第960話 長官

 部屋の中をヒュンヒュンと飛び回るプリッシュ号。調整したとは言え、操縦上手いな、このメルヘン。ゼロワン改+キャンピングカーを谷に落としたとは思えねーな。


 あ、ちなみに、ヒュンヒュンって言ってるのは舟の横についてるプロペラね。


「なんでそれでゼロワンの扱いが下手だったんだよ?」


 そう言や、コーレンを操るのさ上手かったよな。


「ゼロワンは扱いがムズいのよ。オートマにしてよ」


 どこでオートマなる言葉を覚えて来たか知らんが、車はマニュアルだろう。オートマなんて邪道だわ。


「いろは、そのドア開けて~」


 門番のように立ついろはが、プリッつあんの言葉に従い、ドアを開けた。


 ……ドレミやいろはの中でどんな命令順ができてんだろうな……?


 まあ、なんでもイイやと、部屋を旅立っていく冒険者を見送った。いってらっしゃ~い。


 イイものを作ったと、ドレミに淹れてもらったコーヒーをいただいた。


 満足感を胸にコーヒーを堪能していると、数分前に旅立っていったプリッシュ号が帰って来た。


 そう言や、昔のアニメにパンダだかタヌキだかが、魔法の車に乗ってるのあったな。プリッつあんは、そんなキャラだよな。


「ベー。お客さんだよ~」


 客? 誰よ?


 プリッシュ号のあとに続いて入って来たのは初老の男と三十半ばの男、そして、十代後半くらいの女だった。


「失礼します。閣下よりベー様のお相手をするよう命じられたバルボと申します。背後のはサナリック、ヨルシェです」


 バルボと名乗った初老の男は、見た目からして高官。眼光の鋭さから言って諜報関係の仕事をしている者だろう。


 どっちがサナリックで、どっちがヨルシェかはわからんが、男のほうは実務。女のほうは活動だろうな。


「長官と課長と班長って感じだな」


 オレの言葉にキョトンとする三人。感情は出すんだ。


「気にしないで。ベーの感性はベーにしかわからないから。あと、今言ったのがあなたたちの名前になったから、素直に受け入れたほうが気が楽よ。ちなみに、上から偉い順だと思う」


 そんな理解力なんて求めちゃいないが、まあ、その通りなのでご納得いただけると幸いです。


「フフ。お噂通りの方ですな。わかりました。今後、そのようにお呼びください」


 ほ~ん。話のわかる長官だ。さすがバイブラストで出世するわけだ。


「ドレミ。お三方にお茶を出してくれ」


 場所をテーブルと移し、プリッシュ号は再び旅立ちました。


「白茶ですか。我々がいただいてもよろしいので?」


「うちでは数百あるうちの一つ。遠慮はいらんよ」


 ついでにどら焼もどうぞ。美味しいよ。


「裕福な村人ですな」


「バイブラストほどじゃねーよ」


 そこら中に宝箱が仕掛けられてるバイブラストには負けるぜ。


「……バイブラストは、恵まれておりますか……?」


「これで恵まれてないのならどこにも裕福な国はねーだろうな。その引きのよさは公爵どのにまで引き継がれんだから参るぜ」


 神に愛された地。そう断言してもイイくらいだ。


「長官は、どこまでの権限を持ってるんだ?」


「閣下にベー様にかかわる全権をいただきました」


 そりゃ思い切ったことをする。権力使い放題じゃねーか。


「なら、スラムを調べてもらえるかい? 人の流れ、物の流れ、その暮らし、こと細かくにな。ただし、権力は使わず、スラムの住人の目線に立ってな」


 そんなことできるヤツがいるか知らんが、いないのなら今から育てたほうがイイぜ。


「ベー様は、それでバイブラストのよさがわかったのですか?」


「まあ、それ以上に見えるときがあるのが困りものだがな」


 得になるとは言え、問題もついて来るから参るぜ。


「オレがバイブラストがスゴいと思うのは、その自然の豊かさだな。冬が長いのに植物の種類がとにかく多い。エクルセプルの材料の半分がバイブラストで採取できやがるのさ」


 その言葉に三方が息を飲んだ。


 その驚き具合からしてエクルセプルの話は聞いているようだな。


「なるほど。相当公爵どのから信頼されてんだな」


 ……右腕とか懐刀って位置にいるな、この長官さんは……。


「そう、でしたな……」


 なにやら深いため息を吐く長官さん。どったの?


「自分が相手を見ているとき、相手も自分を見ている。基礎の基礎を忘れるとか、わたしも老けたものです」


「まあ、そんなに卑下することもねーさ。そのために三人で来たんだろう。オレの目を自分に集めるためによ」


 そのくらい計算できないタイプとは思えないし、相手の思考を読むのに長けた天才だろう。まさに闇で蠢く者だ、この長官さんはよ。


「……閣下は宰相にしたいと申してましたが、わたしは間者にしたいものです。ベー様なら大抵のことは裏で処理してしまうことでしょうよ」


 まあ、どちらかと言えば得意な分野だろうな。やる気はねーけどよ。


 肩で笑う長官。この人は、悪戯っ子タイプだな。


「──失礼。ベー様のご忠告、ありがたく胸に刻まさせていただきます」


 イイよね、こう言う一を聞いて百を想像できる人って。オレの代わりに暗躍してもらいたいぜ。

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