第938話 フュワール・レワロ

「そもそも、なんでここから動けねーんだよ?」


 まずはそこから始めねーど、オレの案など絵に描いた餅。失敗するに決まっている。


「キャロの話、まったく聞いてなかったでござるな」


「はい。まったく聞いていませんでした」


 なにが楽しくて骸骨嬢の話なんて聞かなくちゃならんのだ。いや、聞いたのオレだけどよ。


「つーか、なんでお前が会話の内容を知ってんだよ?」


 その口振りからしてまた覗いていやがったな。


「え、えーと、あれでござる。なんと言うか、その、すまんでござる! ドレミからの報告が気になっての覗いてました!」


「──マスター、申し訳ありません。わたしの独断です」


 メイド型(小)のドレミが頭を下げた。


「こいつが、それを受け入れた時点でアウトなんだよ」


 イイ関係を続けたいのなら親しき仲にも礼儀あり、だ。


「オレがお前に協力してるのは、あくまでもバンベルとの友義からだ。お前のためじゃねー」


 いくら友達の頼みとは言え、オレの害となるならバッサリと切る覚悟はある。恨まれようが敵に回ろうが、今生は自分のために決めたのだ。


「……すまんでござる……」


 二度とするなとは言わない。したいのならやればイイ。それを決めるのはエリナ。オレが口出すことじゃねー。


「そんで、どう言うことなんだ?」


「……キャロは、この土地に縛られているござる」


 ハイ、説明プリーズだよレイコさん。


 汚物に説明を求めたオレが悪い。わかる人(幽霊)からわかるように説明されたほうが話がスムーズに行くってものだ。


「理由はわかりませんが、キャロリーヌさんは、ここにあった石碑らしきものに触れたら、この場に固定されたようです」


 うん。まったくわかりません。


「これは、わたしの憶測、いえ、妄想に近いものですが、石碑とは要石で、ここの精神制御体に組み込まれたかもしれません」


 益々もってチンプンカンプンですがな。


「シュヴエルさんを覚えてますか? 古竜にいた竜人を」


 名前は忘れたが、姿と存在は記憶してますと頷く。


「わたしは、キャロリーヌさんは、シュヴエルさんと同じ……いえ、それに近い存在になったのだと思います。天井を見てください。あの模様、古竜で見た模様と似てませんか?」


 言われ見上げれば、まあ、似てもいなくはない。だが、それだけでは理由にはなるまい。


「もちろん、模様だけではありません。ここは、魔力、霊力に満ちてますし、造りが数百年前のものにしては技術が高過ぎます。石になんらかの塗料が塗られています」


 確かに言われてみれば真新しい造りだな。欠けたところもない。このリビング島も……って、これか、石碑だが要石とかは?


「でしょうね。絨毯やテーブルでわたしも気がつくのが遅れましたが」


 やけにツルツルしてるなとはオレも思ってた。骸骨嬢の衝撃ですぐに頭の中から吹き飛んだけどよ。


「引き離す、ってことは無理なのかい?」


「たぶん、無理でしょう。キャロリーヌさんは精神制御体の一部になってますから」


「……不思議現象は厄介だな……」


 自分に関係なければスルーするところだが、自分に関係あるとなるとスルーもできなくなる。が、そこをスルーするのがオレ、ヴィベルファクフィニーである。


 ハイ、サラリとスルーさせていただきます。


「まさかとは思うが、この下に竜がいるとかはねーよな?」


「竜はいません」


 なにか含みのある言い方だな。


「じゃあ、なにがいるんだい?」


「いる、と言うよりは、あると言うべきですね」


 厄介度、スーパーマックス上昇中だな……。


「わたしの予想では、フュワール・レワロがあります。前に一度見たものと酷似してますから」


 フュワールは知らんが、レワロは聞いたことがある。何千年も前に滅びた国の言葉で、確か、都市だか街と訳されるはずだ。


「フュワール・レワロ。今の言葉に直せば地下都市。ですが、わたしは、迷宮住と呼んでます」


 つまり、オレ流にわけすと、だ。


 ダンジョンとマンションって似てるよね! って感じだな……。 

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