第947話 お引っ越し
そう言ったら、食堂の時間が止まった。
ってのは言い過ぎだが、皆がびっくりあぽん(驚きと唖然とした感じね)。全員がオレに目を向けていた。
「……ど、どう言うことだ……?」
親父殿が一番に復活して、震えながら訊いて来た。覚悟はどうしたよ?
「そのままの意味だよ。オレは館を出る。空いた部屋は、そこの三兄弟と茶色の生き物に譲るよ」
二階あるから一階を男どもに。二階は妹にやればイイだろう。茶猫は……まあ、テキトーに丸まっておけ。
「いや、なんでだよ! お前、一生村人だと抜かしてだろうが!」
「別に館を出たからって村人をやめるつもりはねーよ。生涯オレはボブラ村の一員で親父殿やオカンの息子だよ」
そこはなにがあっても譲らねーぞ。
「……あ、いや、ちょっと待て。つまり、どう言うことだ……?」
こみかみをグリグリしながら脳内で整理する親父殿。オレ、そう難しいこと言ってるか?
「館は出るけど、村にはいるってこと?」
プリッつあんが簡素な答えを出した。
「ああ、そうだよ。まあ、別宅って感じか? いろいろ出歩いてるし、帰って来るのも不規則だし、館の中をバタバタさせるのもワリーしな」
つーか、いちいちメイドに出迎えられるのも邪魔クセーんだよ。他人の家に帰って来た気分になるわ。
「……いや、お前の家なんだからなにも気を使うこともねーだろうが……」
「別に気を使ってるわけじゃねーよ。これはオレの我が儘だ」
自業自得。ああ、まったくその通り。反論の余地もねー。だが、オレはオレのために生きている。なら、身勝手だろうが無責任だろうが、思うがままに生きて、オレが住みやすいようにするまでだ。
「け、けどよ……」
「納得いかねーのもわかる。追い出した気になるんだろう」
頷きはしないが、その表情が肯定している。
「気にするな、と言っても気にするだろうが、もうここは親父殿とオカンの家だ。二人が決めて二人で築いていけ。子はいずれ旅立つもんなんだからよ」
まあ、旅立つっても敷地内ですけどネ。
「旦那様。ベーの好きにさせてやってください。ベーは住むところに変な拘りをみせる子なんですから」
さすがオカン。わかってらっしゃる。
「シャ、シャニラがそう言うなら……」
「まあ、そう言うこった」
了解が得られてなにより。ケンカ別れじゃ今後気まづいしな。
「ミタさん。部屋の荷物を出したら、三兄弟の希望を訊いて部屋を整えてくれや」
「畏まりました」
よっこらしょと立ち上がり、久しぶりの自分の部屋へと向かった。
つーか、オレ、うちに帰って来たの何日振りだ? 部屋に入るなり、なんか久しぶりって思っちまったわ。
「ぎゅっと縮めたら一月も住んでねーかもな」
久しぶりとは思っても愛着はそれほど感じない。まあ、元々自分の部屋なんて使ってなかったしな。
身の回りのものはトランクケースに収まる程度。あとは、薬師としての仕事道具や材料、工作道具に作りかけの道具などを無限鞄に詰め込んで行く。
「ベッドは残しておくか」
シーツなどは毎日取り替えているようだし、今度はもうちょっとこじんまりとしたベッドにしたい。つーか、今度は畳にして炬燵とか作るか。寝るところに拘りはねーしな。
こんなものかとサッパリした部屋の中を見回してたら、プリッつあんが、自分の家……と言うかテリトリーのものを無限鞄に仕舞っていた。
「プリッつあんは、ここにいてもイイんだぞ」
そこ、気に入ってたんじゃなかったのか?
「ベーがいくならわたしもいく」
なにやら意志は固いようだ。まっ、好きにしな、だ。
「ベー様。わたしもついてついていきますので、少し待っててください」
と言って、ミタさんが部屋を出ていってしまった。
「同じ敷地内なんだがな」
「ベーは、同じ場所にいたって突然いなくなるじゃない。専属メイドとしたらたまったものじゃないわよ」
オレとしては必要なときにいてくれたらそれでイイんだがな。
……まあ、必要なときにいなくてもなんとかするがよ……。
「いいじゃない。どうせミタレッティーやメイドがついて来ることも折り込み済みなんでしょう」
なんでこのメルヘンさんはオレの考えがわかるのだろう。オレはメルヘンの考え、まったくわからんのによ……。
反論したいが、まったくその通りなので、ミタさんが来るまでマンダムタイムと行きましょう。
あ~コーヒーうめ~。
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