第939話 黒と白
「はぁ~。ダンジョンと来たか」
それはエリナのところでお腹いっぱいなんだがな……。
「ダンジョンと言ってもゲームのようにモンスターやレベルアップするところではなく、シェルターを兼ねた地下都市のようでござる」
まあ、モンスターを倒したら経験値と金が得られる世界なんてゲームの中でのこと。リアルにあったら世界の常識やなんやらの均衡が崩れるわ。
「ダンジョンには誰か住んでんのか?」
骸骨嬢に尋ねる。
「人は住んでませんが、守護兵がたくさんいますね」
いないと言うことは、シェルターとしての役目を終えたか、都市としての機能を失ったか、平和的な理由だとイイんだがな……。
「守護兵ってのは、なんだい? 動く鎧とかか?」
骸骨兵だったらまんまダンジョンだな。
「いえ、黒羽妖精です」
うん? なんだって?
「黒羽妖精ですよ」
ハイ、こんなとき頼りのレイコさん。出番だよ!
「……そんな嫌な信頼、迷惑極まりないですが、たぶん、羽妖精の亜種か古種かもしれません。ちなみにプリッシュ様の正式種族名は白羽妖精です」
黒とか白とか、まんまな種族名だな。つーか、誰が正式って決めたんだよ? そっちのほうが気になるわ!
「こうなると羽妖精のお伽噺も真実味が出て来るな」
だからなんだって話だが、バイブラストがどうして呪われたようなできごとが続くかの原因はわかった。
「もしかして、そのタコもダンジョンにいたヤツか?」
「パリアンヌは、ここに卵としていました。わたしが温めて孵化させたんですよ」
自慢気に言う骸骨嬢。それは、どうやってだよ! って突っ込み待ちか? それなら全力でスルーさせていただきますネ。
「その他のも卵からか?」
「はい。やることがないので全部温めました。もうわたしの子も同然です」
あ、うん、そっ。そんな親子のあり方もイイんじゃないかな。オレは賛同はしないけど。
「にしては、パリアンヌだけ大きいな。なに食うの?」
デカい牙ネズミでもいんのか?
「パリアンヌはなんでも食べますが、特に好んで食べるのはワカメですね」
はん? なんだって? なんか森と湖なバイブラストからかけ離れた単語に聞こえたんだが。
「ワカメです。ダンジョンの海で採れたものを黒羽妖精が乾燥させて持って来てくれるんですよ~」
ごめん。その光景がまったく想像できねー。ってか、守護はどうした!?
「しかし、ダンジョンに海とはね。シェルターやダンジョンってより方舟だな」
これはオレの勝手な想像だが、海があるなら陸もあるってことで、自然を模様して造った感がある。
つまり、ダンジョン内で生命のサイクルがあるってことだ。そんな大がかりなことをするには必ず理由があるはず。
シェルター的な地下都市。それだけでも過去に種が滅びそうなときがあったってことでもある。
「……天地崩壊、ですね……」
宗教典によくある物語で、世界は何度か滅んで、神により復活したかんとか、な。
「本当にあったんだな」
「わたしもお伽噺かと思ってましたが、キャロリーヌさんの話を聞く限り、本当にあったと見るべきでしょうね」
歴史家じゃないんで興奮はしないが、その手の話を集めてみるのもおもしろいかもな。
「話を戻すが、こいつはお前のようにダンジョンマスターってことになるのか?」
いまいちダンジョンマスターがなんなのか理解してねーがよ。
「ある意味ではそうでござるな。ただ、拙者と違って、核がこの要石とやらで、ここから動けないでござる」
「……つまり、お前は規格外ってことな……」
あらゆる意味においてよ。
「まあ、こいつがなんであるかはだいたい理解できた」
納得はできてねーがな。
「こいつがここにいられるようにするのは、多分、大丈夫な気がする」
「なぜでござるか?」
「これも多分だが、公爵どのは、領都の下になにがあるかは知っているはずだ」
これだけのものをまったく知らねーってことのほうが不自然で、なんらかの情報は受け継がれているからこそ、ここの秘密が守られていると考えるほうが自然だ。
前々から疑問に思ってたのだ。大した特産や生産力が他の公爵領より乏しいのに、上位公爵の地位にいる。
親しき仲にも礼儀ありと、そのことはあえて考えなかったが、ここを知った以上、正解な情報は得ておくべきたろう。
「ただ、公爵どのもこいつがいることは知らないだろう。知ってたら呑気に飛空船に乗っていられねーからな」
知っててあれだけのことしてたら友達付き合い止めるわ。どんだけ厚顔無恥なんだって話だ。
「オレがダンジョンに入ることは可能かい?」
興味はあるが、ダメならダメで諦めるが。つーか、ダメであって欲しい。断る理由になるからよ。
そんな希望を見せるほどオレの運命は優しくないようで、なんか骸骨嬢が笑ったように見えた。
「はい。喜んで!」
居酒屋か! って突っ込みを入れる気力もねーわ。はぁ~。
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