか……?」


 なんてフラグを立ててみたら、動きがありました。って言うか揺れてます。


「ドレミ! 浮上しろ!」


 結界で道を創り出し、カブリオレへと飛び乗った。


「プリッシュ号も浮上しろ! 急げ!」


 振動が段々と強くなり、瓦礫が盛り上がる。そして、現れたのは三十メートルはある黒い球体だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る