第965話 盟約者

「ホケキョ」


「ウグイスかっ!」


 灰色のなにかの鳴き声に思わず突っ込んでしまった。


 いやいやいやあや、見た目、完全に梟だよね? いや、サイズは完全に梟じゃないけど、これが梟じゃなければなんなんだよ!!


「いえ、梟ですがなにか?」


「しゃべれんのかいっ!」


 なんなんだ、このボケ担当みたい梟は!? オレは幻聴と幻覚に襲われてんのか?


「そりゃまあ、梟ですから」


「理由にもなってなければ説明にもなってねーわ! 梟はホーとしか鳴かねーわ!」


「なんの固定観念です、それ? 梟はもっと綺麗に鳴きますよ。ラララァ~って」


 いや、あんた、最初、ホーって鳴いたよね? いや、ホケキョとも鳴いたけどさ。つーか、それは歌ってんだよ!


「……ほんと、なんなのよお前は……」


 カバ子に次ぐ衝撃だよ! ビッグバーン級だよ!


 なんなの、この世界の生き物は? もっと真っ当に進化しろよ。もっと有効に進化しろよ。生命はもっと素晴らしいものじゃなかったのかよ。畜生がっ!


「感情の激しい人ですね」


 それをしゃべる梟に淡々と言われたくないわ。


「……クソ。箱庭で慣れたと思ったのに、バイブラストはどんだけ狂ってんだよ……」


「いや、梟相手にそれだけ突っ込めるあなたのほうが相当狂ってると思いますが」


「そんな冷静な指摘なんていらねーんだよ! なんなんだよ、お前? なんなんだよ……」


「ただの梟ですがなにか?」


 渾身の力で床を殴りつけた。この思い、星の反対側まで届け!


「ちょっと、どうしたのよ? なにがあったの?」


「わたしにはなにがなんだか……」


「デカ!! って、ミモナ梟じゃない。こっちのほうまで飛んで来たのね」


「プ、プリッシュ。知っているのか、これを?」


「こんな大きいのは初めて見たけど、わたしがいたところには沢山いて、いいおしゃべり相手だったわ」


 なにやら納得いかないことを口にする某箱庭出身のメルヘンさん。


「おや。他にも同胞はいましたか。それは朗報です」


「あ、わたし、プリッシュ。よろしくね」


「わたしは、ミミッチーです。よろしくお願いします」


「ミミッチーか。いい名ね」


 オレには悪意しか感じねー名前なんですけど。誰だよ、そんな名前をつけたアホはよ!


「ミミッチーは、ここでなにしてるの?」


 話を進めてくれるのはありがたいが、オレのこのやるせない気持ちはどうしたらイイの? 星、砕いちゃうよ、オレ。


「まあ、番人ですかね」


 人じゃなく梟な。


「ここに? 狭くない?」


「いえ、普段は外にいますよ。こんなところにいたら気が狂っちゃいますって」


 おい。番人設定はどこいった? 九割九分、職場放棄じゃねーかよ!


「誰か来たときはどうするの? 外から来るだけでも大変じゃない」


「まあ、ここ数百年誰も来ませんし、外にいるのでなにかあったらわかりますからね。あと、出かけるときはバイブラストの者以外の者は入れないよう結界を張るから大丈夫」


 防御用じゃなく完全無敵に私的な理由からかぁ~い!


「ミミッチーってなんのためにいるのよ? 別にいなくてもいいんじゃないの」


 完全否定かよ。いや、オレも完全同意だけどよ。


「そうなんだけど、昔の盟約で縛られて遠くにはいけないんだよ。でも、それも今日でお仕舞いのようだ」


 穴だらけの盟約な気がしないでもないが、盟約の内容はちゃんとわかるようになっているらしい。


「はぁ~」


 へっこんだ床から立ち上がり、深いため息を吐いて現実に目を向けることにする。


「あら、復活したようね」


 ハイ。完全復活しました。間を取り持っていただきありがとうございます。


「このカーレント嬢がここを引き継ぐ。以上、終わりです。さようなら!」


 自分でもアッパレと思うくらいのお辞儀をして回れ右。さあ、帰るべ~。


「勝手に終わってんじゃねーよ! 最後まで責任持ちやがれ!」


 なぜかハリセンで殴られた。なんで持ってんだよ!


「オレはプリッシュからもらった」


「わたしはカイナのおじさまからもらいました」


 そんな綺麗な流れなんていらねーんだよ! クソ! 帰ったらカイナに流しちゃる!


「もうイイじゃん。オレ必要ないじゃん。バイブラストのことはバイブラストでなんとかしろよ。梟と決めろよ」


 そもそも、オレはここを見に来ただけじゃん。口出す権利も義務もないじゃん。


「その間に立てよ。お前らと違ってこっちは普通に生きてんだぞ!」


「オレだって普通に生きてるわ!」


「ふざけんな! 普通に謝りやがれ!」


 なんで激怒されて完全否定されんだよ。いや、反論できねー自分はいるがよ……。


「クソ。ミミッチー。カーレント嬢がここに住むことに問題ねーんだよな?」


「バイブラストの血縁者に与えられた場所だし、ミミッチーには断る権限はないよ。ただ、ミミッチーはもう盟約を切るよ。次が来るまでの盟約だったし。もし次、ここを空けるときはカーレントが盟約者を見つけてね」


「盟約者になんか条件とかあんのか?」


「これと言ったものはないよ。ここを継ぐ者が認めた者なら」


 案外緩いんだな。いや、厳しいか。下手したら何百年もここに縛りつけるんだからよ。


「ちなみに、ミミッチーはなんで引き受けたんだ?」


「暖かい寝床と美味しいエサをくれるって言われたから引き受けた」


 やっすい理由……でもねーか。大自然で生きてたら。


「それを捨ててもイイのか?」


「もうエサは自分で獲れるし、寒さ暑さに強くなったから大丈夫。それに、いろんな世界を見てみたい」


 何年生きたか知らんが、そう思うくらいにはここに縛りつけられていたようだ。


「カーレント嬢。それでイイな?」


「はい。バイブラストの女として、この命尽きるまで──いえ、全力で次の者へここを繋げます」


 カーレント嬢にそこまで言わせる理由は……知りたくもねーが、バイブラストの女と言うだけはある。ほんと、バイブラストの血は色あせねーぜ。

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