第951話 シューさん
「ちょっと、今のはなによ?! なにがどうなってるのよ!?」
頭の上で暴れるメルヘン。うっさいなー。
「空鯨のブルーヴィだよ」
「省略しすぎ! わかるように説明しなさいよ!」
「メンドクセーな。知りたきゃ勝手に見て来いよ。ブルーヴィの頭付近に艦橋があるからよ」
ブルーヴィは己の意志で動くが、爪も牙もない生き物。攻撃手段や防御力はないに等しい。なんで、エリナが砲塔を創り、オレはヘキサゴン結界で防御力を上昇させたのだ。
「艦橋? 確か操縦したりするところよね? ってことは誰かいるの?」
「ああ。黒羽妖精がな」
あの種族、見た目はメルヘンだが、ガチの戦闘種族だと思う。考えることが物騒だもん。
……頭の上のメルヘンさんも過激と言えば過激だが、アレを見たらかなり特異な存在ってわかるよな……。
「黒羽? なんなの、それ?」
ん? プリッつあんは知らんのか?
「読んで字の如し。羽が黒いんで黒羽妖精って呼ばれてるらしいぜ」
ほんと、誰が命名したんだ? まんま過ぎんだろう。
「ベーが連れて来たの?」
なにか、責めるような目を向けるメルヘンさん。なんでだよ?
「無理矢理ついて来られたんだよ。狭い世界はもう嫌だってな」
一国くらいある空間で狭いもねーと思うんだが、変化もない日々は想像しても嫌なもの。好きに飛び出せと言ったのに、なぜかオレのあとに続いて来たのだ。
ついて来んなと必死に拒んだが、戦闘種族のクセに妙に慎重なヤツらで、慣れるまでは一緒にいさせろとまったく引かなかった。
これ以上、周りにまとわりつかれたら堪ったもんじゃないんで、ブルーヴィの乗組員(?)にさせたのだ。ブルーヴィも一人(匹か?)じゃ可哀想だったしな。
「……まあ、いいわ……」
なにがイイのか知らんが、まあ、気にしないのが吉だろう。サラッと流せだ。
許し(?)が出たので、バイブラストへと転移バッチに手をかけたところで気がついた。転移結界扉の前にあんちゃんや親父殿と言った野次馬がいることに。
……あれ? 時間が進んでねーのか……?
そんな仕様にした覚えがねーんだが、入る前の光景がそこにあった。
「……なに、いったい……?」
「いや、お前のことだから心臓に悪いことなんだろうと思って、出て来るのを待ってた」
はぁ? なに言ってんだ、あんちゃんは?
「あー! わたしたちを生け贄にしたのねー!」
プリッつあんがあんちゃんに飛びかかった。
「いや、ベーの行動に動じないのプリッシュだけだし、おれら守るものがあるし」
「わたしにだって動じたし、守るものがあるわよ!」
少なくともこの中で心臓が強いのは君だと思うよ。
和気藹々なプリッつあんとあんちゃん。クッ。なんか嫉妬──しねーよ。そのままあんちゃんの頭にパイル○ーオンしやがれ。オレは行くぞ。
転移バッチ発動。地竜へ!
と、プリッつあんを放置して転移した。ちなみにミタさんはしっかりオレの肩に手を置いてました。
転移バッチの優秀なところは、場所を認識できてれば移動していても転移できるところだな。
なに事もなく地竜の背、城の城門辺りに現れた。
……そして、出現地点を補正してくれるのも助かるぜ……。
カイナーズによる改造は始まっているようで、たくさんの魔族が働いていた。
わざわざオレに敬礼していくカイナーズの連中に応えながら城門を潜り、地竜の管理人……なんつたっけ? あの竜人さん?
「シュヴエルです」
あ、うんうん。そんな名前でした……け? まったく記憶にないでござる。
「おう、久しぶり」
なんか半年振りな感じがするぜ。
「わたしには一瞬より短い時間です」
あ、うん。悠久のときを生きる方ですもんね。
「急に来てワリーが、ここに転移扉を設置するな。あと、これもな」
収納鞄からバレーボールサイズの箱庭を取り出した。
箱庭の中では一番小さいもので、森がメインのものだった。
「フュワール・レワロとは、まだあったのですね」
「知ってるのかい?」
悠久のときを生きてるから知ってても不思議じゃねーが、昔は有名なものだったのか?
「アリュアーナにもありました」
過去形か。まあ、地竜の背に都市を築こうってんだ、そんな事実があっても不思議じゃねーか。
「なら、置いても構わねーよな」
「はい。その石碑の上に置いてもらえると助かります。そこが設置場所なので」
と言うので石碑の上に置くと、不思議な力で固定された。
「使用方法はわかるのか?」
「はい。管理はこちらで行います」
なら任せた。大事に扱ってくれや。
転移結界扉も近くに設置する。ここにとシュ……シューさんでイイや。
「落ち着いたらまた来るわ」
「あ、申し訳ありませんが、それを片付けていただけませんでしょうか? 皆様方の邪魔になるもので」
シューさんが指差す方向を見ると、なんか悶える女がいた。誰よ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます